はじめてのデザイン思考ワークショップ 参加者がビジネス成果への繋がりを実感するためのワークショップ設計とファシリテーション
デザイン思考ワークショップを企画・提供されるフリーランスの研修講師・コンサルタントの皆様へ。
デザイン思考はその革新性や創造性で注目されていますが、参加者にとっては「面白いアクティビティだったけれど、実際のビジネスにどう活かせるのだろうか」という疑問が残る場合があります。特に、ワークショップが単発で終わってしまうと、その場で得られた気づきやアイデアが具体的な成果に繋がりにくいという課題も生じがちです。
本記事では、デザイン思考ワークショップを通じて参加者が自身のビジネス課題解決や新しい価値創造に繋がる手応えを実感できるようになるための、具体的なワークショップ設計とファシリテーションのポイントを解説します。参加者の「自分事」として捉え、ワークショップの効果を最大化するための実践的なノウハウを提供することを目指します。
なぜ参加者がビジネス成果への繋がりを実感することが重要なのか
デザイン思考ワークショップの目的は、単に手法を学ぶことだけではありません。学んだ思考法やツールを使って、現実世界のビジネス課題を解決したり、新しい機会を捉えたりできるようになることです。参加者がワークショップ中に「これは自分の仕事に役立つかもしれない」「この考え方を使えば、抱えている課題を解決できそうだ」と実感することで、以下のような効果が期待できます。
- 学習意欲・エンゲージメントの向上: 学びが自分にとって価値あるものだと感じられれば、主体的に参加し、深い学びを得ようとします。
- 継続的な実践への動機付け: ワークショップ後もデザイン思考を使い続けるための強い動機が生まれます。
- ワークショップへの肯定的な評価: 参加者はワークショップが有益だったと感じ、組織内での評価や口コミに繋がります。
- クライアントの期待値達成: クライアントが期待する「ビジネスへの貢献」という成果に繋がりやすくなります。
これらの理由から、参加者がワークショップ中にビジネス成果への繋がりを実感できるような設計とファシリテーションは、ワークショップ成功の鍵となります。
ワークショップ設計におけるポイント:各フェーズでビジネスとの繋がりを意識させる
デザイン思考の各フェーズ(共感、定義、アイデア発想、プロトタイプ、テスト)において、単にプロセスを進めるだけでなく、常に「これがどのようにビジネスに繋がるのか」という視点を組み込むことが重要です。
1. 共感フェーズ
- インサイトとビジネス課題の結びつけ: ユーザーへの共感を通じて得られたインサイトを共有する際に、そのインサイトが「どのようなビジネス課題の根本原因となっているか」「どのような新しいビジネス機会を示唆しているか」を参加者に考えさせる問いを投げかけます。
- ペルソナ・カスタマージャーニーマップの活用: 作成したペルソナやジャーニーマップを発表・共有する際に、「このペルソナの悩みや行動の裏には、私たちのビジネスにとってどのようなチャンスやリスクがあるか」「このジャーニーの特定のステップでの不満は、どのようなサービス改善に繋がるか」といった議論を促します。
2. 定義フェーズ
- 課題定義の明確化とビジネス上の重要性: ユーザーの視点からの課題(How Might We... 問いなど)を定義した後、その課題を解決することが「なぜビジネス上重要なのか」「解決することでどのような価値が生まれるのか」を具体的に言語化する時間を設けます。例えば、「この課題解決は、売上向上、コスト削減、顧客満足度向上、新しい市場開拓といったビジネス目標のどれに貢献するか」といった視点での検討を促します。
- ターゲット顧客の再確認: 定義した課題が、どのようなターゲット顧客にとって最も切実な課題であるかを再確認し、その顧客層のビジネス上の重要性についても触れます。
3. アイデア発想フェーズ
- 発想基準へのビジネス視点の組み込み: アイデア発想のルールやウォームアップの際に、「ユニークであることに加え、どのようなビジネス課題を解決するか」「どのような新しい価値を生み出すか」といった視点を意識させます。
- アイデア評価基準への反映: 発想したアイデアを評価・選定する際に、「創造性」「実現可能性」といった一般的な基準に加え、「想定されるビジネスインパクト」「ターゲット顧客への価値提供度合い」といったビジネス視点の基準を加えます。
4. プロトタイプフェーズ
- プロトタイプが解決する課題と価値の明確化: 作成したプロトタイプについて、「これが具体的にどの課題を、どのように解決しようとしているのか」「その解決によって、ユーザーにどのような価値を提供できるのか、そしてそれはビジネスとしてどのような意味を持つのか」を説明する機会を設けます。
