デザイン思考ワークショップで役立つツール活用法:ポストイットからオンラインツールまで実践ガイド
デザイン思考ワークショップを企画・実行されるフリーランスの研修講師・コンサルタントの皆様にとって、ワークショップで使用するツールは成功を左右する重要な要素の一つです。適切にツールを活用することで、参加者の思考を可視化し、活発な議論を促進し、アイデアを効果的に整理・発展させることが可能になります。
本記事では、デザイン思考ワークショップでよく用いられるオフラインおよびオンラインの主要なツールについて、それぞれの具体的な使い方や効果的な活用方法、そして準備における注意点などを実践的に解説いたします。ツールに関する具体的なノウハウを習得し、より質の高いワークショップ提供にお役立てください。
オフラインワークショップの基本ツールとその使い方
対面形式のワークショップでは、物理的なツールが参加者の五感に働きかけ、創造的な活動を促します。
ポストイット(付箋)
デザイン思考ワークショップにおいて最も基本的なツールと言えるのがポストイットです。アイデア出し(発散)や情報の整理(収束)など、様々なフェーズで活用します。
- 基本的な使い方: 一つのポストイットには「一つのアイデア」や「一つの事実」のみを記述するルールを徹底します。これにより、後からの移動や分類が容易になります。記述は大きく読みやすい字で行うよう参加者に促します。
- 色分けの活用: ポストイットの色を変えることで、情報の種類(例: 事実、アイデア、課題)、アイデアのカテゴリ、発言者などを視覚的に区別できます。これにより、情報の構造を把握しやすくなります。
- 情報の構造化: 壁や模造紙にポストイットを貼りながら、関連する情報をグループ化したり(アフィニティマッピング)、時系列に並べたり(ジャーニーマップ)することで、複雑な情報を整理し、新たな視点を発見します。
- 剥がれにくい貼り方: ポストイットを台紙から剥がす際は、粘着部分と平行に横方向に剥がすとカールしにくく、壁や模造紙にしっかりと貼り付きます。
模造紙・ホワイトボード
ポストイットを貼ったり、図や絵を描いたり、KJ法などの手法を実践したりするために広く使用されます。
- 情報の集約と共有: チームごとの議論結果や、全体での共通認識などを模造紙やホワイトボードに集約することで、参加者全体で情報を共有し、議論の土台とします。
- 視覚的な情報の整理: ポストイットと組み合わせて、情報の関連性を線で結んだり、図を描き加えたりすることで、思考プロセスやアイデアの構造を視覚的に表現します。
- 写真撮影: ワークショップの途中や終了時には、模造紙やホワイトボードに書かれた内容を写真に撮っておくことが重要です。これにより、記録を残し、後からの振り返りや成果物の整理に活用できます。きれいに撮影するために、照明や角度に配慮が必要です。
マーカー
模造紙やホワイトボード、ポストイットに記述するためのツールです。
- 太さと色: 参加者全員が見やすいように、太めの油性マーカー(模造紙用)や、インクが鮮やかなホワイトボードマーカーを選びます。複数の色を用意すると、情報の区別や強調に役立ちます。
- 書き方のコツ: 参加者には、遠くからでも見えるように、大きく丁寧に書くよう促します。特に模造紙に書く際は、筆圧を均一にすると読みやすくなります。
その他のツール
- 付箋(マスキングテープタイプ): ポストイット同士を一時的にまとめたり、模造紙に区分けの線を引いたりするのに便利です。
- ドットシール: アイデアの人気投票(ドット投票)を行う際に使用します。色の異なるドットシールを用意すると、複数の基準で投票できます。
- タイマー: 各ワークの時間を管理し、時間内に集中して取り組むために使用します。視覚的に残り時間が分かるもの(プロジェクターで表示するなど)があると、参加者の時間意識が高まります。
- マスキングテープ: ワークスペースを区切ったり、模造紙を壁に貼ったりする際に使用します。壁を傷めにくい素材を選びましょう。
オフラインツールの準備のポイント
- 十分な量を用意する: ポストイットやマーカーは予想以上に消費することがあります。参加者数やワークの量を見積もり、少し多めに用意しておくと安心です。
- ツールの配置: 参加者が自由に手に取れる場所にツールを配置します。チームごとにセットを用意するのも良い方法です。
- 事前の確認: マーカーのインクが出るか、ポストイットの粘着力は十分かなどを事前に確認しておきます。
オンラインワークショップの主要ツールとその使い方
オンラインでの実施では、デジタルツールが中心となります。ツールの選定と参加者へのアナウンスが重要です。
オンラインホワイトボード(Miro, Muralなど)
オンラインデザイン思考ワークショップの核となるツールです。リアルタイムでの共同作業を可能にします。
