はじめてのデザイン思考ワークショップ 参加者を「デザイン思考モード」にする導入ファシリテーション
はじめてのデザイン思考ワークショップ 参加者を「デザイン思考モード」にする導入ファシリテーション
フリーランスの研修講師やコンサルタントとして、デザイン思考ワークショップの提供を検討されている皆様にとって、参加者がワークショップの価値を最大限に引き出すためには、開始直後の「導入」が非常に重要です。デザイン思考は通常のビジネス思考とは異なるマインドセットを要求するため、この導入部分で参加者の思考を適切に切り替えることが、その後のフェーズにおけるアウトプットの質や議論の活発さに大きく影響します。
この記事では、デザイン思考ワークショップの冒頭で参加者のマインドセットを「デザイン思考モード」へ効果的に移行させるための導入設計とファシリテーションの具体的なノウハウについて解説します。
なぜ導入でマインドセット切り替えが必要なのか
多くの参加者は、これまでの業務経験や教育を通じて、論理的思考、効率性、計画性などを重視する思考習慣を持っています。これらはビジネスにおいて非常に重要ですが、デザイン思考で求められる共感、探究心、不確実性の受容、失敗からの学習、多様な視点の尊重といったマインドセットとは性質が異なります。
ワークショップ開始時に、従来の思考モードからデザイン思考モードへの切り替えがうまくいかないと、以下のような状況が発生しやすくなります。
- 共感フェーズで表面的な情報収集に留まる
- 定義フェーズで課題の本質を見誤る
- アイデア発想フェーズで既存の解決策や常識にとらわれる
- プロトタイプやテストフェーズで失敗を過度に恐れる
- チーム内での対話が形式的になる
これらの状況は、ワークショップ全体の成果を低下させるだけでなく、参加者の学習機会を損なうことにもつながります。そのため、導入部分で意図的に参加者の意識をデザイン思考が求める方向へ導くことが不可欠なのです。
「デザイン思考モード」とは何か
デザイン思考における「モード」は、単なるスキルや知識のセットではなく、特定の思考様式や姿勢を指します。ワークショップの導入部分で参加者に目指していただきたい「デザイン思考モード」には、主に以下の要素が含まれます。
- 共感: 相手の立場や感情を理解しようとする姿勢
- 探究心/好奇心: 表面的な事柄に満足せず、なぜそうなるのか、他にどのような可能性があるのかを探求する意欲
- 不確実性の受容: すぐに完璧な答えが出ないこと、曖昧な状況を受け入れる柔軟性
- 実験と学習: 小さな試みを重ね、失敗から学びを得て次に活かす前向きな姿勢
- 協調とオープンネス: 自身の考えだけでなく、他者の意見や視点を尊重し、新しい情報に対して心を開く態度
- 視覚的思考: 言葉だけでなく、絵や図、モノを使って考えや情報を整理・伝達しようとする意識
これらのマインドセットを参加者が持つことで、ワークショップはより創造的で、深い洞察に満ちた、実践的な場となります。
マインドセットを切り替えるための導入設計のポイント
効果的な導入設計には、アイスブレイクだけでなく、デザイン思考特有のマインドセットに働きかける仕掛けを意図的に組み込むことが重要です。
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ワークショップの目的とデザイン思考の意義を丁寧に伝える:
- 単に「新しい手法を学ぶ」だけでなく、「なぜ今、デザイン思考が必要なのか」「このワークショップを通じて何を目指すのか」といった本質的な意義を明確に伝えます。
- 参加者自身の業務や課題とデザイン思考がどのように結びつくのかを示唆することで、当事者意識を高めます。
- デザイン思考が「完璧な答え」を一度に見つけるものではなく、「探求と実験のプロセス」であることを説明し、不確実性への構えを作ります。
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心理的な安全性を確保する環境設定:
- 自由に意見を言える雰囲気、多様な意見が歓迎される文化を言葉と態度で示します。
- 「失敗は学びの一部である」「正解・不正解を評価する場ではない」といった共通認識を最初に形成します。
- 参加者同士がリラックスして交流できる簡単なアイスブレイクや自己紹介を取り入れ、場の緊張を和らげます。
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デザイン思考の基本原則を体験するミニ演習:
