はじめてのデザイン思考ワークショップ クライアントとの事前準備と期待値調整ガイド
デザイン思考ワークショップの企画・実行は、講師である皆さまの専門性を示す重要な機会です。しかし、どんなに素晴らしいワークショップを設計しても、クライアントや参加者の期待値がずれていたり、必要な準備が不足していたりすると、本来の効果を発揮できないばかりか、満足度低下につながる可能性があります。
本記事では、フリーランスの研修講師・コンサルタントとして、クライアントと共にワークショップを成功に導くために不可欠な、事前準備と期待値調整の具体的なアプローチについて解説します。
なぜクライアントとの事前準備と期待値調整が重要なのか
デザイン思考ワークショップは、単に知識を伝える研修ではなく、参加者自身が考え、共創し、具体的なアウトプットを生み出す体験型のプロセスです。このプロセスを円滑に進め、最大限の成果を引き出すためには、講師側の準備はもちろんのこと、クライアント側の理解と協力、そして参加者全員がワークショップの目的と意義を共有していることが非常に重要になります。
- ワークショップ効果の最大化: クライアントがワークショップの目的や進行、期待される成果を正確に理解し、必要な準備をすることで、当日スムーズに進行し、より深い議論や質の高いアウトプットにつながります。
- クライアント満足度の向上: 事前に期待値を適切に調整することで、「思っていたものと違った」という認識のずれを防ぎます。何が実現可能で、何が難しいのかを正直に伝えることは、クライアントからの信頼獲得につながります。
- リスクの軽減: 事前に潜在的な課題や懸念事項をクライアントと共有し、対策を講じることで、ワークショップ当日の予期せぬトラブル発生リスクを低減できます。
- 継続的なビジネス機会の創出: ワークショップが成功し、クライアントがその価値を実感すれば、リピートや別の部署への展開、紹介といった次のビジネスにつながる可能性が高まります。
これらの理由から、ワークショップの「質」は、当日の進行だけでなく、事前のクライアントとの丁寧なコミュニケーションと準備によって大きく左右されると言えます。
クライアントと共に進める事前準備のステップ
ワークショップ当日を成功に導くためには、講師側からクライアントへ働きかけ、協力体制を構築することが大切です。具体的には以下のステップが考えられます。
ステップ1: 目的とゴール設定の再確認と共有
契約段階で目的やゴールは確認しているはずですが、ワークショップ設計を進める中で、より具体的に、参加者にとって腹落ちするレベルまで掘り下げて共有します。
- ワークショップ開催の背景: なぜ今、このワークショップを行うのか。組織や事業における課題、目指す姿とどのように繋がるのか。
- 達成したい具体的なアウトプット: アイデアの数や質、プロトタイプのレベル、次のアクションプランなど、具体的な成果イメージを共有します。
- ワークショップが組織に与える影響: 参加者の意識変化、チームワーク向上、新しいプロジェクト創出など、期待される波及効果についても話し合います。
これらの点をクライアントと深く共有することで、ワークショップの「意義」が明確になり、クライアント側の担当者も社内への説明がしやすくなります。
ステップ2: 参加者情報の収集と特性の理解
参加者の属性を事前に把握することは、ワークショップの設計やファシリテーション方法を調整する上で非常に重要です。
- 部署、役職、職種: どのようなバックグラウンドを持つ人が参加するのか。
- デザイン思考への理解度・経験: 初心者なのか、ある程度の知識があるのか。
- ワークショップへの期待や懸念: 参加者はこのワークショップに何を期待しているのか、あるいはどのような不安を抱えているのか。可能であれば、簡単な事前アンケートなども有効です。
- 人数、チーム構成: チーム分けの意図や、特定のメンバーへの配慮が必要かなどを確認します。
これらの情報に基づいて、専門用語のレベルを調整したり、チーム構成に工夫を凝らしたりすることができます。
ステップ3: クライアント側の準備事項の明確化と依頼
ワークショップをスムーズに実施するために、会場準備やIT環境、参加者への連絡など、クライアント側にお願いしたい準備事項を明確に伝えます。チェックリスト形式で共有すると、クライアント担当者も抜け漏れなく準備を進めやすくなります。
