はじめてのデザイン思考ワークショップ 終了後のクライアント提案と継続案件化ガイド
デザイン思考ワークショップは、クライアントの課題解決や新規事業開発を支援する強力な手段となります。フリーランスの研修講師やコンサルタントとして、一度ワークショップを提供した後に、その成果を活かして次のビジネスへと繋げていくことは、事業の安定化や拡大のために非常に重要です。この記事では、デザイン思考ワークショップを単発のサービスに留めず、継続的なクライアントとの関係構築や新たな案件獲得に繋げるための実践的なステップとポイントを解説します。
なぜワークショップを次のビジネスにつなげることが重要か
デザイン思考ワークショップは、特定の課題に対して短期間で集中的に取り組む形式が一般的です。しかし、真の成果はワークショップの中だけでなく、そこで生まれたアイデアやインサイトがその後の行動にどう繋がるかにかかっています。クライアントにとっても、投資した時間や費用が無駄にならないよう、ワークショップの成果を継続的に活用していきたいと考えています。
講師・コンサルタントの視点では、ワークショップを次のビジネスにつなげることで、以下のようなメリットが得られます。
- 顧客生涯価値(LTV)の向上: 単発の取引で終わらず、継続的なサービス提供に繋げることで、一顧客あたりの収益が増加します。
- 信頼関係の深化: ワークショップでの成功体験を共有することで、クライアントとの信頼関係が構築され、長期的なパートナーシップに発展しやすくなります。
- 新たなビジネス機会の創出: ワークショップを通じてクライアントの潜在的な課題やニーズを深く理解することで、新たなサービス提案の機会が生まれます。
- 効率的な営業活動: 既存のクライアントに対する提案は、新規顧客獲得よりも時間やコストがかからない傾向があります。
ワークショップ設計段階で「次」を意識する
ワークショップを「次」につなげるための準備は、実はワークショップが始まる前から始まっています。企画・設計段階で以下の点を考慮に入れることが重要です。
- クライアントの長期的な目標・課題の把握: ワークショップで解決しようとしている目先の課題だけでなく、クライアント企業全体のビジョンや、その部署・チームが抱える長期的な目標や課題を深く理解しておくことが、将来的な提案の土台となります。ヒアリングの段階で、現在の課題の背景にあるより大きな文脈について質問を投げかけてみてください。
- 成果物の設計: ワークショップで生み出される成果物(アイデアリスト、プロトタイプの定義、ユーザーインサイトの整理など)が、その後のステップにどう繋がるかを意識して設計します。例えば、プロトタイプを作成するセッションであれば、「このプロトタイプをどう検証していくか」「検証結果をどう次のステップに活かすか」といった議論を自然に促せるようなワークフローや問いを設定します。
- 次のステップを示唆する要素の組み込み: ワークショップのアジェンダの中に、意図的に「今後、検討が必要となる点」や「今回深掘りできなかったが重要な問い」といった項目を設けることも有効です。これにより、参加者はワークショップ後にも取り組むべきことがあると認識しやすくなります。
ワークショップ実施中に「次」への伏線を張る
ワークショップの進行中も、将来的なビジネスにつなげるためのチャンスは多くあります。
- 参加者の反応や発言の観察: 参加者から「このアイデアはもっと深掘りしたい」「この点は私たちの部署だけでは決められない」といった発言があった場合、それは今後のサポートの可能性を示唆しているかもしれません。メモを取り、ワークショップ後のフォローアップや提案に活かしましょう。
- 課題やインサイトの言語化のサポート: 参加者自身が、ワークショップを通じて明らかになった課題や重要なインサイトを明確な言葉で表現できるようファシリテーションします。この言語化された成果は、後々の提案活動において強力な根拠となります。
- 次なるステップに関する軽い言及: ワークショップの最後に、「今回生まれたアイデアを検証するためには、どのようなデータが必要になるでしょうか」「プロトタイプを実際に使うユーザーを見つけるにはどうすれば良いでしょうか」といった問いを投げかけ、自然な形で次のステップについて参加者に考えてもらう時間を作ることも有効です。ただし、これはあくまで示唆に留め、過度な売り込みにならないよう注意が必要です。
ワークショップ終了直後のフォローアップ戦略