- 基本的な機能: 付箋(Sticky Notes)、図形(Shapes)、線(Lines)、フレーム(Frames)などの基本機能を活用して、アイデア出し、情報の整理、図解などを行います。
- 共同編集: 参加者全員が同時に一つのボード上で作業できます。他の参加者の動きが見えることで、一体感や刺激が生まれます。
- テンプレート活用: デザイン思考の各フェーズに対応した豊富なテンプレート(ジャーニーマップ、ビジネスモデルキャンバス、KJ法など)が用意されています。これを活用することで、効率的にワークを進められます。
- 操作の説明: オンラインツールに慣れていない参加者もいるため、ワーク開始前にツールの基本的な操作方法(付箋の出し方、移動方法、文字入力など)を丁寧に説明する時間を設けることが不可欠です。必要に応じて、操作練習の時間を設けることも検討します。
ビデオ会議ツール(Zoom, Microsoft Teamsなど)
参加者の音声・映像コミュニケーションを担うツールです。
- ブレイクアウトセッション: 少人数のチームに分かれて議論するために使用します。チームごとの作業状況を巡回したり、全体に戻して共有したりする際に活用します。
- 画面共有: 発表者が資料を共有したり、オンラインホワイトボードの特定のエリアを拡大して見せたりする際に使用します。
- チャット機能: 質疑応答を受け付けたり、参考情報を共有したりするのに便利です。
- リアクション機能: 拍手やサムズアップなどのリアクション機能は、非言語でのコミュニケーションを円滑にし、参加者のエンゲージメントを高めるのに役立ちます。
情報共有・ドキュメントツール(Google Docs, Notionなど)
ワークショップで生まれたアイデアや議論の内容を構造化して記録・共有するために使用します。
- 議事録: ワークショップ全体の進行や重要な決定事項を記録します。
- アイデア整理: オンラインホワイトボードで生まれた大量のアイデアを、後から整理・分類したり、テキスト情報としてまとめたりするのに使用できます。
- 成果物の共有: ワークショップで作成した成果物(プロトタイプの詳細、テスト結果など)を参加者と共有し、継続的な取り組みにつなげます。
オンラインツールの準備のポイント
- ツールの選定と習熟: ワークショップの目的や内容、参加者のITリテラシーレベルに合わせてツールを選定します。ファシリテーター自身がツールに習熟していることが大前提です。
- 参加者への事前案内: 使用するツール、参加に必要な環境(PC、カメラ、マイク、安定したインターネット接続)、ツールの使い方(事前に使い方マニュアルを送付するなど)を明確に案内します。事前の接続テストを推奨することも有効です。
- トラブルシューティング計画: 参加者がツールの使用で困った場合のサポート体制(連絡先、サポート担当者など)を準備しておきます。
ツール活用のポイントと注意点
- 目的とフェーズに合わせる: ツールはあくまでワークショップの目的達成を助ける手段です。ワークの目的やデザイン思考のどのフェーズにいるのかを常に意識し、それに最適なツールを選択し、効果的に活用します。
- 参加者への明確な指示: ツールを使う際は、参加者に対して「何のためにそのツールを使うのか」「具体的にどう使うのか」「どのような状態を目指すのか」を明確に伝えます。特にオンラインでは、口頭での説明に加えて、画面共有で操作を示したり、チャットで補足したりすることが重要です。
- アイデアの記録と活用: ワークショップ中にツール上に集まったアイデアや情報は、後から見返せるように記録(写真撮影、データ保存など)しておき、次のステップでの議論やアクションに繋げます。
- ツールに振り回されない: 最新の多機能ツールを使うことが目的ではありません。ツールの操作に時間を取られすぎたり、ツールの機能にワークの内容が左右されたりしないよう注意が必要です。シンプルなツールでも十分に効果的なワークショップは実施できます。
まとめ
デザイン思考ワークショップにおけるツールは、参加者の思考を可視化し、協働を促進するための強力な味方です。オフラインではポストイットや模造紙が、オンラインではオンラインホワイトボードやビデオ会議ツールが中心的な役割を果たします。
これらのツールを効果的に活用するためには、それぞれのツールの特性を理解し、ワークショップの目的やフェーズに合わせて適切に選択すること、そして参加者への丁寧な使い方説明と事前の準備が重要です。ツールをあくまで手段として捉え、参加者の創造性や活発な議論を引き出すことに焦点を当てることで、より実りあるワークショップを実現できるでしょう。
ぜひ本記事を参考に、ご自身のワークショップでツールの活用方法を見直し、参加者にとって価値ある体験を提供してください。