デザイン思考ワークショップの実践フレームワーク選び方・使い方ガイド
デザイン思考ワークショップで使うべきフレームワークの選び方と活用のポイント
デザイン思考ワークショップの企画・実行において、どのようなフレームワーク(手法やツール)を選択し、どのように活用すれば良いのか、悩むことは少なくありません。特に、デザイン思考の実践経験がまだ少ない場合、数多くのフレームワークの中から、ワークショップの目的や参加者の状況に最適なものを選び出すのは容易ではないかもしれません。
この記事では、デザイン思考ワークショップで頻繁に活用される実践的なフレームワークをいくつかご紹介し、それぞれの目的、基本的な進め方、そしてワークショップで効果的に活用するための選び方やポイントについて解説します。これにより、あなたのワークショップ設計に自信を持つ一助となることを目指します。
ワークショップの目的に合わせたフレームワークの選び方
デザイン思考は、共感、定義、アイデア、プロトタイプ、テストという一連のプロセスで構成されます。ワークショップの目的が、このプロセスのどの段階に焦点を当てるかによって、選ぶべきフレームワークは異なります。
フレームワークを選ぶ際に考慮すべき主な観点は以下の通りです。
- ワークショップの全体的な目的: 参加者にデザイン思考のプロセス全体を体験してもらうのか、特定の段階(例: ユーザー理解を深める、革新的なアイデアを生み出す)に特化するのか。
- 対象とするデザイン思考のフェーズ: 共感、定義、アイデア、プロトタイプ、テストのどのフェーズに焦点を当てるか。
- 参加者の人数と構成: 少人数か大人数か、参加者のデザイン思考に関する知識レベルや経験の有無、多様性など。
- ワークショップにかけられる時間: 短時間か、数時間、あるいは複数日にわたるのか。
- 扱いたい課題の性質: ユーザーのインサイト発見が重要か、複雑な問題を整理したいか、多様なアイデアを創出したいかなど。
- 実施形態: オフラインかオンラインか。使用できるツールや物理的なスペース。
これらの観点を踏まえ、各フェーズでよく活用される代表的なフレームワークを見ていきましょう。
デザイン思考ワークショップで活用される主要なフレームワーク
ここでは、各デザイン思考フェーズで特に有用なフレームワークをいくつかピックアップし、ワークショップでの活用方法を中心に解説します。
1. 共感フェーズで役立つフレームワーク
ユーザーや顧客を深く理解するためのフレームワークです。
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ペルソナ
- 目的: ターゲットユーザーを架空の人物像として具体化し、チーム全体で共通のユーザー像を共有し、ユーザー視点を醸成します。
- ワークショップでの使い方: ユーザーインタビューや観察から得られた情報をもとに、グループでペルソナを作成します。年齢、性別、職業といった基本的な属性に加え、思考、感情、行動、悩み、ニーズなどを具体的に書き出します。ワークショップの中で常にペルソナを参照することで、「このユーザーならどう感じるか」「このユーザーにとって何が価値か」といった議論を促進できます。
- ポイント: リアルなデータに基づき、具体的な行動や感情に焦点を当てることが重要です。理想化しすぎず、多様なユーザーが存在する場合は複数のペルソナを作成することも検討します。
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カスタマージャーニーマップ
- 目的: ユーザーが特定の製品やサービス、あるいは課題解決に至るプロセスを時間軸で可視化し、各段階でのユーザーの行動、思考、感情、タッチポイント、ペインポイント(不満点や課題)を特定します。
- ワークショップでの使い方: 定義したペルソナが体験するプロセスを、段階ごとにポストイットなどで書き出し、壁や大きな紙にマッピングします。各段階での行動、感情の波、タッチポイント、そして特に課題となっているペインポイントを掘り下げて議論します。これにより、どこに解決すべき真の課題があるのかを明確にできます。
- ポイント: ユーザー視点を徹底し、客観的な事実と主観的な感情の両方を捉えることが重要です。ワークショップでは、参加者自身の経験や推測だけでなく、事前に行ったユーザー調査の結果を積極的に活用するように促します。
2. 定義フェーズで役立つフレームワーク
共感フェーズで得られた情報をもとに、解決すべき本質的な課題を明確にするためのフレームワークです。
