はじめてのデザイン思考ワークショップ クライアントニーズに合わせたツール・手法のピンポイント活用法
フリーランスの研修講師やコンサルタントの皆様が、デザイン思考ワークショップを自身のサービスとして提供される際、クライアントの多様なニーズにどのように応えるかは重要な課題となります。特に、デザイン思考の全プロセス(共感、定義、創造、プロトタイプ、テスト)を実施するには時間や予算が十分に確保できない場合や、クライアントが特定の課題解決に焦点を当てたいと希望されるケースがあるかと存じます。
このような状況に対応するためには、デザイン思考の強力なツールや手法を、特定の目的に合わせて「ピンポイント」で活用するワークショップを設計するスキルが役立ちます。この記事では、クライアントニーズに合わせてデザイン思考の要素を抜き出し、効果的なワークショップを組み立てるための実践的なノウハウをご紹介します。
クライアントの課題とデザイン思考の部分活用
デザイン思考は、複雑な課題を解決し、革新的なアイデアを生み出すための強力なフレームワークですが、必ずしも常に全てのフェーズを網羅する必要はありません。クライアントが抱える具体的な課題が明確である場合、その課題解決に最も貢献するデザイン思考のツールや手法を選び出し、カスタマイズされたワークショップとして提供することが可能です。
これは、クライアントにとって以下のようなメリットをもたらします。
- 導入のハードル低下: 全体プロセスよりも短時間・低予算で実施できるため、デザイン思考への第一歩を踏み出しやすくなります。
- 特定の課題への焦点: 参加者が抱える具体的な問題に対して、集中的にアプローチできます。
- 即効性の高い成果: 特定のスキル習得や、特定の課題に対する明確なアウトプットを早期に得やすくなります。
皆様にとっては、サービス提供の幅を広げ、より多くのクライアントニーズに応える機会となります。
クライアントニーズ別:活用したいデザイン思考のツール・手法例
クライアントがどのような課題を抱えているかによって、重点的に活用すべきデザイン思考のフェーズやツール・手法は異なります。代表的なニーズとそれに対応するツール・手法の例を以下に示します。
1. 顧客・ユーザーの理解を深めたい
- 課題: 提供している製品・サービスがユーザーのニーズに合っていない、新しいターゲット顧客を理解したいなど。
- 活用フェーズ: 共感(Empathize)フェーズ、定義(Define)フェーズの一部
- 活用ツール・手法例:
- ペルソナ作成: ターゲットユーザーの具体的な人物像を定義し、共通理解を深めます。既存データや簡単なインタビューに基づき作成できます。
- カスタマージャーニーマップ作成: ユーザーが特定のゴールに至るまでのプロセスを可視化し、各接点での感情や課題を洗い出します。
- 共感マップ(Empathy Map): ユーザーの「見る」「聞く」「考える・感じる」「言う・行う」を整理し、彼らのインサイトを探ります。
- インタビュー・観察手法のレクチャーと実践: 短時間のロールプレイングや、提供されたデータからのインサイト抽出練習を取り入れます。
2. 新しいアイデアを創出したい
- 課題: 新規事業・サービスアイデアが枯渇している、既存業務の改善アイデアを出したいなど。
- 活用フェーズ: 創造(Ideate)フェーズ
- 活用ツール・手法例:
- ブレーンストーミング(Brainstorming)/ ブレインライティング(Brainwriting): 制限なく多くのアイデアを出すための基本的な手法です。
- SCAMPER: 既存のアイデアや製品を改善・発展させるための発想を促すフレームワークです(Substitute, Combine, Adapt, Modify, Put to another use, Eliminate, Reverse)。
- MiroやMuralなどのオンラインホワイトボード活用: 視覚的にアイデアを整理・共有し、発想を広げるツールワークショップとしても有効です。
