参加者がワークショップ後も学びを活かせる実践・定着支援設計ガイド
デザイン思考ワークショップは、参加者から革新的なアイデアを引き出し、共創的な体験を提供する強力な手法です。しかし、ワークショップでどんなに素晴らしい成果物やアイデアが生まれたとしても、それが実際の業務に活かされず、単なる「楽しかったイベント」で終わってしまうケースは少なくありません。フリーランスの研修講師やコンサルタントとして、提供するワークショップの価値を最大化するためには、ワークショップ後の「実践」と「定着」をいかに支援するかが非常に重要になります。
この記事では、デザイン思考ワークショップの成果を参加者が日々の業務で活かし、組織内に定着させていくための具体的な支援設計方法についてご紹介します。
ワークショップの成果が実践・定着しない要因
ワークショップで生まれたアイデアや学びが、なぜ実際の行動や組織の文化に結びつかないのでしょうか。考えられる主な要因は以下の通りです。
- 時間の制約: 日々の通常業務に追われ、ワークショップで得た新しいアイデアに取り組む時間がない。
- 方法が分からない: アイデアを実行に移すための具体的な次のステップや、社内での進め方が明確でない。
- 組織文化の壁: 新しい試みを受け入れにくい組織風土や、既存のプロセスを変えることへの抵抗がある。
- 関係者の巻き込み不足: ワークショップに参加していない関係部署や上司の理解・協力が得られない。
- モチベーションの低下: ワークショップ直後の熱意が時間とともに冷めてしまう。
- 成果物の形式: ワークショップのアウトプットが、後から見返したり活用したりしにくい形式になっている。
これらの要因を理解した上で、実践・定着支援の仕組みをワークショップ設計段階から組み込むことが求められます。
実践・定着支援の基本的な考え方
実践・定着支援は、ワークショップ終了後に一方的に情報を提供するだけでなく、参加者自身が主体的に行動し、周囲を巻き込みながら成果を実行に移せるように促すプロセスです。そのために、以下の点を基本的な考え方とします。
- ワークショップと実践をつなぐデザイン: ワークショップの最終フェーズで、「次にとるべき具体的なアクション」を明確にする時間を設けるなど、ワークショップそのものに実践への導線を組み込む。
- 継続的な関与とサポート: ワークショップ終了後も、一定期間にわたって参加者や組織と関わりを持ち、進捗確認や障害へのアドバイスを行う。
- 成果の可視化と共有: ワークショップの成果物やその後の進捗を、関係者が容易にアクセス・共有できる形にする。
- 参加者の主体性を尊重: 強制ではなく、参加者自身が「やりたい」と思えるような動機づけや機会提供を行う。
具体的な実践・定着支援の設計手法
ワークショップの前後で実施できる具体的な支援策をいくつかご紹介します。
ワークショップ中に組み込む実践への仕掛け
- アクションプラン策定ワーク: ワークショップの終盤に、アイデアを具体的なタスクに分解し、担当者、期限、必要なリソースなどを定義する時間を設けます。シンプルなテンプレートを用意すると良いでしょう。
- 例: 「〇〇の課題解決」というアイデアに対し、「1. 対象顧客への簡易インタビュー計画(担当:Aさん、期限:来週金曜)」「2. インタビュー結果の共有会設定(担当:Bさん、期限:再来週月曜)」のように具体化する。
- TODOリスト作成: アクションプランよりもさらに細かく、個人レベルで今日からできることをリストアップしてもらいます。
- 成果物のデジタル化と共有: ワークショップで生まれたポストイットや模造紙の成果物を写真に撮る、あるいはオンラインツール(Miro, Muralなど)で作成した場合、参加者全員がアクセスできる共有ドライブやプロジェクト管理ツールにまとめる。
- 社内プレゼンテーション準備: ワークショップの成果を関係部署や上司に報告するための簡易的なプレゼンテーション資料の構成をワークショップ内で検討する時間を設ける。
ワークショップ後に実施する定着・実践支援
- フォローアップセッション: ワークショップから1週間後や1ヶ月後などに、オンラインまたは対面で進捗確認や質疑応答を行うセッションを設定します。短時間でも定期的に実施することで、参加者のモチベーション維持と課題解決をサポートします。
- メール/チャットサポート: ワークショップ後、一定期間、参加者からの質問や相談にメールやチャットで対応するサポートを提供します。
- 進捗共有プラットフォーム: プロジェクト管理ツールや専用のオンラインコミュニティスペースを用意し、参加者が自身の進捗を共有したり、他の参加者から刺激を受けたりできる場を提供します。
- 定期的なリマインダーやTips配信: ワークショップの内容や、実践に役立つ簡単なヒント、成功事例などを定期的にメールなどで配信します。
- 「ふりかえり」の機会設定: ワークショップで学んだプロセスや考え方を、日々の業務にどう適用しているか、うまくいったこと・いかなかったことを振り返る機会を提供します。
- 経営層への報告会設定支援: ワークショップの成果を正式に組織内で発表する場の設定や、発表資料作成をサポートします。フリーランスが同席し、ワークショップの意義を改めて説明することも有効です。
- 個別コーチング: 必要に応じて、特定の個人やチームに対する、より踏み込んだ個別実践コーチングを提供することを検討します。
支援設計における考慮事項
支援策を設計する際は、以下の点を考慮に入れることが重要です。
- クライアントのニーズと状況: クライアント企業が抱える課題、組織文化、利用可能なリソース(時間、予算、ITツールなど)に合わせて、最適な支援方法を選択します。
- 参加者の特性: 参加者の職種、役職、デザイン思考への理解度、ITリテラシーなどを考慮し、支援のレベルやツールを選定します。
- 契約範囲と費用: ワークショップ後の支援をどの範囲まで行うのかを事前に明確にし、クライアントとの間で合意形成を行います。これに応じて、ワークショップ全体の費用設定も調整します。
- 測定可能な成果: ワークショップ後の実践が、最終的にどのようなビジネス上の成果(例:新サービスのリリース、業務効率化、従業員エンゲージメント向上など)につながる可能性があるのかをクライアントと共有し、可能な範囲でその進捗を追跡できる仕組みを検討します。
まとめ
デザイン思考ワークショップは、単にアイデアを生み出すだけでなく、参加者のマインドセットや行動を変容させることを目指します。そのためには、ワークショップで得た学びや成果を、いかに実際の業務に落とし込み、組織に定着させるかが鍵となります。
フリーランスの研修講師・コンサルタントとして、ワークショップの設計段階から実践・定着支援の視点を取り入れることで、クライアントに対してより長期的で持続的な価値を提供することが可能になります。この記事でご紹介した様々な支援手法の中から、クライアントの状況に最適なものを選び、組み合わせることで、ワークショップの効果を最大化してください。実践・定着支援は、あなたのサービスの付加価値を高め、クライアントからの信頼を得るための重要な差別化要因となるでしょう。