ワークショップが終了したら、迅速かつ質の高いフォローアップを行います。
- 成果報告書の迅速な提出: ワークショップで生まれたアイデア、インサイト、決定事項などをまとめた成果報告書を、できるだけ早く提出します。単なる議事録ではなく、写真や図解などを活用し、視覚的に分かりやすく、参加者のモチベーションが維持されるような工夫を凝らします。報告書の中で、ワークショップ中に見られた参加者のポジティブな変化や、特に注目すべきインサイトに触れることも効果的です。
- 次のステップに関する簡易的な示唆: 成果報告書の中で、「今回特定されたユーザーニーズに基づき、MVP(実用最小限の製品)開発を検討する」「アイデアAとBを簡易的にテストするための企画を行う」といった、考えられる次のステップの選択肢を、あくまで参考情報として提示します。これにより、クライアントはワークショップの成果をどう活かすかを具体的に考えやすくなります。
- 感謝と短いフィードバックの依頼: クライアント担当者や参加者に感謝の意を伝え、ワークショップ全体に関する短いフィードバックを依頼します。これにより、今後のサービス改善に役立てるだけでなく、コミュニケーションの機会を維持し、信頼関係を深めることができます。
具体的な次なる提案の切り口
フォローアップを通じてクライアントの反応を見ながら、具体的な次なる提案を検討します。考えられる提案の切り口は多岐にわたります。
- ワークショップで特定された課題の解決支援: ワークショップで明確になった特定の課題(例:特定のユーザー層へのアプローチ方法、社内連携の課題)に対して、具体的なソリューションを提供するコンサルティングや別の形式のワークショップを提案します。
- プロトタイプの実装・検証支援: ワークショップで生まれたプロトタイプの更なる洗練、実装、またはユーザーテストの企画・実行を支援するプロジェクトを提案します。
- デザイン思考プロセスの継続: 今回実施したフェーズ(例:共感・定義)に続く次のフェーズ(例:アイデア創出、プロトタイプ、テスト)のワークショップや、一連のプロセス全体を伴走する長期的なプログラムを提案します。
- 関連領域のコンサルティング: ワークショップで得られたインサイトを基に、新規事業戦略、組織文化変革、顧客体験(CX)向上といった、デザイン思考と関連性の高い領域でのコンサルティングサービスを提案します。
- 社内実践者の育成: ワークショップを通じてデザイン思考に関心を持った参加者に対して、より実践的なスキルを習得するための研修やコーチングプログラムを提案します。
提案書を作成する際は、ワークショップでの具体的な成果(参加者の声、生まれたアイデア、プロトタイプの写真など)を盛り込み、次に何をすることでどのような成果が期待できるのかを明確に示します。クライアントが提案を受け入れることで得られる費用対効果や、リスクについても触れると、より信頼性が高まります。
継続的な関係構築の方法
一度のワークショップやその後のプロジェクトだけでなく、継続的にクライアントとの良好な関係を維持することが、将来的な更なるビジネスにつながります。
- 定期的な情報提供: デザイン思考や関連分野に関する最新情報、事例、自身の活動に関するニュースレターなどを定期的に提供します。
- 勉強会や交流会の提案: クライアント社内でデザイン思考の理解を深めるための勉強会や、他のクライアントとの交流会などを企画・提案することも有効です。
- カジュアルな意見交換の機会設定: 定期的にクライアント担当者と短いオンラインミーティングなどを設定し、近況や新たな課題について情報交換する機会を持つことも大切です。
まとめ
デザイン思考ワークショップは、単発の研修やイベントとしてだけでなく、クライアントとの継続的な関係を構築し、新たなビジネスを生み出すための重要な起点となり得ます。ワークショップの企画段階から「次」への繋がりを意識し、実施中は参加者の声に耳を傾け、終了後は迅速かつ質の高いフォローアップを行うことが成功の鍵です。ワークショップで得られた成果を最大限に活用し、クライアントの真の課題解決に貢献する提案を行うことで、信頼されるパートナーとしての地位を確立し、持続可能なビジネスへと繋げていくことができるでしょう。
まずは、これまでのワークショップを振り返り、どのような点で「次」への可能性を見出せるか、あるいは見逃していたかを確認することから始めてみてはいかがでしょうか。