デザイン思考ワークショップで参加者の主体的な発言を引き出すファシリテーションのコツ
デザイン思考ワークショップを成功させるためには、参加者一人ひとりが主体的に考え、意見を述べ、互いのアイデアに耳を傾ける環境作りが不可欠です。特に、研修講師やコンサルタントとしてワークショップを提供される方々にとって、参加者からの多様な発言を引き出すファシリテーションスキルは、セッションの質を左右する重要な要素となります。
しかし、参加者全員が積極的に発言することに慣れているわけではありません。グループ内で発言量が偏ったり、一部の参加者が黙ってしまったりといった課題に直面することもあるかもしれません。この記事では、このような状況を乗り越え、参加者から主体的な発言を引き出すための具体的なファシリテーションのコツをご紹介します。
参加者の発言を引き出すことの重要性
デザイン思考は、様々な視点やアイデアを組み合わせることで革新的な解決策を生み出す手法です。そのため、ワークショップにおいては、参加者それぞれの経験や知識に基づいた多様な意見が出されることが非常に重要になります。
参加者の発言が活性化することで、以下のような効果が期待できます。
- アイデアの質の向上: 多様な視点からの意見交換により、より多角的で創造的なアイデアが生まれます。
- 参加者のエンゲージメント向上: 自分がワークショップに貢献できているという感覚は、参加者のモチベーションを高めます。
- 深い共感の醸成: 他者の意見を聞き、背景を理解することで、課題やペルソナに対する深い共感が生まれます。
- アウトプットの具体化: 抽象的な議論だけでなく、具体的な経験に基づいた発言が、実行可能なアウトプットへと繋がります。
逆に、一部の参加者しか発言しない、あるいは全く発言がない状況では、ワークショップの本来の目的達成が難しくなってしまいます。
主体的な発言を引き出すための具体的なファシリテーションテクニック
ここでは、参加者の主体的な発言を促すための具体的なアプローチをご紹介します。
1. 安心・安全な場づくりを徹底する
参加者が安心して自分の意見を述べられる環境を整えることが最も重要です。
- アイスブレイク: ワークショップ開始前に、参加者同士の緊張をほぐす簡単なアイスブレイクを実施します。自己紹介に加えて、簡単な質問に答えてもらうなど、全員が短時間で発言する機会を作るのが効果的です。
- グラウンドルールの設定: ワークショップを進める上でのルールを最初に共有し、参加者の合意を得ます。「他者の意見を否定しない」「全ての意見を尊重する」「積極的に傾聴する」といったルールを設定することで、心理的安全性を高めます。
- ポジティブなフィードバック: 参加者の発言に対して、「〇〇さん、ありがとうございます。素晴らしい視点ですね」「今の意見、とても面白いですね」のように、具体的に褒めたり、感謝を伝えたりすることで、発言を肯定的に強化します。
2. 問いかけ方を工夫する
どのような問いかけをするかによって、参加者から引き出される発言の質や量が変わります。
- オープンクエスチョンの活用: はい/いいえで答えられるクローズドクエスチョンではなく、「〇〇について、皆さんはどう思いますか」「具体的にどのような経験がありますか」といった、自由な回答を引き出すオープンクエスチョンを多用します。
- 具体的な状況設定: 抽象的な質問よりも、「もしあなたが〇〇の立場だったら、どのように感じますか」「例えば、どのような場面でその課題に直面しますか」のように、具体的な状況や経験に基づいた問いかけの方が、参加者はイメージしやすく発言しやすくなります。
- 沈黙を恐れない: 問いかけをした後、参加者が考えるための「沈黙」を適切に取ります。ファシリテーターがすぐに次の言葉を発してしまうと、参加者は考える時間や発言するタイミングを失ってしまいます。数秒から数十秒の沈黙は、参加者が内省し、意見をまとめるために必要な時間です。
3. 視覚的なツールを効果的に活用する
付箋やホワイトボード、模造紙、オンラインツール(Miro, Muralなど)を効果的に使用することで、参加者の思考を整理し、発言を視覚化することができます。
- アイデアの書き出し: 各参加者に個別にアイデアを付箋に書き出してもらう時間を設けます。これにより、発言が苦手な人も自分の意見を形にすることができ、他の参加者の意見に流されずに自分の考えを深めることができます。
- グルーピングと構造化: 出された意見をホワイトボードなどに貼り出し、似た意見をまとめたり、関係性を見つけたりする作業をグループで行います。これにより、全体の意見の流れが見えやすくなり、新たな発言を促すことができます。
- 投票やリアクション機能: オンラインツールや物理的な点シールなどを使い、気になるアイデアや共感する意見に投票してもらうことで、発言の少ない参加者の意向も可視化できます。
4. 発言しにくい参加者への配慮と促し
グループ全体への問いかけだけでなく、個別の参加者にも気を配ります。
- ペアワークや小グループワーク: 最初は大きなグループでの発言が難しくても、2人組や少人数でのブレイクアウトルーム(オンラインの場合)での話し合いであれば、リラックスして発言できることがあります。小さなグループで出た意見を全体で共有する、という流れを作るのも有効です。
- 順番や指名を工夫する: 全体で意見を募る際に、「何かアイデアのある方はいらっしゃいますか」と広く問いかけるだけでなく、「〇〇さん、今の議論について、何か感じたことはありますか」のように、優しく指名することも検討します。ただし、指名する際はプレッシャーを与えないよう、あくまで「もしあれば」というニュアンスで尋ねることが大切です。事前に「後ほど皆さんにお聞きしますね」と伝えておくことも有効です。
- 多様な意見を歓迎する姿勢を示す: 少数意見や、他の人と異なる意見が出た際に、「〇〇さん、素晴らしい着眼点ですね。もう少し詳しく聞かせてもらえませんか」のように、積極的に拾い上げ、深掘りすることで、他の参加者も安心して異なる意見を表明できるようになります。
5. オンラインワークショップにおける工夫
オンライン環境特有の課題に対応するための工夫も重要です。
- チャット機能の活用: 発言するほどではないが短いコメントや質問がある場合、チャットでの入力を促します。ファシリテーターはチャットも常に確認し、適宜拾い上げて全体で共有します。
- リアクション機能やスタンプ: 簡単な反応を示すための機能(Zoomのリアクション、Slackのスタンプなど)を使い、発言以外の方法でも参加意思や共感を示せるようにします。
- ブレイクアウトルームの積極的な活用: 参加人数が多い場合、ブレイクアウトルームに分かれて少人数でじっくり話し合う時間を設けることで、全員が発言する機会を増やします。ルーム分けや時間配分、成果の共有方法を事前に明確にしておきます。
まとめ
デザイン思考ワークショップにおける参加者の主体的な発言は、セッションの成功に不可欠な要素です。今回ご紹介したテクニックは、安心・安全な場づくり、問いかけ方の工夫、ツールの活用、個別への配慮、オンライン対応といった多角的なアプローチに基づいています。
これらのテクニックは、どれか一つを行えば良いというものではなく、ワークショップの目的、参加者の構成、時間などの要素に合わせて、柔軟に組み合わせ、実践することが大切です。
フリーランスの研修講師やコンサルタントとして、質の高いデザイン思考ワークショップを提供するためには、これらのファシリテーションスキルを磨き続けることが重要です。繰り返し実践し、参加者の反応を見ながら調整していくことで、より効果的に参加者の主体性を引き出せるようになるでしょう。ぜひ、次回のワークショップでこれらのコツを試してみてください。