デザイン思考ワークショップをオンラインで実施する際の注意点と成功の秘訣
はじめに
デザイン思考ワークショップは、イノベーション創出や課題解決に有効な手法として注目されています。近年では、地理的な制約や移動コストの削減、多様な参加者の柔軟な参加を可能にするため、オンラインでの実施が増加しています。フリーランスの研修講師やコンサルタントとして、ご自身のサービスにオンラインデザイン思考ワークショップを取り入れたいと考えている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、対面でのワークショップとは異なり、オンライン特有の課題や注意点が存在します。例えば、参加者の集中力をいかに維持するか、非言語コミュニケーションが制限される中でどのように場を活性化するか、適切なツールをどのように選定・活用するか、といった点は、オンライン実施を検討する上で避けて通れない課題です。
この記事では、デザイン思考ワークショップをオンラインで成功させるための実践的なノウハウをご紹介します。オンライン実施における特有の注意点や、それを克服し参加者の学びと成果を最大化するための秘訣について、具体的な視点から解説します。この記事をお読みいただくことで、自信を持ってオンラインデザイン思考ワークショップを企画・実行できるようになることを目指します。
オンラインデザイン思考ワークショップの設計における考慮事項
オンラインでワークショップを実施する場合、対面とは異なる設計が必要です。以下の点を考慮してプランニングを進めましょう。
1. 時間と期間の設定
オンラインでの長時間のワークショップは、参加者の疲労につながりやすい傾向があります。集中力が持続する時間は個人差がありますが、一般的に対面よりも短くなりがちです。
- セッション分割の検討: 丸一日や複数日にわたるワークショップの場合、連続した長時間のセッションとするのではなく、午前・午後で区切ったり、日を分けたりするなど、短いセッションに分割することを検討します。休憩時間を対面よりも頻繁に設けることも重要です。
- コンテンツの最適化: オンラインで伝える情報量やワークの密度を適切に調整します。対面でのスムーズな情報伝達やフォローアップが難しい場合があるため、説明は簡潔に、ワークは明確な指示を心がけます。
2. 参加者規模とグループ分け
オンラインでの大人数でのワークショップは、参加者全員が発言したり、相互に密なコミュニケーションを取ったりすることが難しくなります。
- 推奨される規模: 内容にもよりますが、活発な議論や共創を促すためには、全体で20名程度まで、グループワークは4~5名程度が管理しやすい規模と言えます。
- グループワークの設計: ブレイクアウトルーム機能などを活用したグループワークはオンラインWSの重要な要素です。グループ分けの方法(ランダム、スキル別、部署別など)や、各グループへのファシリテーター・メンターの配置、進捗確認の方法などを事前に設計します。
3. 使用ツールの選定
オンラインWSの成否は、使用するツールに大きく左右されます。目的と予算、参加者のITリテラシーを考慮して選定します。
- Web会議ツール: Zoom, Microsoft Teams, Google Meetなど。画面共有、チャット、ブレイクアウトルーム、録画機能など、必要な機能を備えているか確認します。
- デジタルホワイトボード: Mural, Miro, FigJam, Google Jamboardなど。付箋機能、画像・動画の貼り付け、フレーム機能など、デザイン思考のプロセス(共感マップ、アイデア発想、プロトタイピングなど)で必要となる機能を備えているかを選定基準とします。参加者の共同作業のしやすさが非常に重要です。
- その他ツール: 投票ツール(Mentimeterなど)、アンケートツール(Google Formsなど)、ファイル共有ツール(Dropbox, Google Driveなど)など、必要に応じて組み合わせます。
オンラインでのファシリテーション技術
オンラインでのファシリテーションは、対面とは異なるスキルや工夫が求められます。
1. 参加者のエンゲージメント維持
画面越しのコミュニケーションは、対面よりも参加者の集中力が途切れやすい環境です。
- インタラクティブな進行: 一方的な説明だけでなく、チャットへの書き込みを促す、簡単なアンケートや投票を実施する、ブレイクアウトルームでの議論時間を設けるなど、参加者が常に関与できる仕掛けを多く取り入れます。
- 定期的な休憩: 短時間でも良いので、定期的に休憩を挟みます。ストレッチや飲み物の準備を促すなど、リフレッシュできる時間を設けます。
