はじめてのデザイン思考ワークショップ 成果を具体的なアクションにつなげるアウトプット設計ガイド
デザイン思考ワークショップを企画・提供されるフリーランスの研修講師やコンサルタントの皆様にとって、ワークショップの成果をいかに参加者の実務での「具体的な行動」につなげるかは、提供価値を大きく左右する重要な課題です。参加者がワークショップで多くの気づきやアイデアを得たとしても、それが日々の業務における行動変容や新しい取り組みにつながらなければ、単なる「学びっぱなし」に終わってしまう可能性があります。
この記事では、デザイン思考ワークショップの設計段階から、参加者の成果を具体的なアクションへと結びつけるためのアウトプット設計の考え方と、各フェーズで実践できる具体的な手法について解説します。
なぜワークショップの成果が行動につながらないのか
参加者がワークショップで得た成果を行動に移せない背景には、いくつかの要因が考えられます。
- アクションへの変換プロセスの不足: アイデアやインサイトは得られたものの、それを具体的な「いつ、何を、どうするか」という行動レベルに落とし込むステップがワークショップ内に含まれていない。
- アウトプット形式の問題: ワークショップ中に作成された資料(模造紙、ポストイット、デジタルホワイトボードなど)が、後で見返した際に「アクションリスト」として機能しにくい形式になっている。
- 主体性の不足: アクション設定がファシリテーター主導になりすぎたり、個人やチームが「自分ごと」として捉え、実行責任を明確に設定する機会が設けられていない。
- フォローアップの欠如: ワークショップ終了後に、設定したアクションを確認したり、進捗を共有したりする仕組みがない。
これらの課題を克服するためには、ワークショップの設計段階から「成果をアクションにつなげる」という視点を持つことが不可欠です。
成果を具体的なアクションにつなげるための設計原則
ワークショップ設計において、成果をアクションにつなげるために考慮すべき基本原則は以下の通りです。
- ワークショップの最終的な目的を「具体的な行動」に置く: 単にアイデアを出すことやプロトタイプを作ることだけを目的とせず、「ワークショップ終了後に参加者がどのような行動を開始できるようになるか」を具体的な成果目標として設定します。
- 各フェーズのアウトプットを「次フェーズへの入力」かつ「アクションへの示唆」として設計する: 共感フェーズで得られたインサイトが定義フェーズの課題設定につながり、それがアイデアフェーズの起点となるように、情報の流れを設計します。同時に、各フェーズのアウトプットから、どのようなアクションが考えられるかを示唆する要素を組み込みます。
- アクションプランニングの時間を明確に確保する: ワークショップの終盤に、参加者が個人またはチームで具体的なアクションプランを作成し、共有するための時間を計画に含めます。
- アウトプット形式を工夫し、アクションリストとして機能させる: ワークショップ中の議論やアイデアをまとめたものが、後から見てすぐに「次は何をすべきか」が分かる形式になるように工夫します。
各フェーズで「アクション化」を意識したアウトプット設計
デザイン思考の各フェーズにおいて、アウトプットをアクションにつなげるための具体的な設計例をいくつかご紹介します。
共感フェーズ・定義フェーズ
ユーザーへの共感や課題定義は、その後のアイデアやアクションの質を決定づけます。
- アウトプット形式の工夫: ペルソナやカスタマージャーニーマップを作成する際に、単なる現状の描写に留まらず、ユーザーの「満たされていないニーズ」や「痛み(Pain)」から考えられる「解決策の方向性」や「最初の検証アクション(例:このニーズを持つユーザーに更にインタビューしてみる)」などを追記する項目を設けます。
- 問いの設定: 「このインサイトから、私たちが取り組むべき最も重要な課題は何だろうか」「この課題を解決するために、最初の一歩として何を試すことができるだろうか」といった問いを投げかけ、議論を深めます。
アイデアフェーズ
多くのアイデアを生み出すだけでなく、そのアイデアを実行可能なアクションにつなげることが重要です。
- アイデア評価の基準に「実行可能性」や「次の一歩」を含める: アイデアを評価・グルーピングする際に、「面白さ」「新規性」といった基準に加え、「実現可能性」や「このアイデアを実行するための最初のステップは何か?」といった観点を加えます。
