はじめてのデザイン思考ワークショップ オンライン設計のステップと成功のポイント
フリーランスの研修講師やコンサルタントとして、デザイン思考ワークショップの提供を検討されている皆様にとって、オンラインでの実施は避けて通れないテーマの一つです。対面形式とは異なる独自の難しさがある一方、地理的な制約なく多くの参加者にリーチできる大きな機会でもあります。
この記事では、「はじめてのデザイン思考ワークショップ」をオンラインで開催する際に知っておくべき、具体的な設計ステップと成功のための重要なポイントを解説します。実践的なノウハウを提供し、皆様が自信を持ってオンラインワークショップを企画・実行できるようになることを目指します。
オンラインデザイン思考ワークショップ設計の基本概念
オンラインでのデザイン思考ワークショップ設計は、対面式の設計プロセスを基本としながらも、デジタルツールと仮想空間の特性を最大限に活かす視点が不可欠です。参加者の集中力維持、非言語コミュニケーションの捕捉、技術的なトラブルへの対応など、オンライン特有の課題を事前に考慮し、それらを克服するための工夫を盛り込むことが成功の鍵となります。
また、オンライン環境では物理的な距離があるため、参加者同士や参加者とファシリテーターの間の「つながり」を意識的に作り出す設計がより重要になります。
オンラインワークショップ設計の具体的なステップ
オンラインデザイン思考ワークショップを設計するための具体的なステップを順を追って説明します。
ステップ1:目的と参加者の明確化(オンライン版)
- ワークショップのゴール設定: オンライン環境で「何」を達成したいのかを具体的に定義します。対面と比べて情報共有やアイデア発散に時間がかかる可能性があるため、ゴールの範囲を絞り込むことも有効です。
- 参加者の理解: 参加者のITリテラシー、オンラインツールの使用経験、自宅やオフィスからの接続環境などを事前に把握します。これにより、ツールの選び方や事前準備の案内に必要な配慮が変わります。参加者の人数やチーム分けの方法も、オンラインツールの機能(ブレイクアウトルームの数など)を考慮して検討します。
ステップ2:プログラム構成と時間配分(オンライン特有の工夫)
- セッションの分割: 人間の集中力はオンラインの方が持続しにくい傾向があります。長時間のセッションを避け、短いセッション(例: 60〜90分程度)を組み合わせ、間に十分な休憩時間を設けます。
- デザイン思考各フェーズのオンライン化: 共感、定義、アイデア発想、プロトタイプ、テストといった各フェーズに必要な時間をオンラインツールでの作業時間として見積もります。ブレイクアウトルームでのグループワーク、全体共有、個人作業などのバランスを考慮します。
- 休憩とエンゲージメント: 短い休憩を頻繁に入れるほか、長めの休憩時間も確保します。また、オンラインでの飽きを防ぐため、ワーク形式を変化させたり、短時間のアイスブレイクを取り入れたりする工夫も有効です。
ステップ3:使用ツールの選定と準備
- 必須ツール:
- ビデオ会議ツール: Zoom, Microsoft Teams, Google Meetなど。参加人数、時間制限、ブレイクアウトルーム機能などを考慮して選びます。
- オンラインホワイトボードツール: Miro, Mural, FigJam, Jamboardなど。参加者が同時にアイデアを書き込んだり、情報を整理したりするために不可欠です。機能性、操作性、ライセンス費用、参加者のツール習熟度を考慮して選びます。
- 補助ツール(必要に応じて):
- コミュニケーションツール: Slack, Chatworkなど。ワークショップ前後の連絡や、ワークショップ中の質疑応答などに利用できます。
- 共有ストレージ: Google Drive, Dropboxなど。資料や成果物の共有に利用します。
- 投票・アンケートツール: Slido, Mentimeterなど。参加者の意見集約や理解度確認に利用できます。
- ツールの組み合わせ: 複数のツールを組み合わせて使用する場合、参加者が混乱しないように、各ツールの役割と操作方法を明確に伝えます。
- ツール習熟: ファシリテーター自身が使用ツールに習熟していることが重要です。事前に十分練習しておきます。
ステップ4:ワークとアクティビティのオンライン化
- 各フェーズのワーク設計:
