はじめてのデザイン思考ワークショップ 成果物から逆算するワークショップ設計実践ガイド
はじめてのデザイン思考ワークショップ 成果物から逆算するワークショップ設計実践ガイド
デザイン思考ワークショップを企画される際、多くの場合、プロセスや手法から入ることがあるかもしれません。しかし、よりクライアントや参加者の期待に応え、ワークショップの効果を最大化するためには、「最終的にどのような成果物を得たいか」という視点から設計を始めることが非常に重要です。
プロセスを辿るだけでなく、ワークショップを通じて何を生み出し、それがどのように活用されるのかを明確にすることで、設計全体の精度が高まります。この記事では、成果物から逆算するデザイン思考ワークショップ設計の考え方と具体的なステップをご紹介します。
なぜ成果物からの逆算が重要なのか
フリーランスの研修講師やコンサルタントとしてデザイン思考ワークショップを提供する際、クライアントや参加者が最も関心を持つのは、ワークショップ後の「変化」や「得られるもの」です。単にデザイン思考のプロセスを体験することだけでなく、具体的なアイデア、解決策の方向性、共通認識、アクションプランといった「成果物」が、ワークショップの価値を測る重要な指標となります。
成果物から逆算して設計することで、以下のようなメリットがあります。
- 目的達成の確実性向上: 目標とする成果物が明確になるため、必要な要素を漏れなく設計に組み込めます。
- 参加者の満足度向上: 参加者は「何のためにこのアクティビティを行っているのか」を理解しやすくなり、納得感を持って取り組めます。
- クライアントへの価値伝達の明確化: ワークショップ終了後の状態や得られるものが具体的に示せるため、提案段階からクライアントの期待値を適切に設定できます。
- ファシリテーションの焦点明確化: 各フェーズやアクティビティでどのようなアウトプットを引き出すべきかが明確になり、効果的なファシリテーションにつながります。
成果物から逆算するワークショップ設計のステップ
ステップ1: ワークショップで得たい「最終的な成果物」を定義する
設計の出発点は、「このワークショップが終わったときに、参加者やクライアントはどのような状態になり、どのような成果物を持っているべきか」を具体的に定義することです。
- クライアントや参加者の理想の状態・解決したい課題を深掘りする: 事前のヒアリングを通じて、なぜデザイン思考ワークショップが必要なのか、解決したい根本的な課題は何なのか、ワークショップを通じて何を得たいのかを徹底的に確認します。
- 成功イメージを具体的に言語化・可視化する: ワークショップ終了時に「これがあれば成功」と言える状態を、参加者やクライアントと共有できるレベルで具体的にします。例えば、「顧客インサイトに基づいた新規事業アイデアが最低5つ出ている」「課題の根本原因とその相互関係が図解されている」「プロトタイプの次のアクションが決まっている」といった形です。
- 成果物の具体的な形式を検討する: 最終的な成果物は、単なるアイデアの羅列かもしれませんし、整理されたインサイトマップ、ペルソナシート、ジャーニーマップ、プロトタイプのスケッチやモデル、アクションプランが記載されたシートなど、様々な形式が考えられます。これらの形式を事前に想定しておくことで、ワークショップ中のアウトプット方法や整理方法を設計しやすくなります。
ステップ2: 定義した成果物に必要な要素・情報を洗い出す
最終的な成果物が定義できたら、次に、その成果物を完成させるために不可欠な「要素」や「情報」は何であるかを洗い出します。
例えば、「顧客インサイトに基づいた新規事業アイデアリスト」を成果物とする場合、必要な要素・情報としては「顧客の深いニーズや課題(インサイト)」「解決すべき具体的な課題定義」「多角的なアイデア発想」「アイデアの絞り込み基準」などが挙げられます。
これらの要素は、デザイン思考の各フェーズ(共感、定義、アイデア発想、プロトタイプ、テスト)で生まれるべきアウトプットに対応しています。どのフェーズで、どのような質と量の情報が必要かを具体的にリストアップします。
ステップ3: 必要な要素・情報を得るためのアクティビティやツールを選ぶ・設計する
