はじめてのデザイン思考ワークショップ

特定のニーズに合わせたデザイン思考ワークショップ設計ガイド

デザイン思考ワークショップは、共通のフレームワークを持ちながらも、提供する相手や解決したい課題によって最適な形は異なります。フリーランスとして、多様なクライアントのニーズに応じたワークショップを提供するためには、基本的な設計に加えて、それぞれの状況に合わせたカスタマイズの技術が不可欠です。

この記事では、特定のニーズに合わせてデザイン思考ワークショップを設計するための具体的な考え方と手順について解説します。

なぜデザイン思考ワークショップのカスタマイズが必要なのか

デザイン思考の一般的なプロセス（共感、定義、創造、プロトタイプ、テスト）は多くの課題解決に有効ですが、全ての状況に万能というわけではありません。参加者の背景、組織文化、課題の性質、利用可能な時間、予算、期待される成果などはクライアントごとに大きく異なります。

これらの要素を考慮せずに汎用的なワークショップを提供するだけでは、参加者のエンゲージメントが低迷したり、期待される成果が得られなかったりする可能性があります。クライアントの固有のニーズに深く寄り添い、ワークショップをカスタマイズすることで、より高い効果と満足度を提供できるようになります。

カスタマイズ設計の基本ステップ

特定のニーズに合わせてワークショップを設計する際は、以下のステップを踏むことが推奨されます。

1. クライアントと参加者の詳細なニーズを把握する:

   • どのような課題を解決したいのか、具体的なゴールは何かを深くヒアリングします。
   • 参加者の属性（役職、職種、デザイン思考の経験レベル、専門分野）を理解します。
   • 組織文化や現在の働き方（対面かオンラインか、使用ツールなど）を確認します。
   • ワークショップにかけられる時間、予算、参加人数を把握します。

2. ワークショップの明確な目的とゴールを設定する:

   • ヒアリングしたニーズに基づき、「このワークショップを終えた時に参加者がどうなっているか」「どのようなアウトプットが出ているか」を具体的に定義します。
   • 目的は、例えば「顧客の隠れたニーズを発見する」「革新的なアイデアを複数創出する」「実現可能性の高いプロトタイプを作成する」のように、具体的である必要があります。

3. デザイン思考のどのフェーズに重点を置くかを選択する:

   • 解決したい課題の種類によって、注力すべきフェーズは異なります。
     • 共感・定義に重点: 課題が不明確、顧客理解を深めたい場合。ユーザーインタビュー、カスタマージャーニーマップ作成などを多めに組み込む。
     • 創造に重点: アイデア枯渇、ブレインストーミングを活性化したい場合。多様な発想法、アイデアの収束方法に時間をかける。
     • プロトタイプ・テストに重点: アイデアは出ているが形にならない、フィードバックを得て改善したい場合。短時間プロトタイピング、ユーザーテスト手法を組み込む。
   • 全てのフェーズを網羅する必要はありません。目的に合わせて必要なフェーズを選び、時間配分を調整します。

4. 具体的なアクティビティと手法を選定・調整する:

   • 選択したフェーズに基づき、具体的なワークショップ手法（例：ペルソナ作成、ジャーニーマップ、KJ法、ブレインストーミング、ラピッドプロトタイピングなど）を選びます。
   • 参加者の経験レベルに合わせて、手法の難易度や説明の詳しさを調整します。
   • 参加人数や時間に合わせて、グループ分けの方法、ディスカッション時間を調整します。
   • オンライン実施の場合は、使用ツールの機能に合わせてアクティビティを設計します。

5. 時間配分と全体の流れを設計する:

   • ワークショップ全体の時間枠の中で、各フェーズ、各アクティビティにどれくらいの時間を割くかを具体的に計画します。
   • 休憩時間、説明時間、質疑応答時間なども考慮に入れます。
   • 特に短時間ワークショップの場合は、手順を簡略化したり、使用するテンプレートを工夫したりするなどの調整が必要です。

6. 期待されるアウトプットの形式を具体化する:

   • ワークショップで何が生まれるかを明確にします。アイデアリスト、プロトタイプのスケッチ、カスタマージャーニーマップ、課題定義シートなど、具体的な成果物のイメージをクライアントと共有します。

具体的なカスタマイズ例

• 経営層向け（短時間・戦略志向）:

  • 重点フェーズ: 主に定義、創造、一部のプロトタイプ（概念レベル）。
  • 手法: データに基づいたペルソナ紹介、課題の再定義セッション、短期集中ブレインストーミング、ビジネスモデルキャンバスなど。
  • 時間: 1〜3時間程度。
  • ポイント: 事前の情報提供を十分に行い、当日は高レベルな議論に集中できるように設計します。アウトプットは戦略的意思決定に繋がる形を目指します。

• 現場社員向け（実践・アイデア創出志向）:

  • 重点フェーズ: 共感、創造、簡単なプロトタイプ。
  • 手法: フィールドワーク（可能な場合）、ユーザーインタビューのロールプレイング、多様なブレインストーミング手法（SCAMPERなど）、ペーパープロトタイピング、アイデアの投票・絞り込み。
  • 時間: 4時間〜2日程度。
  • ポイント: 体験を通じてデザイン思考の考え方を学び、チームとしてアイデアを生み出すプロセスを重視します。具体的なツールやテンプレートを活用します。

• 特定の技術チーム向け（技術応用・検証志向）:

  • 重点フェーズ: プロトタイプ、テスト、定義。
  • 手法: 技術シーズと顧客ニーズのマッチング、機能プロトタイピング（簡単なモックアップ作成）、ユーザーフィードバック収集、技術的実現可能性の検討。
  • 時間: 1日〜数日。
  • ポイント: 既存技術の応用可能性や新しい技術の顧客価値を探求することに焦点を当てます。技術的な制約や可能性を理解している参加者向けに設計します。

カスタマイズする上での注意点

• 事前の期待値調整: クライアントに対して、ワークショップでどこまでできるのか、どのような成果が期待できるのかを具体的に、かつ現実的に伝えます。カスタマイズ内容とその理由も丁寧に説明します。
• 難易度の調整: 参加者のデザイン思考経験に合わせて、使用する用語や手法の難易度を適切に調整します。初めての場合は基本的な概念説明に時間をかけ、経験者にはより高度な手法を導入することも可能です。
• 柔軟性を持たせる: 事前にしっかり設計しても、当日の参加者の反応や議論の展開によっては、予定通りに進まないこともあります。状況に応じて時間配分やアクティビティを微調整できる柔軟性を持つことが重要です。
• アウトプットの活用計画: ワークショップで生まれたアウトプットがその後どのように活用されるのかをクライアントと話し合い、それを踏まえてアウトプット形式やまとめ方を設計します。

まとめ

デザイン思考ワークショップのカスタマイズは、フリーランスの研修講師・コンサルタントとして、クライアントに真に価値あるサービスを提供するための重要なスキルです。クライアントのニーズを深く理解し、目的に合わせてフェーズや手法を選択・調整することで、より効果的で実践的なワークショップを実現できます。

この記事でご紹介したステップや考え方を参考に、ぜひご自身のワークショップ設計に取り入れてみてください。クライナトごとの固有の課題解決を支援することで、専門家としての信頼性を高め、ビジネスの幅を広げることができるでしょう。