はじめてのデザイン思考ワークショップ チーム規模に合わせた効果的な設計とファシリテーション
フリーランスの研修講師やコンサルタントとして、デザイン思考ワークショップの提供を検討されている皆様へ。ワークショップの成功は、事前の設計と当日のファシリテーションに大きく左右されます。特に、参加されるチームの規模は、進行方法や使用するツール、さらには期待できる成果の質にも影響を与える重要な要素です。
本記事では、チーム規模がデザイン思考ワークショップに与える影響と、それぞれの規模に応じた効果的な設計およびファシリテーションのポイントについて解説します。クライアントから様々な規模のチームでのワークショップを依頼された際に、自信を持って対応できるようになることを目指します。
なぜチーム規模によって設計を変える必要があるのか
デザイン思考は、参加者の共感や協働を通じて新しいアイデアを生み出し、検証するプロセスです。このプロセスにおいて、参加者同士のコミュニケーションや情報共有のスタイルは、チームの規模によって大きく異なります。
- 小規模チーム: 参加者一人ひとりの声が通りやすく、密なコミュニケーションが可能です。反面、視点が偏ったり、アイデアの幅が狭まったりするリスクもあります。
- 中規模チーム: 複数の小グループに分かれて作業を進めることが一般的になります。グループ間の連携や全体への情報共有が課題となります。
- 大規模チーム: 全体を一つの塊として進行するのは難しく、効果的なグループ分けや全体の進捗・エネルギー管理が極めて重要になります。参加者間の温度差が生じやすい側面もあります。
これらの特性を理解し、規模に合わせた設計を行うことで、ワークショップの効果を最大化し、参加者のエンゲージメントを高めることができます。
チーム規模別の設計ポイント
ワークショップの設計においては、アジェンダ構成、グループ分け、使用ツール、会場レイアウト(オンラインの場合はルーム設計)などを規模に応じて調整します。
小規模チーム(〜10名程度)
- アジェンダ・時間配分:
- 各フェーズで参加者全員での集中的な議論や作業時間を多く設けることができます。
- 個々のアウトプットを全体で共有し、深掘りする時間を十分に確保します。
- グループ分け戦略:
- 基本的にグループ分けは不要で、全体で一つのチームとして進行します。
- 使用ツール:
- 物理的なワークショップであれば、大きめの模造紙やホワイトボードを中心に、参加者全員で共同して書き込むスタイルが有効です。
- オンラインであれば、MiroやMuralのようなオンラインホワイトボードツールを全員で共有して使用します。
- 会場/ルーム設計:
- 全員が顔を見合わせやすく、気軽に発言できるような円卓やコの字型の配置が適しています。
- オンラインでは、メインルームで常に全員が一緒に作業する形式となります。
中規模チーム(10〜30名程度)
- アジェンダ・時間配分:
- グループワークの時間を確保し、その後、各グループの成果を全体で発表・共有する時間を設けます。グループ発表と質疑応答の時間を計画的に組み込みます。
- グループ分け戦略:
- 3〜5名程度の小グループに分けます。グループ分けは、多様な視点を取り入れるためにランダムにする、特定の役割や背景を持つメンバーを意図的に組み合わせるなど、目的に応じて検討します。
- 使用ツール:
- 物理的なワークショップでは、グループごとに模造紙やポストイット、ホワイトボードを用意します。全体共有時にはプロジェクターなどを活用します。
- オンラインでは、オンラインホワイトボードツール上で複数のフレーム(グループごとの作業スペース)を作成し、ブレイクアウトルームと組み合わせて使用します。
- 会場/ルーム設計:
- グループごとに分散して作業できるスペースが必要です。島型配置などが一般的です。
- オンラインでは、ブレイクアウトルーム機能を活用し、スムーズな移動と部屋ごとの作業スペースの確保が必要です。
大規模チーム(30名〜)
- アジェンダ・時間配分:
- グループワークが中心となります。全体での説明や共有時間は短くし、効率的に行います。グループ間の成果共有は、代表者発表と並行して、ギャラリーウォーク(物理)やオンラインボードでの閲覧(オンライン)を組み合わせるなどの工夫が必要です。
- 休憩時間をやや長めに取るなど、参加者の集中力を維持するための配慮が必要になります。
- グループ分け戦略:
- 中規模と同様に3〜5名程度のグループに分けますが、グループ数が非常に多くなります。グループ分けは事前に済ませておくか、スムーズにグループが作れるような仕組みを用意します。
- 使用ツール:
- グループごとのツールに加え、全体への情報伝達や指示のためにマイク、スピーカー、大型スクリーンなどが必須となる場合があります。
- オンラインでは、ブレイクアウトルームの管理、複数のファシリテーターによるサポート体制、全体への一斉アナウンス機能などが重要になります。オンラインホワイトボードツールは、大人数が同時にアクセスしても安定して動作するか、情報量が膨大になった場合にどう整理・共有するかの計画が必要です。
- 会場/ルーム設計:
