はじめてのデザイン思考ワークショップ チームビルディング・組織活性化のための社内向けワークショップ設計実践ガイド
デザイン思考は、単に製品やサービスの開発手法にとどまらず、組織内の関係性向上や文化変革にも応用できる強力なフレームワークです。特に、チームビルディングや組織活性化といった目的で社内向けのワークショップを企画する際、デザイン思考のアプローチは参加者の主体性や創造性を引き出し、具体的な行動変容につなげる上で非常に有効です。
フリーランスの研修講師やコンサルタントとして、顧客企業から「チームの連携を強化したい」「組織にもっと活気を出したい」といった相談を受けた際に、デザイン思考ワークショップをどのように設計し提案すれば良いか、その実践的な考え方をお伝えします。
なぜチームビルディング・組織活性化にデザイン思考が有効なのか
従来のチームビルディング研修が知識伝達や抽象的な議論に留まることがある一方で、デザイン思考ワークショップは「特定の課題」に対して具体的な「解」を共に考え、形にするプロセスを重視します。このプロセスを通じて、参加者は以下のような経験を得ることができます。
- 共通の課題認識: 組織やチームが抱える共通の課題や、目指すべき未来について、多様な視点から深く理解する機会が得られます。
- 共感と相互理解: チームメンバーがお互いの立場や考え方に共感し、尊重し合う土壌が育まれます。
- 創造的な協働: 既成概念にとらわれず、自由な発想で共にアイデアを生み出し、具体的な解決策を検討するプロセスは、チームの創造性と協働性を高めます。
- 実践と検証: 小さなプロトタイプを作り、実際に試しながら改善していく経験は、チームの実行力を養い、変化への対応力を高めます。
- 心理的安全性の向上: 安全な場で自由に発言し、試行錯誤できる環境は、チーム内の心理的安全性を高め、オープンなコミュニケーションを促進します。
これらの要素は、まさにチームビルディングや組織活性化において不可欠な要素と言えるでしょう。
チームビルディング・組織活性化目的のワークショップ設計ステップ
社内向けのチームビルディング・組織活性化ワークショップを設計する際は、以下のステップを参考にしてください。
ステップ1:目的とターゲットの明確化
最も重要なのは、顧客企業がこのワークショップを通じて何を達成したいのか、その真の目的を深く理解することです。「チームビルディング」「組織活性化」といった抽象的な言葉の裏にある具体的な課題(例: コミュニケーション不足、部門間の連携問題、新しいアイデアが出ない、若手の離職率が高いなど)をヒアリングを通じて引き出します。
- ヒアリングのポイント:
- 現状の組織やチームの具体的な課題は何か
- ワークショップ終了後、参加者にどのような状態になってほしいか
- どのような行動の変化を期待するか
- 参加者の属性(年齢層、役職、部門、ワークショップ経験の有無など)
- ワークショップにかけられる時間、予算、参加人数
この目的とターゲット設定によって、その後のデザイン思考プロセスのどのフェーズに注力すべきか、どのようなアクティビティが適切かが定まります。例えば、部門間の壁をなくしたいのであれば共感フェーズに重点を置き、新しい事業アイデア創出が目的ならアイデア発想に時間をかけるといった具合です。
ステップ2:デザイン思考フェーズの選択と重点設定
デザイン思考の5フェーズ(共感、定義、アイデア、プロトタイプ、テスト)全てを網羅する必要はありません。前述の目的に応じて、特に効果的なフェーズを特定し、そこに時間とエネルギーを集中させます。
- 共感フェーズに重点: チームメンバーがお互いの立場や考え、日々の業務での「ペインポイント(困りごと)」などを共有し、深く理解し合う。カスタマージャーニーマップならぬ「チームメンバー感情マップ」や「チーム内の関係性マップ」などを作成するアクティビティが有効です。
- 定義フェーズに重点: チームや組織が抱える共通の課題を明確に定義する。「我々は〜について困っている。なぜなら〜だからだ。」といった「問い(How Might We: どうすれば私たちは〜できるだろう?)」を設定する。
