デザイン思考ワークショップのモジュール化・再構築ガイド:時間・予算・目的に合わせた柔軟な設計方法
デザイン思考ワークショップのモジュール化・再構築ガイド:時間・予算・目的に合わせた柔軟な設計方法
フリーランスの研修講師やコンサルタントの皆様にとって、デザイン思考ワークショップはクライアントに提供できる有力なサービスの一つです。しかし、クライアントのニーズは多岐にわたり、決まった形式のワークショップだけでは対応しきれない場面も多いのではないでしょうか。時間、予算、参加者の経験レベル、達成したい具体的な目的など、様々な制約や要望に応じた柔軟な設計が求められます。
この記事では、デザイン思考ワークショップを「モジュール」という単位で捉え、それらを組み合わせて再構築することで、多様なクライアントニーズに柔軟に対応するための実践的な方法論をご紹介します。
なぜデザイン思考ワークショップのモジュール化が必要なのか
デザイン思考プロセスは通常、共感、定義、アイデア、プロトタイプ、テストという5つのフェーズを経て進行します。標準的なワークショップは、これらのフェーズを網羅するように設計されることが多いものです。しかし、現実のビジネスシーンでは、必ずしも全てのフェーズを同じ時間や深さで行えるわけではありません。
- 時間的制約: 1日、半日、あるいは数時間といった限られた時間で実施したいという要望が多くあります。
- 予算的制約: 高価な会場費やツール、講師費用に多くの予算をかけられないケースもあります。
- 特定課題への集中: 特定のフェーズ(例:顧客理解を深めたい、アイデアを大量に出したい)に焦点を当てたいというクライアントもいらっしゃいます。
- 参加者の経験: デザイン思考に慣れていない参加者向けに基本から丁寧に行う必要があったり、既に知識がある参加者向けに応用的な内容に時間を割いたりする必要があったりします。
これらの多様なニーズに対応するためには、ワークショップ全体を固定されたものとして捉えるのではなく、より小さな単位に分解し、それらを自由に組み合わせたり、内容を調整したりできる「モジュール構造」で設計することが有効です。これにより、提案の幅が広がり、クライアントの課題解決に真に役立つワークショップを提供しやすくなります。
デザイン思考ワークショップをモジュールとして捉える考え方
デザイン思考ワークショップをモジュールとして捉えるとは、ワークショップを構成する要素(フェーズ、具体的なワーク、アクティビティ、説明パートなど)を、それぞれ独立した機能を持つ単位(モジュール)として定義することです。
例として、標準的な1日のデザイン思考ワークショップを考えてみましょう。
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導入モジュール:
- 目的: デザイン思考の概要説明、ワークショップの目的共有、参加者のアイスブレイク
- 時間: 30分
- 必要なもの: スライド、簡単なアクティビティ説明
- アウトプット: なし、または簡単な自己紹介シート
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共感モジュール:
- 目的: ターゲット顧客への共感、ペルソナ・ジャーニーマップ作成
- 時間: 90分
- 必要なもの: ペルソナ・ジャーニーマップ用テンプレート、調査データ
- アウトプット: ペルソナ、カスタマージャーニーマップ(ラフ)
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定義モジュール:
- 目的: 課題の本質定義、問題提起(HMW?)
- 時間: 60分
- 必要なもの: 定義用シート、ポストイット
- アウトプット: 定義された課題文、HMW?ステートメント
このように、ワークショップを構成する要素を分解し、「何のために」「どのくらいの時間で」「何を使って」「何を得るか」を明確に定義していくのがモジュール化の第一歩です。
具体的なモジュール化の手順
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標準フローの要素分解: ご自身が考える標準的なデザイン思考ワークショップのプロセスを詳細に分解します。各フェーズで行う具体的なアクティビティ(例: インタビュー練習、データ整理、HMW発想、ブレインストーミング、グルーピング、プロトタイピング手法説明、テスト計画作成など)をリストアップします。
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モジュール単位の定義: リストアップしたアクティビティや説明パートを、組み合わせ可能な最小単位、あるいは意味のある一連の流れを持つ単位としてグループ化し、モジュールを定義します。
- 例: 「共感フェーズの説明+インタビュー練習」「共感フェーズのデータ整理+ペルソナ作成」「アイデア発想(ブレインストーミング)」「アイデアの分類・グルーピング」など。
- 各モジュールに分かりやすい名称を付けます。
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各モジュールの詳細設計: 定義した各モジュールについて、以下の点を明確にします。
- 目的: そのモジュールを通じて参加者に何を学んでほしいか、何を得てほしいか。
- 所要時間の目安: 計画段階での大まかな時間枠。
- 必要な準備: 参加者に事前に伝えておくべきこと、講師側で準備する資料、ツール、会場設営など。
- 必要なツール・資料: ワークシート、ポストイット、ペン、模造紙、オンラインツールの設定など。