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アフィニティダイアグラム(KJ法)
- 目的: 共感フェーズで収集した大量のユーザーの意見や観察結果、アイデアなどを構造的に整理・分類し、隠されたパターンや重要なインサイトを発見します。
- ワークショップでの使い方: 収集した個々の情報をポストイットなどに書き出し、まず内容ごとにグルーピングします。次に、それぞれのグループに適切な見出しをつけ、グループ間の関連性を線で結ぶなどして可視化します。このプロセスを通じて、断片的な情報からより大きなテーマや課題構造を浮き彫りにできます。
- ポイント: 最初はバラバラの情報をそのまま書き出すことから始め、先入観を持たずにグルーピングを行うことが重要です。グループ化のプロセスで、参加者間の対話を通じて新たな気づきが生まれるようにファシリテーションします。
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Problem Definition / POV (Point of View)
- 目的: ユーザー、ニーズ、インサイトを明確に定義し、「〇〇な[ユーザー]は、〇〇という[ニーズ]を持っている。なぜなら、[インサイト]だからだ。」といった形で、解決すべき課題を簡潔かつ力強く表現します。
- ワークショップでの使い方: 共感・定義フェーズで得られた情報(ペルソナ、ジャーニーマップ、インサイトなど)を参照しながら、上記の定型文に当てはめる形で課題定義文を作成します。グループごとに作成し、発表・共有することで、課題に対する理解を深めます。
- ポイント: 表面的なニーズではなく、その背景にある深いインサイト(なぜそのニーズがあるのか)を捉えることが鍵です。この定義文が、続くアイデア創出の方向性を定める羅針盤となります。
3. アイデアフェーズで役立つフレームワーク
定義された課題に対して、多様な解決策を生み出すためのフレームワークです。
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ブレインストーミング / ブレインライティング
- 目的: 質よりも量を重視し、自由な発想で多くのアイデアを短時間で生み出します。ブレインライティングは、各自が黙って書き出し、交換して連想を広げる手法で、発言が苦手な人でも参加しやすい利点があります。
- ワークショップでの使い方:
- ブレインストーミング: 定義した課題を発表した後、設定したルール(批判禁止、自由奔放、質より量、結合・改善)に沿って、参加者が順番にまたは自由にアイデアを発言していきます。ファシリテーターはアイデアを書き出したり、場のエネルギーを高めたりします。
- ブレインライティング: 各自がアイデアシートに一定時間で複数のアイデアを書き出し、書き終わったらシートを隣の人と交換します。交換されたシートを見て、そこに書かれたアイデアから連想される新たなアイデアを書き加えることを繰り返します。
- ポイント: 批判を絶対にせず、どんな突飛なアイデアでも歓迎する雰囲気作りが最も重要です。タイムボックスを設定し、集中して多くのアイデアを生み出すことに注力します。オンラインの場合は、共有ホワイトボードツールなどを活用します。
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SCAMPER
- 目的: 既存の製品やサービス、アイデアなどを様々な視点から見直し、改善したり新しいアイデアを生み出したりするための思考を促進します。
- ワークショップでの使い方: 解決したい課題や既存の何かをテーマに設定し、以下の7つの視点(Substitute, Combine, Adapt, Modify/Magnify/Minify, Put to another use, Eliminate, Reverse/Rearrange)それぞれについて、「〜できないか?」と問いかけながらアイデアを考えます。
- Substitute(置き換える)
- Combine(組み合わせる)
- Adapt(適応させる)
- Modify/Magnify/Minify(修正・拡大・縮小する)
- Put to another use(他の使い道を探す)
- Eliminate(取り除く)
- Reverse/Rearrange(逆転・再配置する)