- 長時間の講義ではなく、短時間でデザイン思考のエッセンスを体験できる簡単なアクティビティを導入します。例えば、ペアになって互いの「隠れたニーズ」を探る短いインタビュー演習や、身近な物の新しい使い方を考えるブレインストーミングなどです。
- これらの演習を通じて、「観察する」「問いを立てる」「共感する」「発想する」といったデザイン思考の基本的な行動を体験的に学んでもらいます。
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期待値調整と「遊ぶ」ことの奨励:
- デザイン思考は論理だけでなく、直感や遊び心も重要であることを伝えます。堅苦しく考えすぎず、新しい可能性を楽しむ姿勢を奨励します。
- ワークショップの過程で「これは仕事なのか?」と感じるような、一見突飛なアクティビティがあるかもしれないことを示唆し、それを受け入れる心の準備を促します。
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ファシリテーター自身のオープンな姿勢:
- ファシリテーター自身が、好奇心旺盛で、参加者の意見に対してオープンであり、完璧でないことも受け入れる姿勢を示すことが重要です。ファシリテーターの態度が、場の雰囲気と参加者のマインドセットに大きな影響を与えます。
マインドセットを切り替えるためのファシリテーションのポイント
導入設計に加え、ファシリテーションの進め方自体もマインドセット切り替えに影響します。
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参加者の反応を観察し、柔軟に対応する:
- 参加者が戸惑っている様子はないか、従来の思考にとらわれている発言がないかなどを注意深く観察します。
- 必要に応じて、デザイン思考の考え方を補足説明したり、異なる視点からの問いかけを促したりします。
- 場の空気や参加者のエネルギーレベルに合わせて、アクティビティの時間配分や進め方を柔軟に調整します。
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問いかけを通じて内省と視点転換を促す:
- 「なぜそう考えたのですか?」「他の可能性はありますか?」「もし立場が逆だったら、どう感じますか?」など、参加者が自身の思考プロセスを振り返り、異なる視点から物事を見ることを促す問いかけを効果的に使用します。
- 正解を求める問いではなく、探求を促すオープンな問いを投げかけます。
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失敗を恐れず、試行錯誤を奨励する声かけ:
- 出たアイデアや試みがうまくいかなくても、「そこから何を学べましたか?」「次はどうすれば良さそうですか?」といったポジティブな言葉がけで、失敗を恐れずに再挑戦することを後押しします。
- 完璧を目指すよりも、まずは「やってみる」ことの価値を伝えます。
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多様な意見や行動を承認する:
- 従来の思考パターンとは異なるユニークな発言や行動、リスクを恐れずに試みたことに対して、積極的に承認と感謝の言葉を伝えます。
- 全ての参加者の貢献を尊重し、誰もが安心して発言・行動できる雰囲気を作り続けます。
まとめ
デザイン思考ワークショップの成功は、参加者がどれだけデザイン思考のマインドセットになれるかに大きく左右されます。そのため、ワークショップの導入部分は、単なるオリエンテーションではなく、参加者の思考を意図的に切り替えるための重要なフェーズとして設計・ファシリテーションする必要があります。
ワークショップの目的とデザイン思考の意義を丁寧に伝え、心理的な安全性を確保し、短時間でデザイン思考の基本を体験できるミニ演習を組み込むこと。そして、ファシリテーター自身がオープンな姿勢を示し、参加者の反応を観察しながら、問いかけや声かけを通じて探求と実験を奨励すること。これらの実践を通じて、参加者は「デザイン思考モード」へスムーズに移行し、ワークショップ全体での学びとアウトプットの質を高めることができるでしょう。
これからデザイン思考ワークショップを始められるフリーランスの皆様にとって、この記事が参加者の可能性を最大限に引き出す導入設計の一助となれば幸いです。