はじめてのデザイン思考ワークショップ ワークショップ中の困難な参加者への実践的ファシリテーション
デザイン思考ワークショップの企画・運営に挑戦されるフリーランスの研修講師やコンサルタントの皆様、いつもお疲れ様です。実践経験を積み重ねていく中で、様々な状況に遭遇されることと思います。特に、ワークショップ中に「困ったな」と感じる参加者の言動にどう対応するかは、多くの講師が直面する課題の一つではないでしょうか。
本記事では、デザイン思考ワークショップをスムーズに進めるために知っておきたい、様々なタイプの「困難な参加者」への実践的なファシリテーション対処法について解説します。参加者の多様な反応に対応するノウハウを身につけることで、より質の高いワークショップ提供につながることを目指します。
なぜ「困難な参加者」への対処法が必要なのか
デザイン思考ワークショップは、参加者同士の活発な対話や共創を通じて新しいアイデアを生み出すプロセスを重視します。そのため、一部の参加者の消極的な態度や、場を乱すような言動は、ワークショップ全体の進行やアウトプットの質に影響を与える可能性があります。
しかし、「困難な参加者」と一口に言っても、その背景や振る舞いは様々です。単にワークショップ形式に慣れていないだけかもしれませんし、個人的な事情や、ワークショップのテーマに対する関心の度合いが影響していることもあります。ファシリテーターとしては、その行動の裏にある意図を理解しようと努め、場全体のゴール達成に向けて建設的に対応することが求められます。
ワークショップ中に見られる「困難な参加者」の主なタイプ
ワークショップ中にファシリテーターが対応に戸惑う可能性のある参加者のタイプをいくつかご紹介します。これらのタイプは明確に分かれるものではなく、複数の特徴を併せ持つ場合もあります。
- 沈黙する・発言しないタイプ: 積極的に意見を言わない、グループワークで受身になる。
- 批判的なタイプ: 提案に対して否定的な意見を述べることが多い、欠点ばかりを指摘する。
- 話を脱線させるタイプ: ワークショップのテーマや議論の目的から逸れた話を始める、個人的な経験談に終始する。
- 一方的に話すタイプ: 他の参加者の発言を遮る、自分の意見ばかりを長々と話す。
- 非協力的なタイプ: ワークショップの進め方やルールに反発する、タスクの実施を拒否する、参加すること自体に消極的である。
これらの参加者に対する「困難さ」は、彼ら自身に問題があるのではなく、その言動がワークショップの目的達成や他の参加者の貢献を妨げる可能性にある、と捉えることが重要です。
タイプ別 実践的ファシリテーション対処法
それぞれのタイプに対して、具体的にどのようなアプローチが有効かを見ていきましょう。
沈黙する・発言しないタイプへのアプローチ
このタイプの参加者は、発言することに不安を感じていたり、まだ考えがまとまっていなかったりする場合があります。強制的に発言を促すのではなく、安心できる環境を作り、発言のハードルを下げる工夫が必要です。
- 安心できる場作り: ワークショップの最初に、どんな意見も歓迎される雰囲気であることを伝え、心理的安全性を高めます。間違いを恐れず発言できるような肯定的なフィードバックを心がけます。
- 小さな成功体験を積む: 全員が簡単に答えられる質問(例:「今日の天気はいかがですか?」のようなアイスブレイク)から始め、発言することへの慣れを促します。
- 問いかけの工夫: 全体への漠然とした問いかけではなく、「〇〇さん、この点について、あなたの考えを聞かせてもらえますか?」のように個人に具体的に問いかけます。また、いきなり意見を聞くのではなく、「今感じていることを一言で表すと?」のような、短い言葉で済む問いかけや、具体的な体験ベースの問いかけ(例:「前職で似たような状況はありましたか?」)も有効です。
- 書く時間を設ける: まずはポストイットなどに自分の考えを書き出す時間を設けることで、発言前に思考を整理する機会を提供します。書いた内容を順番に発表する形式も、心理的負担を軽減できます。
- グループ分けの配慮: 少人数のグループに入れることで、発言しやすい環境を作る配慮も検討できます。
批判的なタイプへのアプローチ
批判的な発言は、場を停滞させたり、他の参加者の意欲を削いだりする可能性があります。しかし、批判の裏には、課題を深く理解している、リスクを懸念しているなどの建設的な意図が隠されていることもあります。
- 傾聴と共感: まずは批判的な意見であっても、最後までしっかりと聞き、理解しようとする姿勢を見せます。「〇〇さんは、△△という点を懸念されているのですね」のように、相手の言葉を繰り返すことで、聞いていることを伝えます。
- 意見の建設的な転換: 批判的な意見を単に退けるのではなく、「その懸念を踏まえて、どうすればより良いアイデアになるか、一緒に考えてみませんか?」のように、課題解決に向けた議論へと転換を促します。
- ルール・目的の再確認: ワークショップの目的や、アイデアの批判よりも発展に焦点を当てるというルールを穏やかに再確認し、議論の方向性を修正します。
- ポジティブな側面を探る: もし可能であれば、批判的な意見の中に含まれるわずかなポジティブな側面や、新しい視点につながる要素を見出し、そこに焦点を当てます。
- 個別に対応する: 休憩時間などを活用して、個別に声かけを行い、なぜそのような意見を持つのか、その背景にある考えを聞いてみることも有効です。
話を脱線させるタイプへのアプローチ
ワークショップの限られた時間の中で、脱線は大きな問題となります。しかし、脱線した話の中に、意外なインサイトや参加者の隠れた関心が潜んでいることもあります。