- アウトプット: そのモジュール完了時に参加者(またはチーム)が得る具体的な成果物(例: ペルソナシート、HMWリスト、アイデアスケッチ、プロトタイプなど)。
- ファシリテーションのポイント: そのモジュールを円滑に進めるための注意点や具体的な声かけなど。
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モジュール間の連携の整理: 各モジュールがどのようなアウトプットを次のモジュールに引き渡すのか、連携を整理します。これは、モジュールを組み合わせる際に流れが破綻しないようにするために重要です。
クライアントニーズに合わせたモジュールの組み合わせ方・再構築例
モジュールが定義できたら、クライアントの具体的な要望に応じて、これらのモジュールを組み合わせたり、内容を調整したりして、最適なワークショップを再構築します。
例1:時間制約がある場合(例:半日ワークショップ)
標準的な1日ワークショップのモジュールリストから、必須と思われるモジュールを選定し、それ以外のモジュールは削るか、内容を大幅に凝縮します。
- 組み合わせ例:
- 導入(短縮版)
- 共感(核となる情報共有+簡略化されたペルソナ作成)
- 定義(課題抽出+HMW設定)
- アイデア(短時間ブレインストーミング+絞り込み)
- 簡易プロトタイプ&発表(紙や簡単な図解で表現)
- まとめ
- ポイント: 各モジュールの所要時間を短縮し、説明を簡潔に行います。アウトプットの質よりも、プロセス全体の流れを体験することや、特定の核となる課題に取り組むことに重点を置きます。事前のインプット資料配布や宿題を組み合わせることも有効です。
例2:特定のフェーズに特化したい場合(例:アイデア創出に集中)
クライアントが既に課題を明確に持っており、多様なアイデア発想とその絞り込みに焦点を当てたい場合などです。
- 組み合わせ例:
- 導入(デザイン思考のアイデアフェーズに関する説明)
- アイデア創出モジュール(複数の発想法を組み合わせる:KJ法、SCAMPER、WORDFRAMEなど)
- アイデア分類・グルーピングモジュール
- アイデア絞り込み・評価モジュール
- 簡易発表・共有モジュール
- まとめ
- ポイント: 特定のフェーズに関連するモジュールを深く掘り下げ、複数の手法を盛り込むことで、そのフェーズの目的を最大限に達成することを目指します。他のフェーズは簡単な説明や、事前のインプットで済ませることが可能です。
例3:予算が限られている場合
オンラインでの実施を基本とするモジュールの組み合わせや、特別なツールを必要としないモジュールを中心に設計します。
- 組み合わせ例:
- オンラインでの導入モジュール(MiroやMural等のボードツールの使い方も説明)
- オンライン共有ボード上での共感・定義モジュール
- オンラインブレイクアウトルームを活用したアイデア創出モジュール
- オンライン投票機能等でのアイデア絞り込みモジュール
- オンラインでのプロトタイプ共有・フィードバックモジュール
- オンラインでのまとめ・次のアクション共有
- ポイント: オンラインツールを最大限に活用し、物理的な準備コストを抑えます。参加者への事前のツール説明や、通信環境への配慮が必要です。
モジュール設計における考慮事項
- モジュール間の整合性: モジュールを組み合わせた際に、ストーリーや流れが不自然にならないように、各モジュールの目的とアウトプットが次のモジュールへとスムーズにつながるかを確認します。
- 参加者の経験レベル: モジュールの内容や難易度が、想定される参加者の経験レベルに適しているか検討します。必要に応じて、初心者向け・経験者向けといったバリエーションモジュールを用意することも考えられます。
- ツールの互換性: 使用するツール(オンラインツール、テンプレートなど)が、選択したモジュール間で互換性があるか確認します。
- 提供形式(対面・オンライン): 各モジュールが対面、オンライン、またはハイブリッド形式のいずれで実施可能か、それぞれの形式での進行方法や注意点を整理しておくと、提案時に役立ちます。
モジュール設計をサービス提供に活かすヒント
モジュール設計を行うことで、クライアントへの提案の幅が格段に広がります。
- 明確なサービスメニュー化: 定義したモジュールをカタログのようにリストアップし、それぞれの目的や所要時間、期待できる成果を明示することで、クライアントは自身のニーズに合わせて必要な要素を選びやすくなります。
- 柔軟な価格設定: 基本的なモジュールを組み合わせてパッケージプランを作成したり、特定の追加モジュールを選択可能にしたりすることで、予算に応じた柔軟な価格設定が可能になります。
- 迅速な提案作成: クライアントから要望を受けた際に、既存のモジュールを組み合わせることで、ゼロから設計するよりも迅速かつ効率的に提案書を作成できます。
- 継続的な関係構築: 初回は短時間の入門モジュールを提供し、その成果を元に、より深い課題解決のための特定フェーズに特化したモジュールや、長期的なプログラムへとつなげる提案もしやすくなります。
まとめ
デザイン思考ワークショップのモジュール化は、フリーランスの研修講師・コンサルタントの皆様が、多様化するクライアントのニーズに対して、より柔軟かつ戦略的にサービスを提供するための強力な手法です。ワークショップを構成要素に分解し、それぞれのモジュールを明確に定義し、クライアントの目的や制約に合わせて適切に組み合わせることで、個別の課題に真に寄り添った、価値の高いワークショップを実現することが可能になります。
ぜひ、ご自身の標準的なワークショップを分解し、モジュールとして再構築してみてください。これは、ご自身のサービス提供能力を高め、ビジネスを拡大するための重要なステップとなるでしょう。