- アイデア発想の問いを工夫する: 「〇〇(ターゲットユーザー)の△△(課題)を解決するために、私たちはまず何を試せるだろうか?」のように、最初から行動につながるような問いを設定してアイデア発想を促します。
プロトタイプ・テストフェーズ
プロトタイプの作成とそのテストは、アイデアを検証し、具体的な改善アクションを導き出す重要なプロセスです。
- テスト計画に「学びから導く次の行動」の項目を設ける: テストを行う前に、テスト結果からどのような学びを得られたら、次に何をすべきか(例:プロトタイプを修正する、別のユーザー層で試す、アイデアを撤回するなど)を事前にリストアップしておきます。
- テスト結果の整理: テストで得られたフィードバックを「良かった点」「改善点」「疑問点」「次に試すべきこと」といった項目に分類して整理します。特に「次に試すべきこと」は、具体的なアクションリストの原案となります。
ワークショップ終盤での具体的なアクションプランニング
ワークショップで得られたインサイト、アイデア、テスト結果をまとめて、参加者が自身の業務で実行できる具体的なアクションプランを作成する時間を設けます。
- アクションプラン作成シートの活用: 個人またはチームごとに、以下の要素を記述できるシンプルなアクションプラン作成シートを用意します。
- アクション内容(何を具体的に行うか)
- 目的(なぜそのアクションを行うのか、どのような成果を目指すのか)
- 担当者(誰が責任を持って行うか)
- 期限(いつまでに完了するか)
- 必要なリソース(人、モノ、情報など)
- 進捗確認方法(どのようにフォローアップするか)
- 共有とコミットメント: 作成したアクションプランをチーム内で共有したり、全体の前で宣言したりする時間を設けます。他者への共有や宣言は、アクションへのコミットメントを高める効果が期待できます。
- 小さな一歩から始める: 最初から大きな目標を設定するのではなく、すぐにでも取り組める「小さな一歩」を明確にすることの重要性を伝えます。
アウトプット形式の工夫
ワークショップ中に作成される様々なアウトプットは、後からアクションを振り返る際の重要な資料となります。
- デジタルツールの活用: MuralやMiroなどのオンラインホワイトボードツールを使用する場合、アクションアイテム専用のフレームやセクションを設け、ワークショップ中に発生した「〇〇を調べる」「△△さんに聞く」といったタスクを随時記録していく運用を検討します。
- 物理的なアウトプットの整理: 模造紙やポストイットを使用した場合でも、ワークショップ終了後に写真撮影やデジタル化を行い、アクションアイテムだけを抜き出してリスト化するといったフォローを行います。必要に応じて、アクションプラン作成シートに転記する時間を設けます。
- 「To Do」リストとしての視点: ワークショップの全てのアウトプットを、単なる議事録としてではなく、「これからの活動のためのTo Doリスト」という視点で整理し直すことを参加者に促します。
ファシリテーションのポイント
参加者が自らアクションを設定し、実行する主体性を持てるように、ファシリテーターは以下のような点を意識します。
- 問いかけの工夫: 「この学びを、明日からあなたの業務でどのように活かせますか?」「このアイデアを実現するために、最初の一週間で何を試しますか?」のように、具体的かつ行動を促す問いを投げかけます。
- 傾聴と引き出し: 参加者自身がアクションを見つけられるよう、彼らの発言を注意深く聞き、可能性のあるアクションを引き出すサポートを行います。
- 成功事例の共有: 過去の参加者がワークショップの成果をどのように行動につなげたかの事例を紹介することで、参加者のイメージを具体化し、モチベーションを高めることができます。
まとめ
デザイン思考ワークショップを単なる知識習得やアイデア創出の場に留めず、参加者の具体的な行動変容やビジネス成果へとつなげるためには、設計段階からアウトプットの「アクション化」を強く意識することが重要です。
共感・定義フェーズでのインサイトの深掘りから、アイデア、プロトタイプ、テストを経て、最終的なアクションプランニングに至るまで、各ステップで「このアウトプットから次に何をすべきか」を参加者自身が考え、明確にするための仕組みを組み込みます。
今回ご紹介した設計の工夫や具体的な手法が、皆様が提供されるデザイン思考ワークショップの価値を高め、参加者の実務における具体的な成果へとつながる一助となれば幸いです。実践を重ねる中で、参加者のニーズや状況に合わせた最適な方法を見つけていくことが大切です。