はじめてのデザイン思考ワークショップ

はじめてのデザイン思考ワークショップ クライアント課題に合わせた応用ワークショップ設計ガイド

フリーランスの研修講師やコンサルタントとして、デザイン思考ワークショップの提供を検討されている方にとって、クライアントの多様なニーズにいかに応えるかは重要な課題です。デザイン思考には一般的なフレームワークがありますが、それをそのまま適用するだけでは、クライアントが抱える固有の課題や置かれている状況に最適化できない場合があります。

この記事では、標準的なデザイン思考フレームワークを理解した上で、クライアントの特定の課題や目的に合わせてワークショップを応用・カスタマイズするための実践的な考え方と手順をご紹介します。これからデザイン思考ワークショップをサービスとして提供しようと考えている方が、自信を持って提案・実行できるようになるための一助となれば幸いです。

標準フレームワークから応用へ：なぜカスタマイズが必要か

デザイン思考は一般的に、「共感」「定義」「アイデア」「プロトタイプ」「テスト」という5つのフェーズを経て、人間中心の革新的なソリューションを生み出すアプローチです。このフレームワークは非常に強力ですが、実際のビジネス現場や研修ニーズは多岐にわたります。

クライアントからワークショップ実施の相談を受ける際、以下のような要望や制約があることが考えられます。

• 特定の課題（例: 新規事業アイデア創出、顧客体験向上、組織内コミュニケーション改善など）に焦点を当てたい
• ワークショップにかけられる時間が限られている（半日、1日など）
• 参加者のデザイン思考への理解度や経験が異なる
• 特定の成果物（例: ペルソンの具体化、新規サービスコンセプト、簡易プロトタイプなど）を重視したい
• 解決したい課題がデザイン思考の全フェーズを必要としない場合がある

これらの多様な要望に応え、ワークショップの効果を最大化するためには、標準フレームワークの各フェーズの時間配分や使用するツール・手法、最終的な成果物を柔軟に調整する応用力が求められます。

応用・カスタマイズの基本的な考え方

デザイン思考ワークショップを応用・カスタマイズする際の基本的な考え方は、「クライアントの真の目的と課題を特定し、その解決に最も貢献するフェーズや手法に重点を置く」ことです。標準フレームワークの全てを均等に行うのではなく、目的に合わせて「引き算」や「足し算」、あるいは「順番の入れ替え」を検討します。

カスタマイズの主な要素としては、以下の点が挙げられます。

1. フェーズの重点化と簡略化:

   • 例えば、既に課題が明確でデータも揃っている場合は、「共感」フェーズを簡略化し、「アイデア」や「プロトタイプ」に多くの時間を割くことができます。
   • 逆に、課題が曖昧な場合は、「共感」と「定義」フェーズをじっくり行い、課題の深掘りに重点を置く設計が有効です。

2. アクティビティとツールの選択:

   • 各フェーズで使用する具体的なワークやツールは、参加者の人数、経験、目的に応じて選択・調整します。
   • 特定の目的に特化したツール（例: カスタマージャーニーマップ、サービスブループリント、ビジネスモデルキャンバスなど）をデザイン思考のフレームワークに組み込むことも可能です。

3. 時間配分:

   • ワークショップ全体の時間に合わせて、各フェーズに割り当てる時間を調整します。短時間の場合は、最も重要なフェーズに絞り込む勇気も必要です。

4. 成果物の設定:

   • ワークショップの最終的な成果物を具体的に設定し、その成果に繋がりやすいように各フェーズのゴールを設定します。

クライアント課題に合わせた応用パターン例

ここでは、クライアントの典型的な課題に対応するための応用ワークショップ設計の例をいくつかご紹介します。

パターン1: 新規事業アイデア創出に特化したワークショップ

• 目的: 新しい製品やサービスのアイデアを短期間で多数生み出すこと。
• 設計のポイント:
  • 「共感」「定義」フェーズは、インプットを事前に配布したり、最小限のワークに留めたりして簡略化します。
  • 最も時間をかけるのは「アイデア」フェーズです。多様な発想法（ブレインストーミング、SCAMPERなど）を取り入れ、質より量を重視したアイデア発散を促します。
  • 「アイデア」フェーズの後半で、収束・グルーピング・評価を行い、有望なアイデアを選定します。
  • 「プロトタイプ」「テスト」は、アイデアの具体化や簡易的なフィードバック収集に留めるか、あるいは次ステップに持ち越す設計とします。
• 想定成果物: 新規事業アイデアリスト、コンセプトシート、簡易的なビジネスモデルスケッチ。

