デザイン思考を組織文化として根付かせるワークショップ設計とフォローアップ戦略
デザイン思考ワークショップは、参加者に新しい思考法やアプローチを体験してもらう上で非常に効果的です。しかし、多くの場合、ワークショップでの学びが単発のイベントに留まり、日常業務に活かされず組織文化として根付かないという課題に直面することがあります。フリーランスの研修講師やコンサルタントとして、提供するワークショップの価値を最大化し、クライアントとの長期的な関係性を構築するためには、デザイン思考の定着と文化醸成を支援する視点を持つことが重要です。
この記事では、デザイン思考を組織に根付かせ、文化として定着させるためのワークショップ設計のポイントと、ワークショップ後の効果的なフォローアップ戦略について掘り下げて解説します。
なぜデザイン思考の定着・文化醸成が難しいのか
デザイン思考は、共感、定義、アイデア発想、プロトタイプ作成、テストといった特定のプロセスやツールを学びますが、これらを「特別なワークショップの時だけ使うもの」と捉えられがちです。日常の忙しい業務の中で、習慣として新しい思考法やアプローチを取り入れることには、以下のようなハードルが存在します。
- 時間的な制約: 日々の業務に追われ、新しい手法を試す余裕がない。
- 心理的な抵抗: 失敗を恐れたり、新しいやり方への不安を感じたりする。
- 組織文化との衝突: 既存のプロセスや評価制度が、デザイン思考の実践を妨げる場合がある。
- 実践方法の不明確さ: ワークショップで学んだことを、具体的な自分の業務にどう適用すれば良いか分からない。
- 上層部の理解不足: リーダーシップ層がデザイン思考の長期的な価値を理解しておらず、推進が弱い。
これらの課題を踏まえ、ワークショップを企画・実行する段階から、定着と文化醸成を意識した設計とフォローアップが必要です。
定着・文化醸成を目指すワークショップ設計のポイント
単発の知識習得型ワークショップではなく、実践と継続を促すための設計が求められます。
1. シリーズ形式や長期プログラムとしての設計
一度のワークショップですべてを網羅するのではなく、段階的に学びを深め、実践を挟むシリーズ形式のプログラムを検討します。
- ステップ1:基礎理解と体験: デザイン思考の考え方と基本的なプロセス、主要なツールの使い方を学ぶ。
- ステップ2:実践と応用: 参加者自身の具体的な業務課題をテーマに、デザイン思考プロセスを実践する。
- ステップ3:振り返りと深化: 実践で得られた気づきや課題を共有し、学びを深めるセッション。
このように複数回に分けることで、参加者が学びを消化し、実際に試す機会を設けることができます。
2. 日常業務との強い関連付け
ワークショップ内で扱うテーマや演習は、参加者の実際の業務や組織が抱える課題と直結している必要があります。
- 具体的な業務課題の持ち込み: ワークショップのテーマを抽象的なものにせず、「自部署の顧客体験を改善する」「社内コミュニケーションの課題を解決する」など、具体的な課題解決を目的とします。
- 実践計画の策定: ワークショップの最後に、参加者が自身の業務に戻ってから最初に行う具体的なアクション(例:顧客への簡易インタビュー、アイデアの壁打ち会設定)を計画する時間を設けます。
3. 組織内の推進者・リーダーシップ層の巻き込み
デザイン思考を組織に根付かせるには、現場の努力だけでなく、組織として後押しする体制が必要です。
- リーダーシップ向けセッション: エグゼクティブ層やマネージャー層向けに、デザイン思考の重要性、導入のメリット、推進役としての役割を理解してもらうためのオリエンテーションや短時間のワークショップを実施します。
- 組織内チャンピオンの育成: ワークショップ参加者の中から、デザイン思考の実践を率先して行い、周囲に広める役割を担う「チャンピオン」を育成・支援します。
4. 実践を促すための仕掛け
ワークショップの中や最後に、実践を促すための具体的な仕掛けを盛り込みます。
- 簡易テンプレートやツールの提供: 日常業務で使いやすいデザイン思考関連のテンプレート(例:共感マップの簡易版、アイデア発想シート)を提供します。
- 成功事例の共有促進: ワークショップ中に、過去の実践で生まれた小さな成功事例を参加者間で共有する機会を設けます。
ワークショップ後の効果的なフォローアップ戦略
ワークショップ実施後こそ、定着支援の本番です。
1. 実践報告会・共有会
ワークショップ後、一定期間を置いて参加者が自身の業務でデザイン思考をどう活用したか、どのような成果や課題があったかを共有する場を設けます。
- 目的: 実践のモチベーション維持、成功事例の共有、相互学習、課題解決支援。
- 形式: オンラインでの短時間セッション、ランチミーティング形式など、参加しやすい形式を選択します。
2. メンタリング・個別相談
参加者が実践過程で直面する疑問や課題に対して、個別の相談やメンタリングを提供します。
- 形式: オンラインでの個別相談、メールでの質疑応答など。
- 内容: 具体的な業務課題へのデザイン思考の適用方法、ツールの使い方、アイデアの壁打ちなど。
3. 組織内コミュニティ形成支援
デザイン思考に興味を持つ、あるいは実践する参加者同士が継続的に交流し、学び合えるコミュニティ形成を支援します。
- 方法: 社内SNSグループの立ち上げ、定期的な交流イベント(オンライン・オフライン)、情報共有プラットフォームの提供など。
- 役割: コミュニティが自律的に活動できるよう、初期の立ち上げ支援や情報提供を行います。
4. 継続的な学びの機会提供
デザイン思考は進化する分野であり、参加者の習熟度も向上します。さらなる学びの機会を提供することで、文化として深化を促します。
- 応用ワークショップ: 特定のフェーズに特化した深掘りワークショップ(例:高度なインタビューテクニック、プロトタイピング実践)。
- 関連分野の紹介: デザイン思考と親和性の高い分野(例:アジャイル、カスタマーサクセス)の知識共有。
5. クライアントとの連携強化
クライアント企業の担当者と密に連携し、組織全体の取り組みとしてデザイン思考の定着が進むよう協力体制を築きます。
- 定期的な進捗共有: フォローアップ活動の状況や参加者の反応をクライアントと共有します。
- 次なるステップの提案: ワークショップやフォローアップの成果に基づき、組織課題解決のための継続的な支援や新たなプログラムを提案します。
まとめ
デザイン思考ワークショップを提供することは、参加者に新しい視点やスキルをもたらす第一歩です。しかし、その価値を真に最大化し、クライアント企業に貢献するためには、ワークショップで終わらせず、学びを組織の日常業務に定着させ、文化として根付かせるための戦略的な視点と実践的なフォローアップが不可欠です。
ワークショップ設計段階から定着を意識し、クライアントとの緊密な連携のもと、多角的なフォローアップ施策を実行することで、フリーランスの研修講師・コンサルタントとして提供できる価値は飛躍的に高まります。これは、単なる研修提供者ではなく、クライアントの組織変革を伴走するパートナーとしての地位を確立することにもつながります。ぜひ、次のワークショップ企画から「定着」という視点を取り入れてみてください。