はじめてのデザイン思考ワークショップ オンラインでの共感フェーズ:非対面でも深いインサイトを得る実践ガイド
フリーランスの研修講師やコンサルタントの皆様、デザイン思考ワークショップの企画・実施にあたり、オンライン環境での共感フェーズの進め方にお悩みを抱えていらっしゃらないでしょうか。
デザイン思考において、共感フェーズはユーザーや顧客といった対象者を深く理解し、隠されたニーズや本質的な課題を発見するための重要な段階です。しかし、対面でのワークショップと比較すると、オンライン環境では非言語情報の取得が難しく、参加者間の共感情報の共有や深化にも工夫が必要になります。
この記事では、オンラインでのデザイン思考ワークショップにおける共感フェーズで、参加者が非対面でも対象者の深いインサイトを獲得できるようになるための具体的な設計とファシリテーション方法について、実践的な視点から解説します。
オンラインにおける共感フェーズの課題
オンライン環境での共感フェーズは、いくつかの固有の課題を伴います。主な課題は以下の通りです。
- 非言語情報の不足: 画面越しのコミュニケーションでは、表情や声のトーンは伝わりますが、ジェスチャー、姿勢、場の空気感といった非言語情報の一部が失われがちです。これにより、対象者の感情や置かれた状況を深く理解することが難しくなる場合があります。
- 参加者の集中維持: 長時間のオンラインセッションは、参加者の集中力を維持するのが難しい場合があります。特に、インサイトの発見には対象者への深い観察や傾聴が不可欠ですが、集中力が途切れるとその質が低下する可能性があります。
- 共感情報の共有と深化: 参加者それぞれが個別に対象者への理解を深めた後、その情報をグループ内で共有し、議論を通じてインサイトを深化させるプロセスは、オンラインホワイトボードなどのツールを活用する必要がありますが、対面ほど偶発的な気づきや、熱量の共有が生まれにくいと感じることがあります。
- ツール操作の習熟度: オンラインホワイトボードなどのツール操作に慣れていない参加者がいる場合、ツールの使い方に時間を取られたり、情報共有がスムーズに行われなかったりする可能性があります。
これらの課題を踏まえ、オンラインならではの利点を活かしつつ、共感フェーズの質を高めるための設計とファシリテーションが求められます。
オンライン共感フェーズ成功のための基本的な考え方
オンラインで共感フェーズを成功させるためには、以下の3つの要素が重要になります。
- 事前準備の徹底: オンライン実施においては、対面以上に事前の準備が成果を左右します。対象者に関する情報収集、インタビュー計画、使用ツールの選定と練習など、入念な準備が必要です。
- オンラインツールの戦略的な活用: オンラインホワイトボード、ビデオ会議システム、チャットツールなどを単なる代替手段としてではなく、共感情報を効率的に収集・整理・共有し、参加者間のコラボレーションを促進するための強力なツールとして活用します。
- ファシリテーションの工夫: オンラインの特性を理解し、参加者一人ひとりが安心して発言・貢献できる場を作り、非対面でも深い対話と情報共有が促進されるようなきめ細やかなファシリテーションを行います。
実践テクニック:オンライン共感フェーズの設計とファシリテーション
1. 事前準備の重要性
オンラインでの共感フェーズの質は、事前の準備にかかっていると言っても過言ではありません。
- 対象者への理解を深めるリサーチ: ワークショップ開始前に、対象者に関する既存の調査データ、インタビュー記録、顧客からのフィードバックなどを収集し、参加者間で共有します。これにより、ワークショップ当日にゼロから始めるのではなく、ある程度の共通理解を持ってスタートできます。
- オンラインインタビューの設計と練習:
- 対象者へのインタビューは、共感フェーズの核となる活動の一つです。Zoom、Google Meet、Microsoft Teamsなどのビデオ会議システムを使用して実施します。
- インタビュー時には、対象者の許可を得て録画・録音することを検討します。これにより、後から繰り返し確認して非言語情報も含め詳細に分析することが可能になります。
- インタビューガイド(質問リスト)を作成する際は、対象者の行動、経験、感情、そしてそこから見えてくる課題やニーズに焦点を当てる質問を準備します。単なる事実確認に留まらない、「なぜそう感じたのですか?」「その時、具体的に何をしましたか?」といった深掘りの問いを盛り込みます。
- 参加者には、オブザーバーとしてインタビューに同席してもらい、発言だけでなく、対象者の表情の変化や声のトーンなどを観察するよう促します。
- 可能であれば、ワークショップ参加者同士で模擬インタビューを行い、質問の仕方やオンラインでのコミュニケーションに慣れておくと良いでしょう。
