はじめてのデザイン思考ワークショップ 参加者の「学びっぱなし」を防ぎ、実務での継続活用を促す方法
デザイン思考ワークショップの企画・実施に挑戦されるフリーランスの研修講師・コンサルタントの皆様、こんにちは。
皆様が提供されるワークショップは、参加者に新たな視点や発想、そして課題解決に向けた具体的なアプローチを体感してもらう貴重な機会となります。しかし、ワークショップ後の現場で、その学びやアイデアが活かされず、「学びっぱなし」で終わってしまうという懸念を抱かれている方もいらっしゃるかもしれません。
参加者がワークショップでの経験を実務に持ち帰り、継続的に活用できるようになることは、参加者自身の成長はもちろん、クライアント組織への具体的な貢献、そして講師である皆様への信頼へと繋がる重要な要素です。本記事では、「学びっぱなし」を防ぎ、ワークショップでの経験を実務での継続活用に繋げるための設計とファシリテーションのポイントについて解説します。
なぜ「学びっぱなし」になるのか
デザイン思考ワークショップが「学びっぱなし」になってしまう背景には、いくつかの要因が考えられます。
- 目的の不明確さ: ワークショップの目的が「デザイン思考を学ぶこと」自体に終始し、「学んだことをどう活かすか」まで設計に盛り込まれていない場合。
- アウトプットの抽象性: 出されたアイデアやプランが抽象的すぎて、現場で誰が何をすればよいかが不明確な場合。
- 時間的制約: 短時間のワークショップでは、実践や具体的な行動計画の検討まで十分に時間が取れない場合。
- 組織文化: ワークショップで得られた新しいアプローチやアイデアを受け入れ、推進する土壌が組織にない場合。
- フォローアップの不足: ワークショップ終了後に、学びを定着させたり、実践をサポートしたりする機会がない場合。
これらの要因を踏まえ、ワークショップの設計段階から「継続活用」を意識することが非常に重要です。
ワークショップ設計で「継続活用」を意識するポイント
1. 明確なアウトカム設定
ワークショップの開始段階で、参加者に「ワークショップを通じて何を達成し、それを現場でどう活かせるようになるか」という具体的なアウトカムを明確に伝え、共有します。単に「デザイン思考のプロセスを学ぶ」だけでなく、「このプロセスを使って、自社の〇〇という課題に対して△△のようなアプローチができるようになる」といった具体的な目標を設定します。
クライアントとの事前打ち合わせの段階で、ワークショップが最終的にどのようなビジネス成果に繋がることを期待されているのかを深く理解し、その期待値に合わせてアウトカムを設定することが肝要です。
2. 終了後の活用シーンを想定したワークデザイン
ワークショップ中の各ワークやアクティビティが、参加者の実務とどのように関連し、終了後にどのように活かせるのかを意識して設計します。例えば、共感フェーズで顧客インサイトを深く理解するスキルを習得したら、それを自社顧客へのヒアリングや観察にどう活かせるか、アイデア創出の手法を学んだら、それを普段のブレインストーミングや企画会議にどう応用できるか、といった具体的なイメージが湧くような問いや事例を盛り込みます。
3. 具体的なアクションプラン作成の組み込み
ワークショップの終盤に、参加者が「ワークショップで得た学びやアイデアを、明日から自分の現場でどう活かすか」という具体的なアクションプランを考える時間を設けます。個人またはチームで、「いつまでに」「誰が」「何を」「どのように行うか」を具体的に書き出し、発表・共有する機会を作ることで、実行への意識を高めることができます。
4. クライアントとの連携と期待値共有
ワークショップの企画段階で、クライアントに対して、単発の研修で終わらせず、ワークショップで生まれたアイデアや学びを組織内で継続的に活かしていくことの重要性を伝えます。必要であれば、終了後のフォローアップセッションや、社内での実践をサポートする仕組みづくりについても提案し、協力体制を構築することを検討します。
ファシリテーションで「継続活用」を促すコツ
1. ワークの意図と実務への繋がりを繰り返し伝える
ワークショップ中に、今行っているワークがデザイン思考プロセスの中でどのような意味を持つのか、そしてそれが参加者の実務での課題解決や新しい価値創造にどう繋がるのかを、適宜、具体例を交えながら繰り返し伝えます。参加者が「やらされ感」ではなく、「これを学ぶことで自分たちの仕事がどう変わるか」という目的意識を持てるよう促します。
2. 抽象的な議論を具体的な行動レベルに落とし込む
アイデア出しやコンセプト検討のフェーズでは、出されたアウトプットが抽象的な概念に留まらないよう、具体的な行動や、顧客/ユーザーにとっての具体的な体験として表現することを促します。例えば、「もっと顧客中心に考えるべきだ」という意見が出たら、「顧客中心に考えるとは、具体的にどのような行動を指すのか？」「その行動によって、顧客はどのような変化を体験するのか？」といった問いかけを行い、より具体的なレベルでの議論を深めます。
3. 「持ち帰ってすぐできること」を意識づける
ワークショップの中で生まれたアイデアや学びの中から、参加者が一人またはチームとして、ワークショップ終了後すぐにでも始められる小さなアクションを見つけ出すよう促します。「まずは来週、同僚と30分話してみる」「顧客に簡単なアンケートを取ってみる」「プロトタイプのラフスケッチを書いてみる」など、ハードルの低い具体的な一歩を設定することで、実行への抵抗感を減らします。
4. チーム内での相互サポート体制の構築を促す
チームでワークを行う場合は、ワークショップ終了後もチームメンバー同士が学びを共有し、実践をサポートし合えるような関係性を作ることを促します。連絡先の交換や、今後の簡単なミーティング設定などをワークショップの中で行うよう提案することも有効です。
5. 継続的な実践へのヒントを提供する
ワークショップの最後に、デザイン思考を継続的に実践するためのヒントやリソースを紹介します。例えば、関連書籍、オンラインコミュニティ、継続学習の機会、あるいは社内での実践を支援するツールやフレームワークなどです。これにより、参加者がワークショップ後も自律的に学びや実践を続けられるよう後押しします。
まとめ
デザイン思考ワークショップを単なるイベントで終わらせず、参加者の実務での継続的な学びや成果に繋げるためには、ワークショップの設計段階から「学びをどう活かすか」を意識し、実施中のファシリテーションでそれを具体的に後押しすることが不可欠です。
明確なアウトカム設定、終了後の活用を見据えたワークデザイン、具体的なアクションプラン作成の組み込み、そしてクライアントとの密な連携が、設計段階での重要なポイントです。実施中は、ワークの意図と実務への繋がりを丁寧に伝え、抽象的な議論を具体的な行動に落とし込み、「持ち帰ってすぐできること」を促すファシリテーションが効果的です。
これらの工夫を通じて、参加者がワークショップでの経験を自身の成長と組織への貢献に繋げられるよう支援することは、フリーランス講師・コンサルタントとしての皆様の提供価値を最大化し、クライアントからの信頼獲得、ひいては継続的なビジネス機会の創出に繋がるでしょう。
ぜひ、次回のワークショップ企画・実施の際に、これらのポイントを参考にしていただければ幸いです。