- 強制連想法: 異なる分野や概念を意図的に結びつけ、新しいアイデアを生み出す手法です。
3. アイデアを具体的な形にしたい、実現可能性を探りたい
- 課題: 出てきたアイデアが抽象的すぎる、アイデアの有効性を素早く検証したいなど。
- 活用フェーズ: プロトタイプ(Prototype)フェーズ、テスト(Test)フェーズの一部
- 活用ツール・手法例:
- ラピッドプロトタイピング実践: サービスブループリント、ストーリーボード、ペーパープロトタイプ、簡単なモックアップなど、アイデアを素早く形にする方法を学び、実践します。
- テスト計画・設計: 誰に、何を、どのようにテストするか、検証計画を立てるワークショップを行います。
- ユーザーテスト(模擬): ワークショップ参加者同士で簡易的なユーザーテストを実施し、フィードバックを得る練習をします。
4. 課題の本質を特定し、解くべき問いを明確にしたい
- 課題: 表面的な問題に囚われている、何から手をつければ良いか分からないなど。
- 活用フェーズ: 定義(Define)フェーズ
- 活用ツール・手法例:
- 問題定義(Point of View - PoV)作成: ユーザー視点、ニーズ、インサイトを統合し、「〜なユーザーは、〜する必要がある。なぜなら〜だからだ。」といった形式で解くべき課題を明確にします。
- 「How Might We (HMW)?」問いの設定: 定義した課題に対して、創造的なアイデアを促す「どうすれば〜できるだろう?」という問いを立てる練習をします。
- アフィニティダイアグラム(KJ法): 収集した情報やアイデアをグルーピングし、構造化することで本質的な課題やパターンを見つけ出します。
ピンポイント活用ワークショップ設計のポイント
特定のツールや手法に焦点を当てたワークショップを設計する際には、以下の点を考慮すると成功率を高めることができます。
- 目的と到達目標の明確化: クライアントがこのワークショップで何を達成したいのかを深く理解し、具体的なアウトプットや参加者の状態変化といった到達目標を明確に設定します。選定するツール・手法は、この目標達成に直接貢献するものに絞ります。
- 時間配分の最適化: ワークショップ全体の時間(例: 半日、1日)の中で、核となるツール・手法に十分な時間を割り当てつつ、導入説明、ワーク、共有、振り返りの時間をバランス良く配分します。特に、ツール・手法の簡単な解説と、それを実際に「使う」時間を重視します。
- 事前準備の重要性: クライアントから必要な情報(ユーザーデータ、既存アイデア、課題背景など)を事前に収集し、ワークショップ内でスムーズに活用できるよう準備します。ツールシートやテンプレートも事前に用意します。
- 進行とファシリテーション: ワークショップの核となるツール・手法の使い方を明確かつ簡潔に説明します。参加者が迷わずワークに取り組めるよう具体的な指示を出し、詰まっているチームには個別にサポートを行います。議論が発散しすぎず、目的から逸れないように注意しながら、参加者の主体的な発言を促します。
- 成果のまとめと次のステップ: ワークショップで得られたアウトプット(ペルソナ、アイデアリスト、プロトタイプ案など)をどのように活用するか、次のステップを明確に示します。これにより、ワークショップが単発で終わらず、クライアントの実際のビジネスに繋がることを印象付けられます。
まとめ
デザイン思考のツールや手法をピンポイントで活用するワークショップは、クライアントの特定の課題に迅速に対応し、具体的な成果を出すための有効なアプローチです。これは、デザイン思考の全体プロセスを経験したことがないクライアントにとって、その価値を体験してもらう良い機会にもなります。
フリーランスの研修講師やコンサルタントとして、クライアントの要望や制約を丁寧にヒアリングし、デザイン思考の要素の中から最も効果的なものをカスタマイズして提供することで、サービスの競争力を高めることができるでしょう。ぜひ、この記事でご紹介したポイントを参考に、クライアントニーズに寄り添った実践的なワークショップを企画・実行してみてください。