ステップ2で洗い出した各フェーズでの必要なアウトプットを得るために、最も効果的なアクティビティやツールを選択・設計します。
- 目的とアウトプットに合わせたアクティビティ選定: 共感フェーズであればペルソナ作成やジャーニーマップ作成、アイデア発想であればブレインストーミングやSCAMPER、定義フェーズであればWhy-How-Whatなど、必要なアウトプットを効果的に引き出すための多様なアクティビティの中から適切なものを選びます。
- アウトプット形式を促す設計: 定義した成果物の形式に合わせて、ワークショップ中のアウトプット形式を工夫します。例えば、最終的にジャーニーマップを完成させるのであれば、共感フェーズからジャーニーマップのテンプレートを使用するなど、早い段階から成果物の構成要素を意識したアウトプットを促します。
- ツールの活用: アナログツール(模造紙、ポストイット)やデジタルツール(Miro, Mural, FigJamなど)は、情報収集、整理、可視化、共有に不可欠です。定義した成果物の形式、参加者数、実施形式(オフライン/オンライン)を考慮し、最も効果的なツールを選択・準備します。特にデジタルツールを使用する場合、事前にテンプレートを用意しておくことで、ワークショップ中の整理・統合をスムーズに行えます。
ステップ4: フェーズ構成と時間配分を調整する
必要なアクティビティが決まったら、それらをデザイン思考のプロセスに沿って配置し、ワークショップ全体の流れを構成します。この際、成果物から逆算する視点を忘れずに、以下の点を考慮して時間配分を調整します。
- 成果物生成に不可欠なフェーズへの重点配分: 例えば、新規事業アイデアのリストを成果物とするなら、アイデア発想フェーズに十分な時間を確保する必要があります。インサイトマップが重要な成果物であれば、共感フェーズと定義フェーズに時間をかけ、インサイトの深掘りと構造化に注力します。
- アウトプットの「まとめ」「整理」時間の確保: ワークショップ中に様々なアウトプットが生まれますが、それが最終的な成果物として機能するためには、必ず整理・統合・構造化する時間が必要です。この「まとめる」時間を設計にしっかりと組み込んでください。
ステップ5: 成果物の「まとめ方」「見せ方」を設計に組み込む
ワークショップ中に生まれたアウトプットを、定義した最終的な成果物としてどのようにまとめ、誰に、どのように見せるかまでを設計に組み込みます。
- ワークショップ中の整理・統合プロセス: 参加者自身がワークショップ中にアウトプットを整理・統合する時間を設けることで、内容の定着と成果物へのオーナーシップを高めることができます。グルーピング、ラベリング、相互関係のマッピングなどの時間を設けます。
- 成果物のデジタル化・共有方法: アナログで生まれたアウトプットは、写真撮影やスキャン、デジタルツールへの移行などによってデジタル化し、参加者やクライアントに共有しやすい形にします。どのタイミングで、誰が(ファシリテーターか参加者か)、どのような方法で行うかを事前に決めておきます。
- 成果発表の設計: ワークショップの最後に、参加者自身が成果物を発表する時間を設けることは非常に有効です。何を、誰に(他のチーム、クライアントなど)、どのようなフォーマット(数枚のスライド、ポスター、口頭説明など)で伝えるかを設計します。これにより、参加者は「伝えること」を意識してワークショップに取り組み、成果物の完成度を高めようとします。
まとめ
デザイン思考ワークショップの設計は、単に定められたプロセスやアクティビティを時間内にこなすことだけではありません。クライアントや参加者が何を求めているのか、そしてワークショップを通じてどのような「成果物」を生み出し、それをどのように活用してもらうのかを明確にすることから始める「成果物からの逆算設計」は、ワークショップの質と価値を飛躍的に向上させます。
この記事でご紹介したステップは、はじめてデザイン思考ワークショップを設計されるフリーランス講師・コンサルタントの皆様が、目的を明確に持ち、参加者を成功に導くための具体的な道筋となります。ぜひ、次のワークショップ企画からこの考え方を取り入れてみてください。質の高い成果物は、参加者の満足度を高めるだけでなく、講師・コンサルタントとしての信頼と実績にもつながるはずです。