- アイデアフェーズに重点: 定義された課題に対し、チームとしてどのような新しい取り組みや行動ができるか、多様なアイデアを出し合う。「チーム内コミュニケーション改善アイデア」「新しい会議の進め方アイデア」など。
- プロトタイプ・テストフェーズに重点: 小さな改善策や新しい試みを具体的に計画し、短期間で実行・検証する計画を立てる。例えば「来週の会議で試す新しいアジェンダ」や「メンバー間の情報共有ツール活用ルール案」など、すぐに実行可能な「プロトタイプ」をチームで作る。
チームビルディング・組織活性化においては、特に共感フェーズと、共通の課題に対するアイデア発想や小さな行動計画(プロトタイプ)の策定が効果的である場合が多く見られます。
ステップ3:具体的なアクティビティ設計
選択したフェーズに基づき、具体的なワークショップのアクティビティを設計します。
- 例:共感フェーズを重視する場合
- アイスブレイク(心理的安全性を高める工夫)
- 自己紹介(仕事内容だけでなく、価値観や得意なことなども共有)
- 「私の仕事における困りごと」共有ワーク(付箋を使い、具体的な状況を共有)
- 共感マップ(共有された困りごとや感情を構造化し、チームとしての共通理解を深める)
- 例:アイデア・プロトタイプフェーズを重視する場合(共感・定義フェーズを経て)
- 「どうすれば私たちは〜できるだろう?」という問いの共有
- アイデア発想ワーク(ブレインストーミング、KJ法など)
- アイデアの絞り込み(実現可能性、影響力などの軸で評価)
- プロトタイピング(選ばれたアイデアを、具体的な行動計画や簡易ルール、ツール活用案などの「形」にする。紙やホワイトボードで表現)
- テスト計画(いつ、誰が、何を、どのように試すか、効果測定はどうするかを決める)
アクティビティごとに必要な時間、使用ツール(ポストイット、模造紙、オンラインホワイトボードなど)、グループ分けの方法などを具体的に計画します。
ステップ4:ファシリテーション計画
チームビルディング・組織活性化目的のワークショップでは、内容だけでなくプロセスそのものが重要です。ファシリテーターは、参加者全員が安心して発言でき、互いを尊重し合える場を作る役割を担います。
- 重要なポイント:
- 心理的安全性の確保: 冒頭でルールの確認(批判しない、自由に発言するなど)、発言しやすい雰囲気作り、否定的な意見が出た際の丁寧なフォロー。
- 多様性の尊重: 異なる意見や立場を価値として捉え、それぞれの視点を引き出す。
- 対話の促進: 質問を投げかけ、参加者同士の対話を促す。傾聴の姿勢を示す。
- エネルギー維持: 適度な休憩、進行のテンポ、ポジティブな声かけで参加者の集中力とモチベーションを維持します。
- 中立性の維持: 特定の意見に偏らず、公平な立場で進行します。
ステップ5:成果の定義とフォローアップ
ワークショップで出たアイデアや計画を、単なる「やったきり」にしないための工夫が必要です。
- 成果の可視化: ワークショップ中に生まれたアイデア、気づき、決定事項などを明確に記録し、参加者全体で共有します(写真、議事録、オンラインホワイトボードのエクスポートなど)。
- ネクストステップの確認: ワークショップの最後に、チームとして今後どのような行動をとるのか、具体的な担当者や期限を含めて確認します。
- フォローアップ提案: 顧客企業に対し、ワークショップ後の定期的な進捗確認ミーティングの実施、成果発表会の企画、さらなるサポート(例: 個別コーチング、次のステップのワークショップ)などを提案することで、ワークショップの効果を定着させ、リピートや信頼構築につなげることができます。
まとめ
チームビルディングや組織活性化を目的としたデザイン思考ワークショップは、参加者にとって実践的で、組織の具体的な変化につながる可能性を秘めています。フリーランスとしてこのようなワークショップを企画・提供する際は、顧客企業の真の課題を深く理解し、デザイン思考のフレームワークを柔軟に応用することが成功の鍵となります。
この記事でご紹介したステップやポイントが、あなたの新しいワークショップ企画のヒントになれば幸いです。実践を通じて経験を積み重ね、顧客企業のチームや組織がより良い状態になるための力となっていただければと思います。