はじめてのデザイン思考ワークショップ タイムマネジメント実践ガイド
デザイン思考ワークショップを企画・実施されるフリーランスの研修講師やコンサルタントの皆様にとって、ワークショップを時間通りに、かつ効果的に進めることは重要な課題の一つです。特に、はじめてデザイン思考ワークショップを実施する場合、予測できない展開や議論の深まりによって、予定していた時間を超過してしまうことに不安を感じるかもしれません。
この記事では、デザイン思考ワークショップにおけるタイムマネジメントの重要性と、ワークショップをスムーズに進行させるための実践的な手法をご紹介します。
なぜデザイン思考ワークショップでタイムマネジメントが重要なのか
デザイン思考ワークショップは、参加者同士の活発な対話や協働を通じて、複雑な課題に対する新しいアイデアを生み出すプロセスです。しかし、この「対話」や「協働」は、時に想定外の方向に進んだり、特定のテーマに時間がかかりすぎたりすることがあります。
タイムマネジメントが適切に行われないと、以下のような問題が発生する可能性があります。
- プログラム全体の未完了: 時間切れで重要なフェーズやアクティビティが実施できず、ワークショップの成果が損なわれる。
- 参加者の疲弊: 時間超過や休憩時間の不足により、参加者の集中力やモチベーションが低下する。
- 不公平感: 特定のグループやテーマに時間がかかりすぎ、他の参加者が十分に貢献する機会を失う。
- 信頼性の低下: 時間管理が杜撰だと、ファシリテーターや主催者に対する参加者の信頼が損なわれる可能性があります。
効果的なタイムマネジメントは、ワークショップの目的達成、参加者の満足度向上、そして主催者としての信頼性確保のために不可欠です。
事前準備におけるタイムマネジメント設計
ワークショップのタイムマネジメントは、実施当日だけでなく、事前の周到な準備から始まります。
詳細なタイムスケジュールの作成
まず、ワークショップ全体の時間、各フェーズ(共感、定義、アイデア発想、プロトタイプ作成、テストなど)、そして各アクティビティ(インタビュー、ジャーニーマップ作成、ブレインストーミング、アイデア選択、プロトタイプ発表など)に要する時間を具体的に割り振ります。
- 各アクティビティの所要時間の見積もり: 過去の経験や、想定される参加者の人数、テーマの複雑さなどを考慮して、各アクティビティにかかる時間を詳細に見積もります。
- 休憩時間と移動時間の確保: 参加者の集中力を維持するため、適切なタイミングで休憩時間を設けます。また、物理的なワークショップでは、部屋間の移動や資料の準備に必要な時間も考慮に入れます。オンラインの場合は、ツールの切り替えや画面共有の準備時間なども含めます。
- バッファ時間の考慮: 想定外の遅延や議論の深まりに備え、全体の時間に対して10%程度のバッファ時間を見積もっておくことを推奨します。特にアイデア発想や議論を深めるフェーズは時間がずれやすい傾向があるため、重点的にバッファを確保することも有効です。
プログラムの流れと時間配分の確認
作成したタイムスケジュールに基づき、プログラム全体の流れを確認します。あるアクティビティが遅れた場合、その後のアクティビティにどのように影響するか、どの部分を調整する必要があるかをシミュレーションしておくと、当日慌てずに対処できます。
ワークショップ実施中のタイムマネジメント技術
綿密な事前準備に加えて、ワークショップ実施中のファシリテーション技術もタイムマネジメントには重要です。
明確な時間管理のアナウンス
各アクティビティを開始する前に、そのアクティビティの目的とともに制限時間を明確にアナウンスします。「このアイデア発想は20分間で行います」「次の発表時間は各グループ5分です」のように具体的に伝えます。
時間の経過を視覚的に共有
参加者が常に残り時間を意識できるよう、視覚的な情報を活用します。
- スライド表示: 各アクティビティの開始時や途中で、残り時間をスライドに表示します。
- タイマーの使用: スクリーンにタイマーを表示したり、スマートフォンや専用ツールでカウントダウンタイマーを使用したりします。オンラインワークショップツールに内蔵されたタイマー機能も有効です。
- 声かけ: 時間の経過に合わせて、「残り10分です」「残り3分です。そろそろまとめに入ってください」などと声かけを行います。
議論や作業の進行管理
議論が脱線したり、特定のテーマに固執したりして時間がかかりすぎないように、ファシリテーターが適切に介入します。
- 目的への回帰: 議論が脱線していると感じたら、「少し話がそれてきたようです。このアクティビティの目的は〜でしたね。本題に戻りましょう」のように、優しく目的へと誘導します。
- ポイントの要約: 議論の途中経過を簡潔に要約し、次のステップへ進むことを促します。
- グループ間の進捗確認: グループワークの場合、各グループを巡回(オンラインの場合はブレイクアウトルームを巡回)し、進捗状況を確認します。特定のグループが遅れている場合は、サポートを提供したり、必要に応じて時間配分を調整したりします。
時間超過・時間短縮への柔軟な対応
事前の計画通りに進まない場合もあります。その際の柔軟な対応策を準備しておきます。
- 時間超過しそうな場合:
- 重要なポイントに絞るよう促す。
- 当初予定していたアウトプットの形式を簡易化する。
- 後のアクティビティで調整可能な部分を検討する。
- やむを得ない場合は、参加者の合意を得て、短時間だけ延長することも選択肢に入りますが、原則として時間厳守を目指します。
- 予定より早く終わりそうな場合:
- まとめや共有の時間を少し長く取る。
- 関連する補足情報を共有する。
- 振り返りの時間を設ける。
オンラインワークショップにおけるタイムマネジメントの注意点
オンラインでのワークショップは、物理的なワークショップとは異なるタイムマネジメント上の課題があります。
- ツールの操作: 参加者のツールの習熟度によっては、操作に時間がかかり遅延の原因となることがあります。簡単な操作説明を事前に提供したり、ヘルプ体制を準備したりすることが有効です。
- 通信環境: 通信の遅延や切断は予期せぬタイムロスにつながります。開始前に参加者に通信環境の確認を促し、問題発生時の連絡手段や代替手段を案内しておきます。
- 非言語情報の少なさ: 物理的な場に比べて参加者の集中度や理解度を把握しにくいため、より意識的に声かけやリアクションの確認を行う必要があります。
- 休憩時間の管理: オンラインでは、休憩時間も各自のPCや場所での行動となるため、時間通りに戻ってこない参加者が出る可能性も考慮し、再開時間を明確にアナウンスし、声かけを行うことが重要です。
タイムマネジメントの振り返り
ワークショップ終了後、自身のファシリテーションやプログラム設計についてタイムマネジメントの観点から振り返ることは、今後の改善につながります。
- 各アクティビティに実際にかかった時間を記録しておく。
- 予定から遅延・前倒しが発生した場合、その原因を分析する。
- 参加者からのフィードバックに、時間管理に関する意見がなかったか確認する。
これらの振り返りを次回のワークショップ設計に活かすことで、より精度の高いタイムマネジメントが可能になります。
まとめ
デザイン思考ワークショップにおけるタイムマネジメントは、単に時間を守ること以上の意味を持ちます。それは、参加者が安心して議論に集中できる環境を作り、ワークショップの目的を確実に達成するための基盤となります。
事前の詳細な計画、実施中の明確な時間管理、そして予期せぬ状況への柔軟な対応力を養うことが重要です。この記事でご紹介した実践的な手法が、皆様が成功するデザイン思考ワークショップを実施するための一助となれば幸いです。継続的な改善を心がけ、参加者にとって価値ある時間を提供してください。