パターン2: 複雑な課題の深掘りと本質特定に重点を置くワークショップ

• 目的: 漠然とした課題感を持つクライアントに対し、問題の本質を明確にし、真に解決すべき課題を特定すること。
• 設計のポイント:
  • 「共感」「定義」フェーズに十分な時間を確保します。
  • 「共感」フェーズでは、ペルソナ作成、共感マップ、カスタマージャーニーマップなどを活用し、ユーザーのニーズやインサイトを深く掘り下げます。
  • 「定義」フェーズでは、課題の定義（PoV: Point of View）を複数作成・洗練するワークに重点を置きます。
  • 「アイデア」以降のフェーズは、定義された課題に対する初期アイデア出しに留めるか、次ステップへのつなぎと位置づけます。
• 想定成果物: 具体的なペルソナ、共感マップ、定義された解決すべき課題（PoV）。

パターン3: 短時間でデザイン思考のエッセンスを体験するワークショップ

• 目的: デザイン思考の基本的な流れや考え方を参加者に体験してもらうこと（例: 全社導入前の啓蒙、特定プロジェクトメンバーへの導入研修）。
• 設計のポイント:
  • 各フェーズを大幅に圧縮し、象徴的なアクティビティに絞り込みます。
  • 具体的な課題設定はシンプルで参加者になじみやすいものにします（例: 日常的な不便さの解消、オフィスの快適性向上など）。
  • 「プロトタイプ」は物理的なものに限らず、ストーリーボードや寸劇など、素早くアイデアを表現できる形式を取り入れます。
  • 最も重要なのは、デザイン思考の「ユーザー中心」「アイデア発散・収束」「プロトタイピングとテストの反復」といった考え方やリズムを体感してもらうことです。
• 想定成果物: 短時間でのプロトタイプとテスト経験、デザイン思考の基本概念理解。

応用ワークショップ設計のステップ

クライアントから相談を受けた際に、具体的な応用ワークショップを設計するためのステップは以下の通りです。

1. クライアントとの丁寧なヒアリング:

   • 「デザイン思考ワークショップをやりたい」という要望の背景にある、真の目的や解決したい具体的な課題は何ですか。
   • ワークショップにかけられる合計時間はどのくらいですか。
   • 参加者の人数、役職、デザイン思考に関する予備知識はどの程度ですか。
   • ワークショップ終了後に、どのような状態になっていたいですか？どのような成果物を求めていますか。
   • これらの点を深く理解することが、最適な設計の出発点です。

2. 目的と制約に基づくフェーズの取捨選択と重点化:

   • ヒアリング内容をもとに、標準5フェーズの中で、どのフェーズに重点を置くべきか、どのフェーズを簡略化できるかを判断します。
   • 例えば、「新しいアイデアが欲しい」なら「アイデア」フェーズ、「課題が複雑で整理できない」なら「共感」「定義」フェーズに重きを置く、といった具合です。

3. 全体時間と各フェーズの時間配分:

   • ワークショップ全体の時間から、重点を置くフェーズにはより多くの時間を、簡略化するフェーズにはより少ない時間を割り当てます。
   • 休憩や導入・まとめの時間も考慮に入れます。

4. 具体的なアクティビティとツールの選定:

   • 各フェーズの時間配分に基づき、実施可能なアクティビティやツールを選定します。
   • 参加者の経験レベルや好みに合わせることも重要です。オンライン実施の場合は、オンラインツールに最適化されたアクティビティを検討します。

5. 明確な成果物の設定:

   • ワークショップの各フェーズ、そして全体の成果物を具体的に定義します。
   • これにより、参加者は何を目指せば良いかが明確になり、ファシリテーターも進行の目安になります。

6. 進行シナリオと配布資料の作成:

   • 設計した内容に基づき、詳細なタイムスケジュールと進行シナリオを作成します。
   • 参加者がワークショップの内容を理解し、スムーズに取り組めるよう、必要な情報やワークの説明を含む配布資料を準備します。

応用する上での注意点

デザイン思考ワークショップを応用・カスタマイズする際には、以下の点に注意が必要です。

• デザイン思考の本質を失わない: ツールや手順を調整しても、「人間中心」「プロトタイピングとテストを通じた反復」「コラボレーション」といったデザイン思考の核となる考え方は維持することが重要です。
• 参加者の理解度とモチベーションを維持: 応用したことでワークショップの流れが複雑になったり、特定のフェーズが駆け足になったりしないよう注意が必要です。参加者が置いてきぼりにならないよう、丁寧な説明やフォローを心がけます。
• 柔軟性を持たせる: 事前に綿密に設計しても、当日の参加者の反応や議論の進み具合によって計画通りに進まないこともあります。状況に応じて計画を微調整できる柔軟性を持つことが、ファシリテーターとして重要です。

まとめ

デザイン思考ワークショップをフリーランスとして提供する際には、標準フレームワークの知識に加え、クライアントの多様なニーズに合わせてワークショップを応用・カスタマイズするスキルが非常に役立ちます。

クライアントの真の目的や課題、そして時間や参加者の制約を丁寧にヒアリングすることから始め、最も効果的なフェーズに重点を置く設計を試みてください。この記事でご紹介した応用パターンや設計ステップが、皆様が自信を持ってクライアントに提案し、成功に導くワークショップを設計するための一助となれば幸いです。実践を重ねることで、きっと応用力の幅が広がっていくことでしょう。