- 会場: 広さ、レイアウト(グループワークに適しているか)、備品(ホワイトボード、プロジェクターなど)
- IT環境: インターネット接続、Wi-Fi環境、オンラインツールの使用可否、PC等の準備が必要か
- 備品: ポストイット、ペン、模造紙など、ワークショップで使用する消耗品の準備分担
- 参加者への連絡: ワークショップの目的、日時、場所、持参物、事前課題の有無など、講師側からクライアントへ伝えるべき内容と、クライアントから参加者へ伝えてもらうべき内容を整理します。特に、ワークショップの趣旨や参加の意義を事前にしっかり伝えてもらうことが、参加者の主体性を引き出す上で非常に効果的です。
- 関連資料の共有: ワークショップのテーマに関連する社内資料や、事前に目を通しておいてほしい情報があれば、クライアントから参加者へ配布・共有を依頼します。
ステップ4: 事前課題の設定と実施依頼
参加者のウォーミングアップや、ワークショップで扱うテーマへの関心を高めるために、簡単な事前課題を設定することも有効です。
- 事前課題の例:
- ワークショップのテーマに関する簡単な調査や情報収集
- 個人の経験や考えをまとめるワークシートへの記入
- 関連書籍や記事の読了
- 依頼のポイント: 事前課題の目的と、ワークショップ当日のどのフェーズで活用するのかを明確に伝え、実施のモチベーションを高めます。提出期限や提出方法も分かりやすく指示します。
適切な期待値調整のアプローチ
デザイン思考は万能の魔法ではありません。ワークショップを通じて何がどこまで達成できるのか、現実的な見通しをクライアントと共有することが、後々の評価につながります。
- 成果の定義を具体的に: 「イノベーションを起こす」といった抽象的な目標だけでなく、「〇〇に関する新しいアイデアを最低△個創出する」「プロトタイプを用いてユーザーからフィードバックを得るプロセスを体験する」のように、具体的なアウトプットや経験レベルで成果を定義します。
- 限界と制約を伝える: 時間的な制約の中で可能なこと、参加者の経験レベルによって達成できる深さには限界があることを伝えます。ワークショップ単体で全ての課題が解決するわけではなく、その後のフォローアップや実行フェーズが重要であることを示唆します。
- プロセスとアウトプットのバランス: ワークショップはプロセスそのものに価値がある側面もあります。アイデアの質だけでなく、参加者の主体性や共創の経験、新しい視点の獲得といったプロセスでの学びも重要な成果であることを伝えます。
- ネクストステップの示唆: ワークショップで得られた成果をどのように活かしていくのか、次のアクションとして何が考えられるのかを事前に話し合います。これにより、クライアントはワークショップ後の展開を具体的にイメージでき、単発のイベントで終わらせないという意識が芽生えやすくなります。
避けるべき期待値調整の落とし穴
- 過度に大きな成果を約束する: 特に初めてのクライアントに対して、過大な期待を抱かせるような表現は避けるべきです。実現できなかった場合に信頼を失う可能性があります。
- 専門用語を多用しすぎる: クライアントがデザイン思考に詳しくない場合、専門用語の多用は不信感につながることがあります。平易な言葉で、具体的な例を交えて説明します。
- 「参加すれば変わる」といった精神論に終始する: 参加者の自主性はもちろん重要ですが、ワークショップの設計やファシリテーション、そして事前の準備と期待値調整こそが、変化を生み出すための具体的な「仕組み」であることを伝えます。
まとめ
デザイン思考ワークショップの成功は、当日のファシリテーションスキルだけに依存するものではありません。クライアントとの密なコミュニケーションを通じて、ワークショップの目的、期待される成果、そして必要な準備事項を丁寧にすり合わせ、適切な期待値を共有することが、ワークショップの効果を最大化し、クライアントからの信頼を得るための鍵となります。
フリーランスの研修講師・コンサルタントとして、自身のサービス価値を高めるためにも、ぜひ今回ご紹介した事前準備と期待値調整のアプローチを実践に取り入れてみてください。クライアントとの良好な関係構築は、ワークショップを単発の契約に終わらせず、継続的なビジネスへと発展させるための重要な一歩となるはずです。