はじめてのデザイン思考ワークショップ 参加者が成果物を実務で活用するための整理・実行計画化ガイド
デザイン思考ワークショップを企画・実施されるフリーランスの研修講師やコンサルタントの皆様にとって、参加者の皆様がワークショップで得た「気づき」や「成果物」を、その後の実務で継続的に活用いただけるかどうかは、ワークショップ全体の価値を左右する重要な要素です。活発な議論やアイデア創出を経て多くの成果物が生まれたとしても、それらがワークショップ会場やオンライン上のツールに留まり、「学びっぱなし」で終わってしまうケースも少なくありません。
本記事では、参加者の皆様がデザイン思考ワークショップで得た成果物を、後日ご自身の業務で具体的なアクションに繋げるための「整理」と「実行計画化」の方法に焦点を当てて解説します。これは、講師としてワークショップ設計や進行において、参加者に伝えるべき、あるいは支援すべき重要なノウハウとなります。
なぜワークショップ成果物は「眠ってしまいがち」なのか
ワークショップで多くの成果物が生まれるにも関わらず、その後の活用が進まない背景には、いくつかの要因が考えられます。
- 物理的・デジタル的な散乱: ポストイット、模造紙、オンラインツール上のフレームワークなど、成果物が物理的あるいはデジタル的に散乱しており、全体像を把握しにくい。
- 情報の「塊」としての未整理: インサイト、課題、アイデア、プロトタイプの要素などが混在しており、どれが重要で、何から取り組むべきか判断しにくい。
- 「実行」への接続の不明瞭さ: 出てきたアイデアや気づきを、具体的なタスクやプロジェクトとしてどのように業務に組み込めば良いか、その手順が明確でない。
- 時間と優先順位: 日々の業務に追われ、ワークショップの成果物をじっくり見返したり、整理したりする時間を確保するのが難しい。
これらの課題に対し、講師として参加者に具体的な「成果物活用の道筋」を示すことが、ワークショップの価値を最大化するために不可欠です。
参加者が成果物を実務で活用するための具体的なステップ
ワークショップ終了後、参加者の皆様が成果物を活用するための標準的なステップを以下に示します。講師は、これらのステップの存在と、それぞれの具体的な方法を参加者に伝えることを検討してください。
ステップ1: 成果物の集約とデジタル化
- 目的: 物理的な成果物(ポストイット、模造紙など)や、異なるツール上に分散したデジタル成果物を一箇所に集約し、いつでもアクセスできる状態にする。
- 方法:
- 物理的な成果物: 写真撮影、スキャン、あるいはホワイトボードアプリ(Miro, Muralなど)やドキュメントツール(Notion, Everenote, OneNoteなど)に転記する。模造紙は全体像と詳細を複数枚で撮影・スキャンし、関連ツールにアップロードします。ポストイットはグルーピングの状態を撮影した後、テキスト化してデジタルツールに入力するのが効率的です。
- デジタル成果物: ワークショップで使用したオンラインツールのデータをエクスポートし、共有可能な形式(PDF, CSV, 画像ファイルなど)でまとめて管理します。
ステップ2: 成果物の分類と整理
- 目的: 集約した成果物を意味のある単位で分類し、理解しやすく整理する。
- 方法:
- グルーピングの再確認: ワークショップ中に行ったグルーピングや分類を再確認し、必要であればさらに細分化したり、異なる視点で再構成したりします。
- 要素の特定: 成果物の中から、「顧客インサイト」「発見された課題」「潜在的な解決策アイデア」「プロトタイプの要素」「具体的なタスク候補」など、構成要素を特定します。
- 構造化: マインドマップ、アウトライン、簡易的なデータベースなどを用いて、要素間の関係性を示したり、階層構造で整理したりします。重要なインサイトに紐づくアイデア、といった関連付けを明確にします。
ステップ3: 実行可能な要素の特定と優先順位付け
- 目的: 整理された成果物の中から、実際にアクションに移せる具体的な要素を見つけ出し、取り組むべき優先順位を検討する。
- 方法:
