はじめてのデザイン思考ワークショップ 参加者の「気づき」を深める設計とファシリテーションのポイント
フリーランスの研修講師やコンサルタントの皆様が、自身のサービスとしてデザイン思考ワークショップを提供される際、参加者に「楽しかった」という感想だけでなく、具体的な「気づき」を持ち帰ってもらい、その後の実務に繋げてもらいたいとお考えになることは自然なことです。参加者が深い学びや気づきを得るためには、ワークショップの設計段階から、そして実施中のファシリテーションにおいて、いくつかの重要なポイントがあります。
このコラムでは、はじめてデザイン思考ワークショップを企画・実施される皆様が、参加者の「気づき」を深めるために考慮すべき設計上の工夫と、実践的なファシリテーションのポイントについて解説します。
なぜワークショップにおける「気づき」が重要なのか
デザイン思考ワークショップは、単に知識を伝える座学とは異なり、体験を通じて学ぶ実践的な場です。参加者が積極的に思考し、対話し、手を動かすプロセスを経て、新たな視点やアイデア、あるいは自身の考え方や行動パターンに対する内省が生まれます。この内省や新たな発見こそが「気づき」であり、これが実務での応用や行動変容につながる原動力となります。
参加者が深い気づきを得られるワークショップは、単発のイベントで終わらず、その後の具体的な成果に結びつく可能性が高まります。これは、サービス提供者である皆様の信頼性や評価を高める上でも非常に重要です。
参加者の「気づき」を深める設計のポイント
ワークショップの成功は、その設計段階でほとんどが決まると言われます。参加者の気づきを最大化するために、設計において以下の点を考慮してみてください。
1. ワークショップ全体の学習目標とアウトカムの明確化
参加者にワークショップを通じて「何を」気づいてほしいのか、どのような状態になってほしいのかを具体的に設定します。例えば、「ユーザー視点の重要性に気づく」「多様なアイデア発想の手法を知り、自身の思考の幅に気づく」「プロトタイピングを通じて、机上の空論と現場のリアリティの違いに気づく」などです。この目標が明確であるほど、各ワークの設計やファシリテーションの方向性が定まります。
2. 各ワークの意図と目的の明確な伝達
ワークショップ中、各アクティビティに入る前に、そのワークを行う「理由」や「目的」を参加者に簡潔に伝えます。「なぜ今このワークをするのか」「このワークを通じて何を目指すのか」が分かると、参加者はより意図的にワークに取り組むことができます。これにより、単に指示された作業をこなすのではなく、その背後にある意図を理解し、そこから学びを得ようとする姿勢が生まれます。
3. ワーク間のつながりを意識したストーリー設計
デザイン思考の各フェーズ（共感、定義、アイデア、プロトタイプ、テスト）は独立しているようで、実際は密接に連携しています。前のフェーズでの気づきが、次のフェーズでの思考や行動にどう影響するかを意識して設計します。例えば、共感フェーズで得たユーザーへの深い理解が、定義フェーズでの問題設定をどう変えるか、アイデアフェーズでの発想にどう繋がるか、といった流れを構造化します。ワークショップ全体が logical なストーリーとして流れることで、参加者は点と点がつながり、より大きな気づきを得やすくなります。
4. 意図的な「リフレクション（振り返り）」の時間の組み込み
ワークショップ中に、定期的に「リフレクション」の時間を設けることが非常に重要です。これは、単に「何か質問はありますか」と尋ねるだけではありません。例えば、 * 「今のワークを通じて、ご自身の中にどんな変化がありましたか？」 * 「このユーザーの声を聞いて、これまでの自分の考え方がどう変わりそうですか？」 * 「もしご自身の仕事にこの手法を活かすとしたら、どのような場面がありそうでしょうか？」
といった、自身の体験や学びに焦点を当てた問いかけを行います。個人での内省、ペアやグループでの共有、全体での発表など、形式は様々考えられます。リフレクションの時間を設けることで、参加者は体験を言語化し、構造化し、自身の知識として定着させることができます。
5. 「気づき」を促す効果的な「問い」の設計
デザイン思考ワークショップは「問い」によって進行します。「問い」の質が、引き出されるアウトプットや参加者の思考の深さを左右します。 * 共感フェーズであれば、「なぜそう思ったのだろう？」「その背景には何がありそうか？」 * 定義フェーズであれば、「この課題の本質は何だろう？」「本当に解くべき問題は何か？」 * アイデアフェーズであれば、「もっと極端に考えるとどうなる？」「異分野の事例から何を学べるか？」