- 目的・テーマの再確認: 議論がテーマから逸れてきたら、「〇〇さん、興味深いお話ありがとうございます。今日のテーマは△△についてでしたね。少し話を本筋に戻しましょうか」のように、ワークショップの目的や現在のテーマを穏やかに再確認します。
- 軌道修正の声かけ: 「今のお話も参考になりますが、この点については一旦置いておき、まずは◇◇について議論を深めましょう」のように、直接的すぎない言葉で軌道修正を図ります。
- 時間を区切る: 「このテーマについては、議論できる時間が残りあと5分です」のように、残り時間を意識させることで、自然な形で話を収束させます。
- 休憩時間に別途話を聞く: 脱線した話の内容が興味深く、しかし本筋ではない場合は、「その点については、休憩時間に詳しく聞かせてください」のように、後で個別に話を聞くことを提案します。
一方的に話すタイプへのアプローチ
特定の参加者ばかりが話すと、他の参加者が発言しにくくなり、多様な意見が出にくくなります。
- 時間管理の意識付け: 冒頭で「皆さんから広く意見を聞きたいので、一人あたりの発言時間は〇分程度を目安にしていただけると助かります」のように、時間の目安を示すことがあります。
- 他の参加者へのパス: 一方的に話している参加者の話が一区切りついたところで、「〇〇さん、ありがとうございます。この点について、他の方はいかがですか?」「△△さんはどうお考えになりますか?」のように、意識的に他の参加者に発言機会を移します。
- 発言ルールの設定: 必要であれば、「皆さん平等に発言機会を設けるため、順番に話す時間を設けます」のようなルールを設定し、運用します。
- 視覚的なキューを使用する: 話が長くなりすぎている場合、アイコンタクトや身振り手振りで、そろそろ話をまとめてほしいという意図を伝えることもあります。
非協力的なタイプへのアプローチ
このタイプの参加者は、ワークショップの目的やプロセスに納得していない、あるいは参加すること自体に抵抗がある可能性があります。根深い課題であることも多く、慎重な対応が求められます。
- 参加目的の確認(個別): 可能であれば、ワークショップ開始前や休憩時間などに個別に話を聞き、「今日のワークショップに何を期待されていますか?」「何かしっくりこない点はありますか?」のように、本人の状況や考えを確認します。ワークショップへの参加意義を本人視点で再定義できるかを探ります。
- 役割付与: その参加者が持っている知識や経験を活かせるような、小さな役割(例:記録係、タイムキーパー)を依頼することで、ワークショップへの関与度を高めることを試みます。
- 選択肢を提供する: 強制するのではなく、「AのタスクとBのタスクがありますが、どちらに関心がありますか?」のように、可能な範囲で選択肢を提供し、主体性を引き出すことを試みます。
- 他の参加者との連携: 非協力的な参加者の近くに、ワークショップに協力的でコミュニケーション能力の高い他の参加者を配置し、自然な協力を促すことも検討します。
タイプを問わない基本的な対処原則
特定のタイプに当てはまらない場合や、複数のタイプの特徴を持つ参加者にも有効な、基本的な対処原則があります。
- 事前準備とリスク想定: ワークショップ参加者の属性や過去の経験などを事前に把握し、起こりうる「困難な」状況を想定しておきます。それに対する複数の対応策を事前に考えておくことで、余裕を持って臨めます。
- ワークショップルールの設定と共有: 冒頭で、ワークショップを円滑に進めるための基本的なルール(例:批判よりもアイデアの発展に焦点を当てる、他の人の意見を尊重する、時間厳守など)を明確に伝え、全員で合意形成を図ります。
- 中立的な姿勢の維持: どのような意見に対しても、ファシリテーターは公平・中立な立場を保ち、感情的な反応を避けます。特定の参加者を擁護したり、攻撃したりしないように注意します。
- ポジティブな場の雰囲気作り: 参加者の良い点や貢献を積極的に認め、褒めることで、場全体の雰囲気を明るく保ちます。難しい状況でも、ユーモアを交えたり、休憩を挟んだりして、リフレッシュを促します。
- 他の参加者との連携: 特定の参加者への対応に困った時、他の参加者が自然とサポートしてくれるように、普段から参加者同士の協調性を促すファシリテーションを心がけます。
- 休憩時間や個別対応の活用: ワークショップ中に問題が顕在化した場合でも、すぐに全体の前で指摘せず、休憩時間などを利用して個別に声かけを行い、状況を確認したり、協力を仰いだりする方が効果的な場合があります。
- 自分自身を責めすぎない: 全ての参加者を完璧にコントロールすることは不可能です。困難な状況に直面しても、自分自身を責めすぎず、次に活かすための学びと捉える姿勢が大切です。
まとめ
デザイン思考ワークショップにおいて、多様な参加者がいることは自然なことです。中には、ワークショップの進行を難しく感じさせるような言動をとる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それは必ずしも悪意によるものではなく、様々な背景や考え方、ワークショップへの慣れの違いから生じることが多いものです。
ファシリテーターとして、重要なのは、それらの言動を「問題行動」と断罪するのではなく、ワークショップのゴール達成に向けてどうすれば建設的に対応できるか、という視点を持つことです。今回ご紹介したタイプ別の対処法や基本的な原則は、そのためのツールとなります。
最も大切なのは、参加者一人ひとりへの敬意を忘れず、彼らがワークショップに貢献したいという意欲を引き出すための働きかけを粘り強く行うことです。この記事で解説した実践的なノウハウが、皆様が自信を持ってデザイン思考ワークショップを提供するための一助となれば幸いです。