- シンプルだが本質を突くプロトタイピングの推奨: 時間やリソースの制約がある中で、単に形を作るだけでなく、「最も重要な価値提案や課題解決方法」を検証するためのプロトタイプを作るよう促します。これにより、ビジネスの本質に焦点を当てやすくなります。
5. テストフェーズ
- テストの問いへのビジネス視点: ユーザーテストを実施する際に、単に「使いやすいか」「理解できるか」だけでなく、「このプロトタイプによって、ユーザーの特定の課題(定義フェーズで設定した課題)は解決されそうか」「もし実現したら、このユーザーは対価を支払う価値を感じそうか」といった、ビジネス成立に関わる示唆を得られるような問いも検討します。
- フィードバックの解釈とビジネスへの示唆: テストで得られたフィードバックを分析する際に、「この反応は、私たちが想定したビジネスモデルや価値提案にとってどのような意味を持つか」「改善点はどこにあり、それがビジネス的な実現可能性にどう影響するか」といった視点で議論します。
ファシリテーションにおけるポイント:参加者の「自分事」を引き出す
設計したワークショップが意図通りに機能するかは、ファシリテーションの手腕に大きく依存します。参加者が積極的にビジネスとの繋がりを考えるよう促すためのファシリテーションのコツをいくつかご紹介します。
- 「なぜ」と「もしも」の問いを多用する:
- 「なぜこのインサイトは重要だと思いますか?」「これが解決すると、私たちのビジネスにとってどのような良い変化が起こりそうですか?」
- 「もしこのアイデアが実現したら、お客様はどのような体験をするでしょうか?それは今の状況とどう違うでしょうか?」
- 「もしこのプロトタイプを事業化するとしたら、どのような課題が考えられますか?」 これらの問いかけを通じて、参加者は自然とビジネス的な視点から物事を考えるようになります。
- 具体的なビジネス事例を引用する: デザイン思考を活用して成功した(あるいは失敗から学んだ)企業の具体的な事例を適宜紹介することで、抽象的な手法論ではなく、それが実際のビジネスでどのように機能するのかをイメージさせやすくなります。
- 参加者自身のビジネス文脈に引きつける: グループワークや発表の際に、「あなたの部署の業務に当てはめるとどう考えられますか?」「今、あなたが抱えている課題で、このステップを応用できそうなものはありますか?」といった問いかけで、学びを自分自身の状況に引きつけて考えさせます。
- 各フェーズの成果をビジネスゴールと関連付けてまとめる: 各フェーズの終わりやワークショップの最後に、そのフェーズで得られた成果(インサイト、定義された課題、アイデア、プロトタイプ)が、当初設定したワークショップのゴールや、さらに上位のビジネス目標(もし共有されていれば)にどのように貢献しうるかを明確に言語化し、参加者全体で共有します。
- 「仮説検証の重要性」を強調する: デザイン思考は、不確実性の高い状況で有効なアプローチであることを伝えます。特にプロトタイプとテストのフェーズでは、「これはあくまで仮説であり、検証を通じて学ぶことが重要である」というメッセージを強調し、ビジネスにおけるリスクを最小限に抑えつつ新しい価値を創造するための手法であることを理解させます。
- ポジティブな雰囲気で実践を促す: 新しい考え方や手法を試すことへの抵抗感を和らげ、積極的に実践してみようという気持ちを引き出すような、心理的安全性の高い場作りを心がけます。失敗を恐れず、学びとして捉える姿勢を共有します。
まとめ:デザイン思考の真価を伝えるワークショップを
デザイン思考ワークショップの成功は、単に定義されたプロセス通りにワークを進めることだけではありません。参加者がそのプロセスを通じて得られた気づきや成果が、いかに自身の業務や所属する組織のビジネスに価値をもたらしうるかを「実感」できるかどうかにかかっています。
今回ご紹介した設計とファシリテーションのポイントを取り入れることで、参加者のエンゲージメントを高め、ワークショップ後もデザイン思考を実践し続けるための強力な動機付けを行うことができます。これは、フリーランスの研修講師・コンサルタントとして、クライアントに対してデザイン思考の真価を伝え、提供するサービスの価値を高める上でも非常に有効です。
ぜひ、次回のワークショップ企画・実施の際に、これらの視点を取り入れてみてください。参加者の「なるほど、デザイン思考って本当にビジネスに効くんだ!」という声を聞けることを願っています。