- 視覚的な工夫: 画面共有する資料は視覚的に分かりやすく、文字サイズにも配慮します。デジタルホワイトボード上の情報を整理し、参加者が迷わないように誘導します。
2. 非言語コミュニケーションの補完
オンラインでは、参加者の表情や雰囲気、小さなジェスチャーなどを読み取りにくくなります。
- カメラオンのお願い: 可能であれば、参加者にカメラをオンにしてもらうよう丁寧にお願いします。これにより、表情や反応をある程度把握しやすくなります。
- 声のトーンとペース: 対面よりも意識して明るく、はっきりとしたトーンで話します。話すペースも、オンライン環境での音声遅延などを考慮し、ややゆっくりめを心がけます。
- 反応の確認: 定期的に参加者に理解度や進行について確認の声かけをします。「ここまででご質問はありますか」「チャットに今の感想を書き込んでいただけますか」など。
3. 発言を促す工夫
特にオンラインでは、自分から発言することにためらいを感じる参加者もいます。
- 心理的安全性の確保: 冒頭でアイスブレイクを実施したり、「間違いはありません、自由に発言してください」といったメッセージを伝えたりすることで、発言しやすい雰囲気を作ります。
- 指名発言の活用(慎重に): 全員に意見を聞きたい場合や、特定の参加者の専門知識を引き出したい場合に指名発言も有効ですが、強制にならないよう配慮が必要です。「もし可能であれば、○○さんにご意見を伺ってもよろしいでしょうか」といった丁寧な聞き方を心がけます。
- チャットやツールの活用: 口頭での発言が苦手な参加者も、チャットやデジタルホワイトボードへの書き込みであれば参加しやすい場合があります。多様なアウトプット方法を用意します。
オンライン特有の課題とその対策
オンラインデザイン思考ワークショップには、いくつかの特有の課題が存在します。
1. 接続トラブルとツールの習熟度差
参加者の通信環境や使用ツールの習熟度にばらつきがある場合があります。
- 事前の確認とサポート: ワークショップ開始前に、使用ツールの動作確認や簡単な使い方のレクチャー時間を設ける、あるいはマニュアルを事前に配布することが有効です。接続トラブル時の代替手段(電話参加など)も用意しておくと安心です。
- 簡単な操作説明: ワークショップ中も、新しいツールや機能を使う際には、簡単な操作説明を挟みます。質問しやすい雰囲気を作り、個別の問い合わせにも対応できる体制を整えます。
2. 集中力と一体感の維持
長時間画面を見続けることによる疲労や、物理的な距離による一体感の欠如は、オンラインWSの大きな課題です。
- 構成の緩急: インプット(説明)とアウトプット(ワーク)、個人ワークとグループワークなど、活動内容に変化をつけます。動画や音楽を効果的に活用するのも良いでしょう。
- 休憩時間の活用: 単なる休憩だけでなく、参加者同士が雑談できる時間を設けるなど、カジュアルなコミュニケーションの機会を作ることで一体感を醸成します。
- 成果の可視化: デジタルホワイトボードなどを活用し、参加者全員のアイデアや意見をリアルタイムで共有・可視化することで、「一緒に創り上げている」感覚を高めます。
3. グループワークの管理
ブレイクアウトルームでのグループワークは、ファシリテーターが各グループの状況を把握しにくいという難しさがあります。
- 明確な指示と時間設定: グループワークの目的、具体的な作業内容、終了時間を明確に伝えます。
- 定期的な巡回: ファシリテーターやメンターがブレイクアウトルームを定期的に巡回し、状況を確認したり、質問に答えたりします。
- 進捗共有: グループワーク終了後、各グループに簡単な進捗や成果を発表してもらう時間を設けることで、全体での学びを深めます。
まとめ:オンラインWS成功の鍵
オンラインでのデザイン思考ワークショップの成功は、事前の周到な準備と、オンライン環境に最適化されたファシリテーションにかかっています。
- 目的と対象者を深く理解し、オンラインに適したプログラムを設計すること
- 参加者が使いやすく、共同作業がしやすいツールを選定すること
- 参加者のエンゲージメントを高めるインタラクティブな進行と、心理的安全性の確保に努めること
- オンライン特有の課題(接続、集中力、コミュニケーションなど)に対する対策を事前に講じておくこと
これらの点を意識することで、オンラインでも対面と遜色ない、あるいはオンラインならではの利点を活かした質の高いデザイン思考ワークショップを提供することが可能になります。ぜひ、この記事でご紹介したノウハウを参考に、ご自身のオンラインワークショップを企画・実行してみてください。一歩ずつ経験を積み重ねることで、オンラインデザイン思考ワークショップのプロフェッショナルとして、サービスの幅を広げていくことができるでしょう。