はじめてのデザイン思考ワークショップ 参加者の行動変容を促すワークショップ設計のポイント
デザイン思考ワークショップを企画・提供されるフリーランスの研修講師やコンサルタントの皆様にとって、ワークショップの成功は単に当日の満足度だけでなく、参加者がそこで得た気づきやスキルをいかに実務で活用し、具体的な行動変容につなげるかにかかっています。これがクライアントへの真の価値提供となり、皆様のサービスへの信頼やリピートにつながる重要な要素となります。
この記事では、はじめてデザイン思考ワークショップを設計される方、または設計を見直したい方を対象に、参加者の行動変容を促すためのワークショップ設計における重要なポイントを解説します。
なぜワークショップ後の行動変容が重要なのか
デザイン思考ワークショップは、参加者に新しい思考法や問題解決のアプローチを体験してもらう強力な機会です。しかし、その体験が一時的な刺激に終わり、日常業務に戻ると従来のやり方に戻ってしまうケースも少なくありません。
ワークショップ開催の最終的な目的は、多くのクライアントにとって、参加者個人または組織全体の課題解決能力向上やイノベーション創出といった具体的な成果につなげることにあるはずです。そのため、ワークショップ設計段階から「参加者が何を学び、それをどのように現場で実践できるようになるか」という視点を持つことが不可欠です。
行動変容を促すワークショップ設計の基本原則
参加者の行動変容を促すためには、以下の基本原則を設計段階から意識することが有効です。
- 具体的な実践目標の設定: ワークショップ全体で、参加者がどのような状態になり、どのような行動をとれるようになることを目指すのか、具体的な目標を設定します。単にデザイン思考のプロセスを理解するだけでなく、「ワークショップで学んだ問いかけ方を職場で実践してみる」「アイデア発想の手法をチームミーティングで試してみる」といった、より実践的な目標を設定することが重要です。
- 「自分ごと」として捉えるための仕掛け: 参加者が扱うテーマや課題が、自分自身の業務や関心事と強く結びついていると感じられるような設計が必要です。参加者自身のリアルな課題をテーマにする、あるいは共通の課題であっても個々人の視点から深掘りできるような問いやアクティビティを組み込みます。
- 実践に向けた具体的なステップの明確化: ワークショップの最後に、「明日から何をするか」「次に何を試すか」といった、小さな一歩でも良いので具体的な行動計画を立てる時間や機会を設けます。漠然とした理解だけでなく、最初の一歩を踏み出すための後押しを設計に組み込みます。
- 振り返りと学びの定着: ワークショップ中に定期的に振り返りの時間を設け、参加者自身がその時点で何を感じ、何を学んだかを言語化する機会を作ります。これにより、学びが表面的な知識に留まらず、内省を通じて定着しやすくなります。
各フェーズで行動変容を意識した設計ポイント
デザイン思考の各フェーズにおいて、参加者の行動変容を促すための具体的な設計ポイントをいくつかご紹介します。
共感フェーズ
- 実践的な「観察」と「インタビュー」の導入: 机上の空論ではなく、実際にユーザーや顧客の行動を「観察」する時間や、「インタビュー」を通じて一次情報に触れるアクティビティを取り入れます。これにより、現場で顧客理解を深めることの重要性とその手法を体感してもらうことができます。
- ペルソナ・ジャーニーマップ作成における「なぜ」の問いかけ: ペルソナやジャーニーマップを作成する際に、「なぜこの行動をとるのか」「なぜここで困るのか」といった「なぜ」を深く掘り下げる問いかけを促します。これは、日常業務で顧客や同僚の行動背景を深く理解しようとする習慣を養うことにつながります。
定義フェーズ
- 課題定義文を「解決したい相手」と「解決したい状況」で具体的に記述: 抽象的な課題ではなく、「〇〇さん（具体的な相手）が、△△という状況で、□□に困っている」といった、誰のどのような課題を解決したいのかを明確にする訓練をします。これにより、日常業務でも問題の本質を具体的に捉える力が養われます。
