はじめてのデザイン思考ワークショップ 標準モジュール設計と組み合わせによるカスタマイズ実践ガイド
フリーランスの研修講師やコンサルタントの皆様にとって、デザイン思考ワークショップは魅力的なサービスの一つになり得ます。しかし、クライアントの要望は様々であり、毎回ゼロからワークショップを設計するのは時間と労力がかかります。また、高品質なサービスを提供し続けるためには、設計の効率化と柔軟な対応力の両立が重要です。
この記事では、デザイン思考ワークショップを「モジュール化」し、それを組み合わせることで、多様なクライアントニーズに迅速かつ高品質に応えるための実践的な設計方法について解説します。
デザイン思考ワークショップにおける「モジュール」とは何か
デザイン思考ワークショップにおけるモジュールとは、特定の目的やアウトプットを持つ、独立した一連のアクティビティやセッションの単位を指します。例えば、「ユーザーペルソナ作成モジュール」「ジャーニーマップ作成モジュール」「ブレインストーミングモジュール」のように、デザイン思考の各フェーズや特定の手法に特化したセッションを小さなブロックとして定義するイメージです。
これらのモジュールは、それぞれが完結しており、他のモジュールと組み合わせて使用することを前提に設計されます。
ワークショップをモジュール化するメリット
ワークショップをモジュール化することには、フリーランスの講師・コンサルタントにとって、いくつかの大きなメリットがあります。
- 設計効率の向上: 標準的なモジュールを一度作成しておけば、新たなワークショップの企画時にゼロから考える必要がなくなります。既存のモジュールを組み合わせることで、短時間で目的に合ったワークショップ構成を組み立てることができます。
- カスタマイズの容易性: クライアントの特定の課題や時間・予算に合わせて、必要なモジュールを選択し、並べ替えることで、柔軟かつ的確なカスタマイズが可能になります。これにより、クライアントの満足度を高めることができます。
- 品質の安定化: 各モジュールの手順、必要な準備、想定されるアウトプットなどを標準化しておくことで、提供するワークショップの品質を一定に保つことができます。
- 提案力の強化: モジュールカタログとして整理しておくことで、クライアントに対して具体的なワークショップの内容や組み合わせ例を視覚的に提示しやすくなります。これにより、サービスの価値をより分かりやすく伝えることができます。
- 学習・改善の促進: 個々のモジュールの効果や課題を分析しやすくなるため、継続的な改善や新しいモジュールの開発に繋げやすくなります。
標準モジュール設計のステップ
デザイン思考ワークショップの標準モジュールを設計するための具体的なステップをご紹介します。
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主要フェーズとアクティビティの洗い出し:
- まず、デザイン思考の標準的な5つのフェーズ(共感、定義、アイデア、プロトタイプ、テスト)を軸に考えます。
- 次に、各フェーズで一般的に行われる代表的なアクティビティや手法をリストアップします。
- 例:共感(ユーザーインタビュー、観察、ペルソナ、ジャーニーマップ)、定義(課題定義、Why-How-What)、アイデア(ブレインストーミング、KJ法、SCAMPER)、プロトタイプ(ラフスケッチ、ストーリーボード、簡易モック)、テスト(ユーザーテスト、フィードバック収集)。
- これらのアクティビティを、モジュールの候補として検討します。
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各モジュールの詳細定義:
- リストアップした各候補について、モジュールとして機能するための詳細を定義します。
- モジュール名: 内容を分かりやすく示す名称(例:「ユーザーペルソナ作成」「ブレインストーミング集中セッション」)。
- 目的: そのモジュールを行うことで、参加者が何を得られるのか、どのような状態になるのかを明確にします。
- 所要時間: 標準的な実施時間を設定します(例:60分、90分)。参加人数や経験値によって変動しうることを考慮します。
- 必要なインプット: このモジュールを開始するために、事前に用意しておくべき情報や、前のモジュールからのアウトプットを定義します。
- 期待されるアウトプット: モジュール終了時に参加者が作成・合意しているべき成果物を具体的に定義します(例:完成したペルソナシート、50個以上のアイデアリスト)。
- 推奨人数・チーム構成: 効果的に実施できる参加人数やチームの組み方を示します。
- 必要なツール・準備: 付箋、模造紙、ホワイトボードなどの物理的なツール、またはMiro、FigJamなどのオンラインツールやテンプレートなど、必要なものをリストアップします。
- ファシリテーションのポイント: 参加者のエンゲージメントを高めるための声かけ、注意点、タイムマネジメントのコツなどを記載します。
- バリエーション: 同じ目的でも、時間や人数に応じて異なる手法がある場合、そのバリエーションも定義しておくとより柔軟性が増します。
- リストアップした各候補について、モジュールとして機能するための詳細を定義します。
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モジュールの粒度設定:
- モジュールの粒度を検討します。単一のアクティビティを1つのモジュールとするか、複数の関連アクティビティをまとめて1つの大きなモジュールとするか、クライアントニーズや標準的なワークショップ構成に合わせて調整します。初心者が扱いやすいのは、比較的小さな、明確な目的を持つモジュールかもしれません。
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モジュールカタログの作成:
- 定義したモジュールを一覧できるカタログを作成します。これには、モジュール名、目的、所要時間、アウトプットなどの基本情報を記載し、必要に応じて写真やイラストでイメージを伝えると良いでしょう。これはご自身の設計効率化に役立つだけでなく、クライアントへの提案資料としても活用できます。
標準モジュールの組み合わせによるカスタマイズ方法
標準モジュールが準備できたら、クライアントの具体的なニーズに合わせてこれらを組み合わせてワークショップを設計します。
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クライアントニーズの深掘り:
- クライアントがワークショップに期待する成果、解決したい課題、参加者の属性・人数、利用可能な時間・予算、開催形式(オンライン/オフライン)などを詳細にヒアリングします。これが、どのモジュールを選択し、どのように組み合わせるかの起点となります。
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目的達成に必要なモジュールの選定:
- ヒアリングで把握したクライアントの目的に合致するモジュールを、モジュールカタログから選択します。例えば、「新しい顧客層のニーズを理解したい」という目的であれば、共感フェーズの「ペルソナ作成」「ジャーニーマップ作成」といったモジュールが必要になるでしょう。「既存サービスの改善アイデアを多数出したい」であれば、アイデアフェーズの「ブレインストーミング」「KJ法」などが中心となります。
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モジュールの順序設計と時間配分:
- 選定したモジュールを、デザイン思考のプロセスに沿って論理的な流れになるように並べ替えます。
- 各モジュールの標準所要時間を参考に、全体および各セッションの時間配分を計画します。休憩時間や移動時間(オフラインの場合)、オンラインでの集中力の持続時間なども考慮に入れます。
- 必要に応じて、各モジュールの所要時間を短縮・延長する調整を行います。ただし、極端な変更はモジュールの効果を損なう可能性があるため注意が必要です。
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モジュール間の接続部の設計:
- 異なるモジュールを組み合わせる際、前のモジュールの結果(アウトプット)が次のモジュールのインプットとしてスムーズに引き継がれるように接続部を設計します。例えば、「ペルソナ作成」モジュールの次に「ジャーニーマップ作成」モジュールを行う場合、作成したペルソナ情報を次のワークで使用する手順を明確にします。
- 参加者が思考の切り替えをスムーズに行えるよう、モジュール間に簡単な振り返りや次のモジュールの導入説明を設けることも有効です。
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必要な追加要素の考慮:
- 標準モジュールだけではカバーできないクライアント固有の状況や、ワークショップ全体の進行に必要な要素(アイスブレイク、チェックアウト、全体説明、質疑応答など)を考慮し、必要に応じてこれらもモジュールとして定義するか、全体構成に組み込みます。
ビジネスとしての活用ヒント
モジュール化されたワークショップは、フリーランスのビジネス展開において強力な武器となります。
- サービスのパッケージ化: 特定のテーマや時間に応じた「標準パッケージ」(例:「1日集中アイデア創出ワークショップ」「半日顧客理解ワークショップ」)を、既存モジュールを組み合わせて作成し、サービスメニューとして提示できます。
- 迅速な提案: クライアントからの問い合わせに対し、迅速にカスタマイズされた提案書を作成できます。モジュールカタログを見せることで、サービスの具体性や柔軟性をアピールできます。
- 価格設定の根拠: 各モジュールの所要時間や準備工数を基準に、価格設定の根拠を明確にすることができます。
- ブランディング: 特定のモジュールやその組み合わせ方法にオリジナリティを持たせることで、ご自身の専門性やユニークな価値を打ち出すことが可能です。
まとめ
デザイン思考ワークショップのモジュール化は、フリーランスの研修講師・コンサルタントが、多様なクライアントニーズに対し、効率的かつ高品質なサービスを提供するための有効な手段です。標準モジュールを定義し、それを柔軟に組み合わせることで、ワークショップ設計の負担を軽減し、サービスの質を高め、結果としてビジネスの成長に繋げることができます。
まずは、ご自身が提供したい、あるいは得意とするデザイン思考のアクティビティをいくつかピックアップし、モジュールとして定義することから始めてみてはいかがでしょうか。実践を重ねる中で、より洗練されたモジュールや組み合わせパターンが生まれてくるはずです。