はじめてのデザイン思考ワークショップ 時間・参加者・目的に合わせたカスタマイズ実践ガイド
デザイン思考ワークショップの開催を検討されているフリーランスの研修講師・コンサルタントの皆様、こんにちは。このサイトでは、はじめてデザイン思考ワークショップを企画・実施するための実践的なノウハウを提供しています。
デザイン思考ワークショップは、参加者の共感、定義、アイデア発想、プロトタイプ、テストといったプロセスを通じて、革新的な解決策を生み出す強力な手法です。しかし、クライアントからの依頼は常に多様であり、標準的なフレームワークをそのまま適用できるケースばかりではありません。
時間、参加者の人数や背景、解決したい具体的な課題や期待される成果など、クライアントの要望は多岐にわたります。このような状況で、提供するワークショップを柔軟にカスタマイズできる能力は、フリーランスとしての競争力を高める上で非常に重要になります。
この記事では、デザイン思考の核となる要素を保ちつつ、クライアントの様々なニーズに合わせてワークショップをカスタマイズするための実践的な考え方、判断基準、そして具体的な手順について解説します。
なぜデザイン思考ワークショップのカスタマイズが必要なのか
標準的なデザイン思考のプロセスは非常に有効ですが、実際のビジネス現場では様々な制約や特殊な状況が存在します。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 時間的な制約: クライアントの都合で、1日や半日といった短い時間で実施する必要がある
- 特定の課題へのフォーカス: 新規事業立案だけでなく、既存サービスの改善、組織内のコミュニケーション活性化など、特定の課題解決に焦点を当てたい
- 参加者の特性: デザイン思考の経験がない参加者、特定の専門知識を持つ参加者、大人数または少人数のチームなど、参加者の構成が多様である
- 予算の制約: 利用できるツールや会場、準備にかけられる費用に制限がある
- 期待されるアウトプット: アイデアリストだけでなく、具体的なプロトタイプや実行計画まで持ち帰りたい、あるいは単にチームビルディングを目的としたい
これらの多様なニーズに応えるためには、標準的なデザイン思考ワークショップの型を理解した上で、それを柔軟にアレンジするスキルが求められます。画一的なサービス提供では、クライアントの満足度を高め、リピートや紹介につなげることは難しいでしょう。
カスタマイズの基本的な考え方:核と柔軟性のバランス
デザイン思考ワークショップをカスタマイズする上で最も重要なのは、「デザイン思考の核となる考え方やプロセス」を損なわないことです。人間中心のアプローチ、仮説検証の繰り返し、多様な視点の活用といった本質は維持する必要があります。
その上で、以下の点を意識して柔軟に要素を調整します。
- 目的との整合性: ワークショップ全体および各アクティビティが、クライアントの最終的な目的達成に寄与しているかを確認します。
- 取捨選択: 時間やリソースに限りがある場合、すべてのフェーズやアクティビティを網羅する必要はありません。目的に合わせて不要な要素を大胆に削ぎ落とします。
- 重点化: 特定の課題解決に焦点を当てる場合、関連するフェーズやアクティビティに時間をかけたり、より深いインサイトを引き出す工夫を凝らしたりします。
- 代替と応用: 標準的なツールや手法が使えない場合や、特定の参加者層に合わない場合は、目的に沿った代替手法や応用形を検討します。
クライアントニーズ別:カスタマイズの判断基準
具体的なカスタマイズを検討する際に考慮すべき主な判断基準を以下に示します。
1. クライアントの課題・目的
- 新規事業のアイデア創出: 共感、定義、アイデア発想の各フェーズに時間をかけ、幅広い視点からのインサイト収集と多角的なアイデア創出を重視します。市場調査やユーザーインタビューの時間を十分に確保するか、既存の調査データを活用するアクティビティを組み込みます。
- 既存サービスの改善: 定義フェーズでの課題深掘りや、プロトタイプ・テストフェーズでの迅速な仮説検証を重視します。現在のユーザーからのフィードバック収集アクティビティを強化したり、テスト設計を具体的に行います。
- 組織内のコミュニケーション活性化: アイスブレイクやチームビルディングのアクティビティを重視し、参加者間の相互理解や協働を促す設計にします。デザイン思考のプロセス自体よりも、その過程での対話や共創体験に価値を置きます。
- 特定部門の課題解決: その部門のメンバーの経験や専門知識を最大限に引き出すようなアクティビティを選定・設計します。専門用語の使用を許容するか、あるいは非専門家にも理解できるよう平易な言葉で説明するかなどを調整します。
2. ワークショップにかけられる時間・予算
- 短時間(半日〜1日): 全プロセスを網羅するのは難しいため、最も重要な1〜2フェーズに絞り込みます。例えば、「課題発見とアイデア発想」に特化する、あるいは「既存アイデアのプロトタイプとテスト」に絞るといった形です。各アクティビティの時間配分を厳密にし、事前のインプットや準備(例:ペルソナや共感マップのテンプレートを事前に配布・記入してもらう)を参加者に依頼することも有効です。
- 予算が少ない: 高価なツールや外部の調査機関を利用せず、簡易的なプロトタイプ作成手法(紙や付箋、無料ツールなど)を活用します。オンラインツールを活用することで、会場費や移動費を削減できる場合があります。
3. 参加者の人数・役職・経験レベル