- ポイント: 各項目について具体的な問いを立て、「もし〇〇を△△に置き換えたら?」のように考えるとアイデアが出やすくなります。単なるブレインストーミングに行き詰まった際に、思考の切り口を変えるのに有効です。
4. プロトタイプフェーズで役立つフレームワーク
アイデアを具体的な形にし、検証可能な状態にするためのフレームワークです。
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MVP (Minimum Viable Product) / リーンキャンバス
- 目的: アイデアの核となる価値を最小限の機能で実現した試作品(MVP)の概念を理解し、どのようにMVPを定義・構築するかを考えます。リーンキャンバスは、アイデアのビジネスモデルを一枚の図に整理し、MVPの検討に役立ちます。
- ワークショップでの使い方: 定義した課題とアイデアに基づき、「ユーザーの最も重要なニーズを解決するために、最低限必要なものは何か?」を議論し、MVPとして何を作るかを定義します。リーンキャンバスを用いて、顧客セグメント、提供価値、チャネル、収益の流れなどを整理することで、アイデアの全体像とMVPの位置づけを明確にできます。
- ポイント: 完成度よりも「学習」を目的とすること、つまり仮説を検証するために必要な最小限の機能に絞ることが重要です。ワークショップでは、絵やストーリーボード、物理的な模型など、様々な形の簡易的なプロトタイプ作成を促します。
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ストーリーボード
- 目的: アイデアやプロトタイプを使ったユーザー体験を、漫画のコマ割りのような形式で視覚的に表現します。
- ワークショップでの使い方: ユーザーがアイデアやプロトタイプとどのようにインタラクションするかを、一連のシーンとして描き出します。それぞれのシーンでユーザーが何を見て、何をして、どう感じるかを具体的に描写します。これにより、ユーザー体験の流れや、プロトタイプを使う際の課題などを具体的に検討できます。
- ポイント: 絵の上手さは関係ありません。重要なのは、ユーザーの行動と感情の変化を明確に表現することです。複数人で描くことで、多様な視点を取り入れることができます。
フレームワークを効果的に活用するためのポイント
フレームワークはあくまで思考や協働を促進するための「ツール」です。単に手順をなぞるだけでなく、ワークショップの目的や参加者の状況に合わせて柔軟に活用することが成功の鍵となります。
- 目的の明確化: なぜそのフレームワークを使うのか、ワークショップを通じて参加者に何を達成してほしいのかを明確にします。
- 導入とルールの説明: フレームワークの目的、進め方、時間配分、守るべきルール(例: ブレストのルール)などを丁寧に説明し、参加者全員が安心して取り組めるようにします。
- 適切なファシリテーション: プロセスが滞りなく進むように時間管理を行い、参加者間の対話を促進し、必要に応じて思考を深めるための問いかけを行います。議論が脱線したり、特定の意見に偏ったりしないように注意します。
- 柔軟な対応: 予定通りに進まない場合や、参加者の反応が薄い場合は、迷わずアプローチを変更したり、時間を調整したりします。ワークショップ中に生まれた予期せぬインサイトを深掘りすることも重要です。
- アウトプットの活用: フレームワークを使って得られたアウトプット(ペルソナシート、アイデアリストなど)を、その後のプロセスでどのように活用するかを明確にします。ワークショップの成果を次のアクションにつなげるための計画を立てます。
まとめ
デザイン思考ワークショップを企画する際、適切なフレームワークの選択と効果的な活用は、ワークショップの質と成果を大きく左右します。この記事でご紹介したフレームワークは、デザイン思考の各フェーズで幅広く活用できる基本的なものです。
あなたのワークショップの目的や参加者の状況に合わせて、これらのフレームワークを参考にしながら、最も適したものを組み合わせてみてください。そして、実際にワークショップを実施しながら、どのようなフレームワークがあなたのスタイルやターゲットに合うのか、試行錯誤を重ねていくことが、ファシリテーターとしての成長につながります。
フレームワークはあくまで手段であり、最も大切なのは、参加者がユーザー視点に立ち、創造的に課題解決に取り組むプロセスそのものです。フレームワークをうまく使いこなし、参加者にとって有益で記憶に残るワークショップを提供してください。