はじめてのデザイン思考ワークショップ プロトタイプとテストフェーズの実践ガイド
デザイン思考ワークショップの企画や運営に携わるフリーランスの研修講師、コンサルタントの皆様へ。
アイデア発想のフェーズは盛り上がりますが、その後の「形にする」「試す」というステップでつまずくことは少なくありません。特に初めてデザイン思考ワークショップを実施される場合、プロトタイプとテストフェーズをどのように設計し、参加者をナビゲートすれば良いか悩むこともあるかと思います。
この記事では、デザイン思考プロセスの中核であるプロトタイプとテストフェーズに焦点を当て、ワークショップとして効果的に実施するための具体的な手順と、よくある課題への対処法を解説します。
プロトタイプフェーズの目的とワークショップでの進め方
プロトタイプフェーズの主な目的は、前のフェーズで生まれたアイデアを「具体的な形」にすることです。これは、アイデアが抽象的な概念のままでは、他者と共有したり、ユーザーからフィードバックを得たりすることが難しいためです。形にすることで、アイデアの欠陥や新たな可能性が見えてきます。
ワークショップにおけるプロトタイプフェーズのポイントは以下の通りです。
- 目的の明確化:
- 単に物を作るのではなく、「何を検証したいのか」を明確に参加者と共有します。例えば、「このアイデアはユーザーの〇〇という課題を解決できるか」「この機能は使いやすいか」などです。
- 「つくりすぎない」意識:
- この段階のプロトタイプは、完璧な製品やサービスを目指すものではありません。検証に必要な最小限の要素だけを素早く形にすることが重要です。これを「ローファイ・プロトタイピング」と呼びます。紙とペン、段ボール、付箋、簡単なデジタルモックアップなどで十分な場合が多いです。
- 具体的な手法の提示:
- 参加者がアイデアを形にする具体的な手段を提供します。物理的な製品であれば簡易な模型(ペーパープロトタイプ、粘土、レゴなど)、デジタルサービスであれば画面遷移図やモックアップ(紙やデジタルツールで作成)、サービスや体験であれば寸劇(ロールプレイング)などが考えられます。アイデアに応じて複数の手法を提示し、選択肢を与えると良いでしょう。
- 時間管理:
- プロトタイプ作成は時間をかけすぎると目的から外れがちです。厳密な時間制限(例: 30分〜1時間程度)を設け、短時間で粗くても良いので形にするように促します。
- チーム内での共有:
- 完成したプロトタイプをチーム内で共有し、互いにフィードバックします。「これはどういうもの?」「何ができるの?」「使う人はどんな人?」といった問いかけを促し、テストに向けてプロトタイプの意図を明確にします。
ワークショップでのファシリテーションのヒント:
- 「完璧を目指さないでください。荒削りで大丈夫です」と繰り返し伝え、心理的なハードルを下げます。
- 様々なプロトタイピングツールや材料(紙、ペン、ハサミ、ノリ、付箋、段ボール片、ブロックなど)を豊富に準備し、参加者がすぐに取り掛かれるようにします。
- 各チームを巡回し、アイデアが形になりにくいチームには具体的なプロトタイピング手法のヒントを与えます。
テストフェーズの目的とワークショップでの進め方
テストフェーズの目的は、プロトタイプを実際のユーザー候補に体験してもらい、正直なフィードバックを得ることです。これは、アイデアが本当にユーザーのニーズに応えているか、使いやすいか、価値を感じてもらえるかなどを検証するために不可欠です。
ワークショップにおけるテストフェーズのポイントは以下の通りです。
- テスト対象者の選定:
- 可能であれば、ワークショップに参加していない外部のユーザー候補に協力をお願いするのが理想です。内部の人間だけでは、アイデアに対する前提知識があるため客観的なフィードバックが得られにくい場合があります。ワークショップの参加者に、テスト協力者をアサインしてもらう方法も考えられます。
- テストシナリオの設計:
- どのような状況で、どのようにプロトタイプを使ってもらい、どのようなフィードバックを得たいのか、事前にシナリオを設計します。「〇〇の課題を抱えるAさんが、このプロトタイプを使って△△しようとする場面」のように、具体的なユーザー像と利用シーンを設定するとテストしやすくなります。
- フィードバックの収集方法:
- 単に「どうでしたか?」と聞くだけでは不十分です。「〇〇を試してみて、どのように感じましたか?」「この機能を使ってみて、困ったことはありましたか?」など、具体的な行動や感情に焦点を当てた質問を用意します。誘導的な質問は避け、ユーザーの自然な反応を引き出すように心がけます。
- フィードバックは、良い点だけでなく、課題や改善点、ユーザーの新しいニーズなど、多角的に収集します。
- 役割分担:
- テスト実施者(ユーザーと対話)、書記(フィードバックを記録)、観察者(ユーザーの行動や表情を観察)など、チーム内で役割分担をすることで、効率的かつ多角的に情報を収集できます。
- フィードバックの整理:
- 収集したフィードバックをチームで共有し、整理・分析します。共感フェーズで作成したペルソナやジャーニーマップに照らし合わせながら、新たなインサイトや改善点を見出します。KPT(Keep, Problem, Try)やI like / I wish / What if といったフレームワークを使うことも有効です。
ワークショップでのファシリテーションのヒント:
- 「テストは成功/失敗を判断するものではなく、学びを得るためのものです」と伝え、参加者が客観的にフィードバックを受け入れられるよう促します。
- ユーザー役とのコミュニケーション方法(傾聴、質問、観察のポイント)について簡単なガイダンスを行います。
- 外部からのテスト協力を得るのが難しい場合は、ワークショップの他のチームがユーザー役を務める「ピアテスト」も有効な代替手段です。ただし、その場合も「自分たちの知っている情報はいったん忘れ、ユーザーになりきってください」と明確に指示します。
- フィードバックを記録するためのフォーマット(模造紙やデジタルホワイトボードのテンプレートなど)を事前に用意しておくとスムーズです。
ワークショップ全体の中での位置づけと次のステップ
プロトタイプとテストフェーズは、デザイン思考プロセスにおける重要な「検証と学習」のサイクルです。このフェーズで得られたフィードバックは、次のステップ(アイデアの見直し、再定義、あるいは新たなアイデア発想)に直接つながります。
ワークショップの設計においては、テスト結果を受けてどのように次の行動に移るかの時間を設けることが重要です。「得られた学びを既存のアイデアにどう反映させるか」「このフィードバックから見えてきた新たな課題は何か」といった問いかけを通じて、参加者がテスト結果を意味づけし、具体的な次のアクションに繋げられるようにサポートします。
まとめ
デザイン思考ワークショップでプロトタイプとテストフェーズを成功させるためには、その目的(検証と学習)を明確にし、参加者が短時間で具体的な形を作り、客観的なフィードバックを得られるような設計とファシリテーションが必要です。完璧を目指さず、荒削りでも良いので「まず試してみる」という行動を促すことが、参加者の学びとアイデアの質の向上に繋がります。
この記事でご紹介したポイントが、皆様のデザイン思考ワークショップをより実践的で価値あるものにするための一助となれば幸いです。