- 共感: オンラインでのユーザーインタビュー(ビデオ会議ツール)、オンラインホワイトボードでの情報整理(ペルソナ作成、ジャーニーマップ作成など)。
- 定義: オンラインホワイトボード上での課題定義、共感マップ作成、POV(Point Of View)作成。
- アイデア発想: オンラインホワイトボードでのブレインストーミング(デジタル付箋の使用)、アイデアのグルーピング、投票機能の活用。
- プロトタイプ: デジタルツール(描画ツール、プレゼンテーションソフト)での簡易的なモックアップ作成、ストーリーボード作成。物理的なプロトタイプの場合は、カメラを通して共有する方法を検討します。
- テスト: オンラインでのユーザーテスト(画面共有や録画)、フィードバックのオンラインでの収集・整理。
- グループワーク: ビデオ会議ツールのブレイクアウトルーム機能を積極的に活用します。グループ分けの方法(ランダム、意図的な組み合わせ)、グループへの指示伝達方法、ファシリテーターが各部屋を巡回する方法を計画します。
- インタラクションの促進: オンラインホワイトボード上での共同作業、チャット機能での質疑応答、リアクション機能の使用など、参加者間のインタラクションを促す仕掛けを組み込みます。
ステップ5:事前準備とリハーサル
- 参加者への案内: 使用ツール、参加方法(推奨環境、イヤホン使用など)、タイムスケジュール、事前課題(もしあれば)などをまとめた詳細な案内を、ワークショップの数日前に送付します。ツールの使い方に関する簡単なマニュアルや動画を提供することも親切です。
- 資料の準備: デジタル形式での資料(PDF、プレゼンテーションファイルなど)を準備し、参加者がアクセスしやすい方法で共有します。オンラインホワイトボード上にテンプレートを事前に準備しておくことも重要です。
- テクニカルサポート体制: ファシリテーターとは別に、ツールの操作方法や接続トラブルに対応するテクニカルサポート担当者を置くことが理想です。難しい場合は、ファシリテーター自身がトラブルシューティングの手順を把握しておきます。
- 通しリハーサル: 可能であれば、使用ツールを使って本番と同様の流れで通しリハーサルを行います。特にブレイクアウトルームの操作、画面共有、ホワイトボードへの書き込み、時間管理などを確認します。
オンラインワークショップ成功のためのポイント
オンラインデザイン思考ワークショップを成功に導くために、以下のポイントを意識してください。
- ツールの事前習熟: 参加者に安心してワークに集中してもらうため、ファシリテーターは使用するツールを完全にマスターしておく必要があります。
- 明確な指示と時間管理: オンラインでは対面よりも曖昧さが参加者の混乱を招きやすいです。各ワークの目的、手順、時間を明確に伝えます。タイマー機能などを活用し、時間管理を徹底します。
- 非言語コミュニケーションの補完: オンラインでは参加者の表情や細かな動きを把握しにくい場合があります。意図的に参加者に発言を促したり、チャットでの反応を見たり、オンラインホワイトボードでの書き込み状況を確認したりして、参加者の状態を把握する努力が必要です。
- 休憩の重要性: 脳の疲労を軽減し、集中力を維持するために、短い休憩と長めの休憩を適切に挟みます。休憩時間には参加者に席を離れることを推奨します。
- トラブル発生時の対応: 事前に起こりうるトラブル(音声が聞こえない、画面が共有できない、接続が切れるなど)を想定し、基本的な対処方法を準備しておきます。落ち着いて対応することが、参加者の安心につながります。
- 参加者への配慮: オンライン環境に不慣れな参加者がいる可能性を考慮し、質問しやすい雰囲気を作ります。チャットでの質問を受け付けたり、休憩時間に個別にフォローしたりする時間を持つことも有効です。
まとめ
オンラインでのデザイン思考ワークショップ設計は、対面形式の基本を踏まえつつ、デジタルツールの活用とオンライン環境特有の課題への対応が求められます。目的と参加者の明確化、オンラインに最適化されたプログラム構成と時間配分、適切なツールの選定と準備、各ワークのオンライン化、そして十分な事前リハーサルが成功の鍵となります。
この記事で解説したステップと成功のためのポイントを参考に、ぜひご自身のオンラインデザイン思考ワークショップ設計に挑戦してみてください。回数を重ねるごとに、オンラインならではの強みを活かした魅力的なワークショップを提供できるようになるはずです。