- インサイトの「発見」から「活用」への意識付け: インサイトを単なる「気づき」で終わらせず、「このインサイトからどんな解決策が考えられるか」「このインサイトをどう活用するか」といった、次のアイデア創出や実践につなげる視点を促します。
創造（アイデア創出）フェーズ
- 多様なアイデア発想手法の「使い分け」を意識: ブレストだけでなく、SCAMPERや強制連想など、複数のアイデア発想手法を体験してもらい、それぞれの特徴やどのような状況で有効かを解説します。これにより、参加者は自身の業務課題に応じて適切な手法を選べるようになります。
- アイデアの「実現可能性」と「インパクト」を同時に考える: アイデアを出すだけでなく、同時にそのアイデアがどれだけ実現可能か、そしてどれだけ課題解決にインパクトを与えるかを議論する時間を設けます。これは、単なる夢物語で終わらせず、実行につながるアイデアを生み出す習慣を養います。
プロトタイプフェーズ
- 「完璧ではない」ことを許容する文化の醸成: プロトタイプはあくまで試すための「形にしたもの」であり、完璧である必要はないことを強調します。素早く形にしてフィードバックを得る価値を体感してもらうことで、実務でもまずは試してみるという行動を促します。
- プロトタイプの「目的」を明確にする: このプロトタイプで何を明らかにしたいのか、どんなフィードバックを得たいのかを明確にします。これにより、プロトタイピングが単なる作業ではなく、学びを得るための有効な手段であることを理解してもらいます。
テストフェーズ
- フィードバックを「問い」に変える: テストで得られたフィードバックを、単に良し悪しとして受け止めるだけでなく、「なぜそのような反応が出たのか」「このフィードバックから何を学ぶか」といった、次の改善につなげるための「問い」に変換するプロセスを取り入れます。これは、失敗を恐れず、そこから学ぶ姿勢を養うことにつながります。
- 次のアクションプラン作成の時間を設ける: テストの結果と学びを踏まえ、「次にどんな改善を行うか」「次に何を試すか」といった具体的なアクションプランを作成する時間を設けます。ワークショップで得た学びを、そのまま次の行動につなげるための重要なステップです。
ワークショップ中のファシリテーションの工夫
設計だけでなく、ワークショップ実施中のファシリテーションも行動変容を促す上で重要です。
- 意図的な問いかけ: 各アクティビティの前後で、「なぜこのワークをすると思いますか」「このワークからどんな学びがありましたか」「この学びをあなたの業務でどう活かせそうですか」といった、意図的な問いかけを繰り返します。
- 学びの言語化を促す: 参加者が自身の気づきや学びを言葉にする機会（全体共有、ペアワーク、シートへの記入など）を多く設けます。言語化することで、学びがより明確になり、記憶に定着しやすくなります。
- 実践者としてのロールモデルを示す: ファシリテーター自身が、デザイン思考をどのように実務で活用しているか、どのような失敗や成功体験があるかなどを、適度に共有することで、参加者に「自分にもできそうだ」という感覚を与えることができます。
ワークショップ後のフォローアップ設計
単発のワークショップであっても、可能な範囲でフォローアップの仕組みを設計に含めることで、行動変容の定着をサポートできます。
- アクションプランの共有・確認: ワークショップで作成したアクションプランを参加者間で共有したり、後日メールなどで確認する機会を設けることが考えられます。
- 学びの振り返り機会の提供: ワークショップから数週間後に、オンラインでの短い振り返りセッションを実施したり、学びを共有できるオンラインコミュニティへの参加を促したりすることも有効です。
まとめ
デザイン思考ワークショップを、参加者にとって一時的な「体験」で終わらせず、その後の「行動変容」や「実践」につなげるためには、設計段階から明確な意図を持つことが非常に重要です。参加者が「自分ごと」として捉え、学びを定着させ、実践に向けた具体的なステップを踏み出せるような仕掛けをワークショップ全体に組み込むことで、クライアントへの提供価値を最大化し、皆様自身の信頼性向上にもつながります。
この記事でご紹介したポイントが、皆様がデザイン思考ワークショップを通じて、参加者の未来をより良く変えるための一助となれば幸いです。