- 大人数(20名以上): 少人数のチームに分けることを前提に設計します。チーム内での議論と、チーム間の共有・統合の時間をバランス良く設定します。ファシリテーターや運営サポートの人数を増やす必要が生じます。
- 少人数(5名以下): よりインタラクティブで深い議論が可能です。一人ひとりの発言時間を確保し、個々のアイデアや意見を丁寧に引き出すファシリテーションが重要になります。
- デザイン思考未経験者: デザイン思考の考え方や各フェーズの目的、使うツールの使い方を丁寧に説明する時間を設けます。専門用語は避け、具体的なステップを明確に示します。実践的なアクティビティを通じて、体験的に学べるように設計します。
- 特定の役職者: 意思決定権を持つ参加者がいる場合は、彼らの意見や視点を引き出しつつ、全体のプロセスから逸脱しないようバランスを取るファシリテーションが求められます。
4. 期待されるアウトプット
- アイデアリスト: アイデア発想フェーズに重点を置き、質より量を重視するブレインストーミングや、多様な視点からの発想を促す手法(例:SCAMPERなど)を多用します。
- 具体的なプロトタイプ: プロトタイプ作成とテストの時間を十分に確保します。簡易的なものから始めて徐々に洗練させるプロセスを体験させます。必要な材料やツールを事前に準備します。
- 実行計画: テスト後のフィードバックを基に、次のアクションを具体的に決める時間を設けます。責任者、期日、必要なリソースなどを明確にするワークを組み込みます。
具体的なカスタマイズの手順
- クライアントの深掘りヒアリング: クライアントがワークショップを通じて「何を達成したいのか」「参加者はどのような人たちか」「時間・予算の制約は何か」「最終的にどのような成果物が必要か」を徹底的にヒアリングします。ここでの理解が、適切なカスタマイズの出発点となります。
- 標準プロセスの分解: デザイン思考の標準的な5つのフェーズ(共感、定義、アイデア発想、プロトタイプ、テスト)と、それぞれのフェーズに含まれる代表的なアクティビティ(例:インタビュー、ペルソナ作成、ジャーニーマップ、課題定義、ブレインストーミング、アイデア評価、ラフスケッチ、モックアップ、ユーザーテスト、フィードバック分析など)をリストアップします。
- 目的と照らし合わせた取捨選択・重点化: ヒアリング結果に基づき、リストアップしたフェーズやアクティビティの中から、クライアントの目的達成に必要不可欠なものを選び、不要なものを削ぎ落とします。特に時間をかけたい部分、簡易化したい部分を明確にします。
- 時間・参加者に応じたアクティビティの調整: 選択したアクティビティについて、かけられる時間や参加者の人数・特性を考慮し、具体的な実施方法や時間配分を調整します。例えば、インタビューは実施せず、既存の顧客データを分析するワークに置き換える、ペルソナ作成は簡易版にとどめる、ブレインストーミングはオンラインツールを活用して効率化するといった検討を行います。
- ツールの選定と準備: オンラインかオフラインか、参加者のITリテラシーなどを考慮し、最適なツール(オンラインホワイトボード、付箋、模造紙など)を選定し、必要な準備を行います。
- プログラム全体の流れとタイムライン作成: カスタマイズしたフェーズとアクティビティを論理的な流れで並べ、具体的なタイムラインを作成します。休憩時間や質疑応答の時間も考慮に入れます。
- クライアントとの合意形成: 作成したカスタマイズプログラム案をクライアントに提示し、目的との整合性、期待される成果、時間配分などについて丁寧に説明し、合意を得ます。必要に応じて修正を行います。
カスタマイズ時の注意点
- デザイン思考の本質を失わない: 短縮や変更は必要ですが、「人間中心」の考え方、「問い」を立てる重要性、アイデアを「形にする(プロトタイプ)」ことの価値、「フィードバックを得る(テスト)」ことの意義など、デザイン思考の根幹部分は必ず残すようにします。
- 参加者の理解度: 特にデザイン思考に不慣れな参加者が多い場合は、各フェーズやアクティビティの目的を丁寧に説明し、なぜそのワークをするのかを理解してもらうことがスムーズな進行と成果につながります。
- ファシリテーションの柔軟性: 事前に計画したタイムラインやアクティビティも重要ですが、当日の参加者の反応や議論の状況に応じて、臨機応変に進め方や時間配分を調整する準備をしておきます。
- 成果物の活用: カスタマイズされたプロセスであっても、ワークショップで得られたインサイトやアイデア、プロトタイプなどが、その後のクライアントのビジネスにどう活かせるのかを明確にし、参加者が持ち帰りやすい形で整理・共有できる仕組みを設計に盛り込みます。
まとめ
デザイン思考ワークショップの提供において、クライアントの多様なニーズに応えるためには、標準的なフレームワークの理解に加え、それを柔軟にカスタマイズするスキルが不可欠です。
ワークショップの目的、時間、参加者、期待される成果などを明確にし、デザイン思考の核を保ちつつ、必要なフェーズやアクティビティを取捨選択・調整することで、クライアントにとって真に価値のある、実践につながるワークショップを提供できるようになります。
カスタマイズの判断基準と手順を理解し、実践を重ねることで、フリーランスの研修講師・コンサルタントとして、より幅広いクライアントの課題解決に貢献できるようになるでしょう。この記事で解説した考え方が、皆様のワークショップ設計の一助となれば幸いです。