- アクション候補の抽出: 「これを試してみよう」「この情報をもっと詳しく調べよう」「この人に相談してみよう」など、具体的な行動につながる要素をリストアップします。
- 基準による評価: 取り組みやすさ(時間、コスト、スキル)、期待できる効果(ビジネスへの影響、顧客への影響)、関係者の巻き込みやすさなどの基準で、アクション候補を評価します。
- 優先順位の設定: 評価に基づき、まずは何から取り組むかを決定します。「すぐにできること」「小さく始められること」「インパクトが大きいこと」など、目的に合わせた基準で優先順位をつけます。
ステップ4: 実行計画への落とし込み
- 目的: 優先順位をつけた実行可能な要素を、具体的なアクションプランとして明確にする。
- 方法:
- タスク分解: 実行項目をさらに具体的な小さなタスクに分解します。
- 担当者と期限の設定: 各タスクについて、誰がいつまでに何を完了させるかを明確に設定します。
- ツールの活用: 個人のタスク管理ツール(Todoist, Trello, Asanaなど)、カレンダー、あるいはシンプルなTODOリストを用いて管理します。チームで取り組む場合は、共有可能なプロジェクト管理ツールを活用します。
- 成果目標の設定: 各アクションが達成された状態を定義します。
ステップ5: 継続的な振り返りと更新
- 目的: 一度作成した計画を実行しつつ、成果物や計画を定期的に見直し、必要に応じて更新する。
- 方法:
- 定期的な確認: 週に一度、月に一度など、定期的に成果物や実行計画を見返す時間を設けます。
- 進捗確認と調整: 計画通りに進んでいるかを確認し、遅延があれば原因を分析し、計画を調整します。
- 新たな気づきの追加: 実務を進める中で得られた新たなインサイトやアイデアを、当初の成果物や計画に統合します。
講師として参加者の成果物活用を支援するために
読者であるフリーランスの研修講師・コンサルタントの皆様は、これらのステップを参加者自身が実行できるように支援する立場にあります。
- ワークショップ内での示唆: ワークショップの終盤で、「今日の成果物をどのように活用していくか」について参加者に問いかけ、上記のステップの存在を簡単に示唆します。成果物を写真に撮っておく、キーワードを書き出す、など具体的な行動を促します。
- フォローアップ資料の提供: ワークショップ終了後、本記事で解説したような「成果物活用のステップ」や「整理のヒント」「実行計画化のテンプレート(簡単なもの)」などをまとめた資料を提供します。
- ツール活用の推奨: 使用したオンラインツール(Miro, Muralなど)のデータを参加者がエクスポート・共有できる方法を案内したり、成果物整理・実行計画化に役立つツール(上記参照)を紹介したりします。
- 簡易的なテンプレート提供: 成果物を整理するための簡易的なフォーマット(例: インサイトリスト、アイデア分類表、アクション計画シート)を提供することで、参加者が「何から始めればいいか分からない」という状態を防ぎます。
- オプションとしてのフォローアップサービス: 希望者向けに、ワークショップ後の成果物整理や実行計画化をサポートする個別セッションや、チームでのフォローアップミーティングを提供するオプションを設けることも、サービス価値向上につながります。
まとめ
デザイン思考ワークショップの成果物を参加者が実務で活用できるかどうかは、ワークショップが単なる学びの場に留まらず、具体的な行動変容やビジネス成果に繋がるかどうかの分水嶺となります。講師として、ワークショップ設計段階から「成果物をどう活かしてもらうか」という視点を取り入れ、ワークショップ中や終了後のフォローアップを通じて、参加者が本記事で解説したような「集約」「整理」「実行計画化」「継続」のステップを実行できるよう具体的に支援することが重要です。
参加者が自社の課題解決や新たな価値創造に向けて成果物を継続的に活用できるようになることは、参加者個人の成長や組織の活性化に貢献するだけでなく、ワークショップの実施者である皆様のサービスに対する評価や信頼を高めることにも繋がります。ぜひ、今回の内容を参考に、参加者の成果物活用を促進するための工夫をワークショップに取り入れてみてください。