- 参加者への事前課題: ワークショップ前に、参加者自身に身近なユーザー(家族、友人など)に対して簡単なインタビューや観察を行ってもらう事前課題を設定することも有効です。これにより、共感フェーズの基本的なアプローチを事前に体験し、当日のワークショップにスムーズに入ることができます。
2. ワークショップ中の工夫とツール活用
オンライン環境だからこそ可能なツール活用や、対面とは異なるアプローチを取り入れます。
- オンラインホワイトボードの徹底活用:
- Miro、Mural、Figma Jamなどのオンラインホワイトボードツールは、参加者がそれぞれの場所から同時に情報を共有し、共同で編集できる強力なツールです。
- インタビューで得られた情報を、ツール上に「事実」「気づき」「疑問」といったカテゴリに分けて付箋形式で貼り付けていきます。付箋には、対象者の具体的な発言(引用)を含めると、より説得力が増します。
- 共感マップ、ペルソナ、ジャーニーマップといった共感フェーズでよく用いられるフレームワークのテンプレートを事前に用意しておくと、参加者は内容の検討に集中できます。
- 情報の分類・グルーピングを促し、共通するインサイトやパターンを見出す作業を支援します。
- ブレイクアウトルームの活用:
- ビデオ会議システムのブレイクアウトルーム機能を活用し、少人数グループに分かれてインタビュー情報の共有や分析を行います。
- グループごとに特定のインタビュー記録を担当させたり、特定のテーマ(例:対象者の「不満」に焦点を当てる)で話し合ってもらったりすることで、議論を深めることができます。
- グループワーク中、ファシリテーターは各ブレイクアウトルームを巡回し、参加者の状況を確認したり、質問に答えたり、議論を促進したりします。
- 非言語情報を補うファシリテーション:
- 参加者にはできる限りビデオをオンにしてもらい、お互いの表情が見えるようにします。
- ファシリテーターは、声のトーンや話すスピードを調整し、参加者が安心して話せる雰囲気を作ります。
- チャット機能を活用し、全員が同時に質問やコメントを投稿できるように促します。「今、どう感じていますか?」「この発言からどんな気づきがありましたか?」など、感情やインサイトに焦点を当てた問いかけをチャットに投げかけるのも有効です。
- オンラインツールにあるスタンプやリアクション機能を使って、非言語的な反応を促します。
- 集中力・エンゲージメント維持の工夫:
- セッションは短めに区切り、間に短い休憩を頻繁に入れます。
- アイスブレイクや簡単なストレッチなどを取り入れ、リフレッシュを促します。
- 一方的な説明だけでなく、定期的に参加者に問いかけたり、簡単なアンケート機能を使ったりして、参加を促します。
- BGMを活用するなど、場の雰囲気を意図的に作り出すことも検討できます。
3. 共感のアウトプット整理と次フェーズへの接続
共感フェーズで得られた情報を整理し、次の定義フェーズにスムーズに繋げることが重要です。
- オンラインホワイトボードでのアウトプット集約: 各グループで作成した共感マップやペルソナなどをオンラインホワイトボード上に集約し、全体で共有します。
- インサイトの明確化: 付箋のグルーピングや議論を通じて見出された「インサイト」(対象者の行動の背景にある、気づかれていないような深い動機やニーズ)を言語化します。オンラインホワイトボード上に「インサイトエリア」などを設けると良いでしょう。
- ペルソナ作成と共有: 得られたインサイトを基に、ターゲットとなるペルソナを具体的に描写します。ペルソナシートをオンラインで共有し、参加者間でペルソナ像への共通理解を深めます。
- 次フェーズへの意識付け: 共感フェーズで明らかになったインサイトやペルソナが、次の「定義」フェーズでどのような課題を設定し、その後のアイデア発想にどう繋がるのかを明確に示します。ワークショップ全体の流れの中で、現在のフェーズの重要性を再認識してもらいます。
まとめ
オンラインでのデザイン思考ワークショップにおける共感フェーズは、対面とは異なるアプローチが求められますが、適切な事前準備、オンラインツールの戦略的な活用、そしてきめ細やかなファシリテーションを行うことで、非対面でも対象者の深いインサイトを獲得することは十分に可能です。
フリーランスの研修講師やコンサルタントとして、オンライン環境でのワークショップの質を高めることは、サービスの価値向上に直結します。今回ご紹介した実践的なテクニックを参考に、参加者がオンラインでも「対象者を深く理解できた」と実感できる共感フェーズを設計・実施してください。これにより、その後のワークショップ全体の成果にも良い影響を与え、クライアントからの信頼獲得に繋がることでしょう。
オンラインでのデザイン思考ワークショップに関する他のフェーズやノウハウについても、本サイトの他の記事もぜひご参照ください。