など、参加者の思考を一段階深めるような「問い」を事前に設計しておきます。ファシリテーション中も、参加者の発言を深掘りする「問い」（例：「それは具体的にどういうことですか？」「そう考えると、他にどんな可能性がありそうですか？」）を準備しておくと効果的です。
参加者の「気づき」を深めるファシリテーションのポイント
設計したワークショップを実際に進行する際、ファシリテーターの関わり方も参加者の気づきの深さに大きく影響します。
1. 参加者の発言・アウトプットへの丁寧な傾聴と深掘り
参加者の声に耳を傾け、共感的に理解しようと努めます。表面的な発言だけでなく、その背景にある意図や感情、価値観を引き出すような問いかけをします。特に、当たり前だと思われていることや、一見ネガティブに見える発言の中にこそ、重要な気づきの種が隠れていることがあります。「なぜそう思うのですか？」「もう少し詳しく聞かせてもらえますか？」といった問いかけが有効です。
2. 異なる意見や視点の対比・統合を促す
多様な参加者が集まるワークショップでは、意見の対立や違いが生じることがあります。ファシリテーターはこれらの違いを単なる対立として終わらせず、「面白い視点の違いですね」「Aさんの意見とBさんの意見は、一見違うようですが、もしかしたらこういうことかもしれませんね」というように、意図的に対比させたり、共通点を見出したりすることを促します。異なる視点に触れることで、参加者は自身の考え方の偏りに気づき、より広い視野を獲得できます。
3. 抽象化と具体化のサポート
ワークショップ中、具体的な事例や体験から共通するパターンや本質（抽象化）を見出したり、抽象的なコンセプトを自身の状況に引き寄せて具体化したりするプロセスをサポートします。「つまり、こういうことが言えそうでしょうか？」「この考え方を、皆さんの日々の業務に当てはめると、具体的にどんなことが考えられますか？」といった投げかけが、参加者の思考の深まりを助けます。
4. 「メタ認知」を促す問いかけ
メタ認知とは、「自分の思考や感情そのもの」について考えることです。ファシリテーターは、「今、皆さんはどんなことを感じながらこのワークに取り組んでいますか？」「ご自身の考え方の癖に何か気づきましたか？」といった問いかけを通じて、参加者が自身の内面的なプロセスに意識を向けるよう促します。これにより、単なる表層的な理解に留まらず、より深いレベルでの自己理解や学びにつながります。
5. 安全で安心できる場づくり
参加者が自身の考えや感じたことを率直に表現できるためには、心理的に安全な場が必要です。失敗を恐れず、未知のことにも挑戦できる、他者の意見を尊重できる雰囲気を作ります。ファシリテーター自身がオープンな姿勢を示し、参加者の発言を否定せず、傾聴することで、安心して発言できる環境を醸成します。気づきは内省を伴うプロセスであり、安心して内省できる場が不可欠です。
オンラインワークショップにおける気づきを深める工夫
オンラインでの実施は対面とは異なる難しさがありますが、工夫次第で深い気づきを促すことは可能です。 * リフレクションの共有方法: ブレイクアウトルームでの少人数共有、オンラインホワイトボードに各自の気づきを書き出す、チャット機能を活用するなど、オンラインツールを効果的に活用します。 * 非言語情報の活用: 対面よりも非言語情報が得にくいオンラインでは、意識的に参加者にリアクション（絵文字スタンプなど）を促したり、音声での発言を積極的に拾い上げたりすることで、参加者の状態を把握しやすくなります。 * ツールの意図説明: オンラインツールを使用する際も、「なぜこのツールを使うのか」「この機能を使う目的は何か」を明確に伝えます。ツール操作に気を取られすぎず、ワーク本来の目的に集中してもらうためです。
まとめ
デザイン思考ワークショップで参加者が深い「気づき」を得ることは、ワークショップの価値を最大化し、サービス提供者としての皆様の信頼を高める上で非常に重要です。そのためには、ワークショップの設計段階で学習目標やリフレクションの機会を明確に組み込み、効果的な問いを準備することが欠かせません。そして、実施中のファシリテーションでは、参加者の声に丁寧に耳を傾け、異なる視点を尊重し、内省やメタ認知を促す関わりを意識することが求められます。
これらのポイントを念頭に置き、実践を重ねることで、参加者にとって学び深く、実務に繋がる価値あるデザイン思考ワークショップを提供できるようになるでしょう。ぜひ、今回の内容を参考に、ご自身のワークショップ設計・ファシリテーションをより質の高いものへと進化させてください。