- 大人数収容可能な広い会場が必要です。グループごとの作業スペースと、全体での共有スペースを明確に区別します。
- オンラインでは、メインルームと多数のブレイクアウトルーム間の行き来や管理が複雑になります。ツール設定や役割分担が重要です。
チーム規模別ファシリテーションのポイント
設計と同様に、当日のファシリテーションも規模に応じて工夫が必要です。
小規模チーム(〜10名程度)
- 全体進行:
- ファシリテーターが中心となり、参加者一人ひとりに積極的に声かけを行います。
- 全員の意見を引き出し、対話を通じてアイデアを深めていきます。
- アウトプットの共有・収束:
- 全員が発表者であり、聞き手となります。活発な質疑応答やフィードバックを促します。
- 全体での合意形成を図りやすいです。
- エネルギー管理:
- 全員の表情や反応を見ながら、適宜休憩を挟んだり、簡単なアクティビティを取り入れたりします。
中規模チーム(10〜30名程度)
- 全体進行:
- 全体への指示は明確かつ簡潔に行います。
- グループワーク中は、各グループを巡回し、状況を把握し、詰まっているグループには声かけやヒントを提供します。必要に応じてサブファシリテーターと連携します。
- グループファシリテーション:
- グループ内での議論が脱線していないか、時間内に作業が進んでいるかなどを確認します。
- 各グループが自律的に進められるよう、事前に具体的な手順やゴールを明確に伝えます。
- アウトプットの共有・収束:
- 各グループの代表者や全員で発表を行います。発表時間を厳守するよう促し、効率的な共有を心がけます。
- 発表後の質疑応答は、全体で共有したい点に絞るなどの工夫が必要です。
- 大量のアイデアやアウトプットを効率的に整理・分類・評価する手法(例: ドット投票、アフィニティマッピング)を効果的に活用します。
大規模チーム(30名〜)
- 全体進行:
- 複数のファシリテーター(メインファシリテーターとサブファシリテーター)による体制が望ましいです。役割分担(全体進行、グループサポート、ツール操作など)を明確にします。
- 全体へのメッセージは、マイクなどを使い、会場全体に行き渡るようにします。
- 時間管理は特に厳密に行い、全体での遅れがないように進めます。
- グループファシリテーション:
- サブファシリテーターが各グループを重点的にサポートします。メインファシリテーターは全体の状況を俯瞰し、必要に応じて指示を出します。
- 多くのグループがあるため、全てのグループを詳細に把握することは困難です。各グループのリーダーや担当者を決め、進捗報告を求めるなどの方法も有効です。
- アウトプットの共有・収束:
- 全てのグループが発表すると時間がかかりすぎるため、代表グループのみの発表や、成果物を一覧できる形(例: 壁に貼り出す、オンラインボードに集約)での共有が中心となります。
- 多数のアイデアの中から重要なものを選び出すプロセス(例: 大規模なドット投票、テーマ別の分類)を効率的に行えるよう設計します。
- エネルギー管理:
- 大人数を対象とした全体向けのアクティビティ(簡単なストレッチなど)を取り入れ、一体感を維持し、集中力が途切れないように工夫します。
オンラインワークショップにおける規模別の注意点
オンラインでの実施は、物理的な制約が少なくなる反面、参加者の状況把握や一体感の維持が難しくなります。規模が大きくなるほど、ツールの選定、ブレイクアウトルームの運用、通信環境への配慮などがより重要になります。
- ツール選定: 大規模なオンラインワークショップでは、大人数の同時接続や共同作業に耐えうる高性能なオンラインホワイトボードツールやビデオ会議システムが必要です。ツールの使い方を事前に参加者に周知することも重要です。
- ブレイクアウトルーム運用: 中規模以上ではブレイクアウトルームが必須ですが、ルーム間の移動や、各ルームの状況把握、時間管理が複雑になります。ルーム数を適切に設定し、ファシリテーターの役割分担を明確にします。
- コミュニケーション: チャット機能を活用した全体への情報伝達や、グループ内でのテキストコミュニケーションの促進も有効です。音声だけでなく、テキストや画面共有も効果的に組み合わせます。
結論
デザイン思考ワークショップは、その手法の汎用性の高さから、様々な規模のチームに対して実施する機会があります。フリーランスの研修講師・コンサルタントとして、クライアントのニーズに的確に応えるためには、チーム規模という要素を考慮した柔軟な設計とファシリテーションのスキルが不可欠です。
本記事でご紹介したポイントを参考に、提供されるワークショップの規模に応じて、アジェンダ、グループ分け、ツール、そしてご自身のファシリテーションスタイルを調整してみてください。規模に合わせた適切なアプローチをとることで、参加者のエンゲージメントを高め、ワークショップからより質の高いアウトプットと、参加者自身の実践への繋がりを生み出すことができるはずです。
多様なチーム規模に対応できることは、皆様のサービス提供における大きな強みとなります。ぜひ、これらの知見を活かし、様々なワークショップを成功に導いてください。