はじめてのデザイン思考ワークショップ 最初の10分で参加者の心をつかむ:デザイン思考の目的・概要の伝え方
デザイン思考ワークショップを企画・実行されるフリーランスの研修講師やコンサルタントの皆様、こんにちは。このサイトは、デザイン思考ワークショップをはじめて手掛ける方が自信を持って実践できるよう、具体的なノウハウを提供しています。
ワークショップの成功は、最初の掴みが非常に重要です。特に、デザイン思考に馴染みのない参加者に対して、冒頭でデザイン思考の目的や概要をどのように伝えるかは、その後のエンゲージメントやアウトプットの質を大きく左右します。この記事では、ワークショップ開始後最初の約10分で、参加者の心をつかみ、デザイン思考への関心を高めるための効果的な伝え方と具体的な構成のポイントを解説します。
ワークショップ冒頭の説明が重要な理由
なぜワークショップの冒頭、特に最初の10分程度での説明がそれほど重要なのでしょうか。これにはいくつかの理由があります。
- 初頭効果: 人は最初に受けた情報や印象に影響されやすい傾向があります。冒頭でポジティブな印象を与え、関心を引きつけることができれば、その後のワークショップ全体に対する参加者の意欲が高まります。
- 期待値の設定: デザイン思考やワークショップ形式に不慣れな参加者は、「このワークショップで何が得られるのか」「何をするのか」といった疑問や不安を抱いている場合があります。冒頭で目的や得られる成果を明確に伝えることで、参加者の期待値を適切に設定し、安心して取り組めるように促します。
- デザイン思考への導入: デザイン思考独特の思考法やプロセスへのスムーズな導入を図ります。なぜこのやり方をするのか、それぞれのフェーズにどのような意味があるのかの入り口を示すことで、参加者が目的意識を持ってプロセスに参加できるようになります。
- 参加者のエンゲージメント向上: 一方的な説明ではなく、問いかけや短いインタラクションを交えることで、参加者を能動的な姿勢へと誘導し、ワークショップへのエンゲージメントを高めます。
冒頭10分で伝えるべき核となる要素
限られた時間の中で、デザイン思考のすべてを伝える必要はありません。重要なのは、参加者にとって「なぜ今、自分たちがデザイン思考に取り組む必要があるのか」「このワークショップを通じて何が得られるのか」という点を明確にし、興味を引きつけることです。
冒頭で伝えるべき核となる要素は以下の通りです。
- デザイン思考とは何か(ごく簡単に): 難解な定義や歴史に深く触れる必要はありません。「人間中心のアプローチで、課題解決や新しい価値創造を目指す考え方、進め方です」といった、平易で分かりやすい言葉で概念を伝えます。
- なぜこのワークショップでデザイン思考に取り組むのか(目的): このワークショップが開催される背景や、解決したい具体的な課題、達成したい目標を共有します。「〇〇という課題に対し、デザイン思考のアプローチで新しい視点を見つけ、具体的なアイデアを生み出すことを目指します」のように、参加者自身の状況や業務に関連付けて説明します。
- デザイン思考の価値・魅力(参加者にとってのメリット): デザイン思考に取り組むことで、参加者自身や彼らの組織にどのような良い影響があるのかを伝えます。「固定観念にとらわれず多様なアイデアを生み出す力が身につく」「顧客の本質的なニーズを理解できるようになる」など、具体的なメリットを提示します。
- ワークショップの進め方・流れ(簡易的に): ワークショップがどのように進行するのか、全体像を簡潔に示します。「今日は〇〇のプロセスに沿って、△△のような活動を行います」といったナビゲーションがあることで、参加者は安心して臨めます。
効果的な伝え方のポイント
これらの要素を効果的に伝えるためには、いくつかのポイントがあります。
- 参加者の背景と接続する: 参加者が属する組織やチームの状況、彼らが日々直面しているであろう課題や関心事を踏まえて話します。彼らにとって「自分事」として捉えてもらえるように、具体的な事例や問いかけを挟むことが有効です。
- ストーリーテリングを活用する: デザイン思考の成功事例や、デザイン思考によって解決された課題のストーリーを簡単に紹介します。抽象的な説明よりも、具体的な物語の方が記憶に残りやすく、共感を呼びやすくなります。
- 視覚資料を効果的に使う: スライドや簡単な図解を用いて、デザイン思考のプロセスや核となる考え方を視覚的に示します。多くの情報を詰め込むのではなく、要点を絞った分かりやすいデザインを心がけます。
- 専門用語を避ける、または丁寧に説明する: デザイン思考特有の言葉(例: ペルソナ、ジャーニーマップ、プロトタイプなど)を使用する場合は、その都度、参加者に分かりやすいように補足説明や具体例を加えます。
- エネルギーとパッションを持って話す: ファシリテーター自身のデザイン思考に対する情熱や、このワークショップへの期待を伝えます。ポジティブなエネルギーは参加者にも伝染し、ワークショップの雰囲気を明るくします。
- 一方的な説明に終始しない: 短いチェックイン(例: 今日のワークショップに期待することを一言共有)や、デザイン思考に関する簡単な問いかけ(例: 「皆さんが普段、新しいアイデアを生み出す際に難しさを感じるのはどんな時ですか?」)を挟むことで、参加者の声を引き出し、インタラクティブな雰囲気を作ります。
具体的な冒頭10分間の構成例
以下は、冒頭10分間の構成の一例です。参加者の人数やワークショップの目的によって調整してください。
- アイスブレイク(2〜3分): 短く、この後のワークショップの内容に緩やかにつながるようなテーマを選びます。例: 「最近、〇〇(ワークショップテーマに関連すること)で『これは良いな』と感じたことは何ですか?」をペアで簡単に話し合うなど。
- ワークショップ全体の目的・ゴール共有(1〜2分): 「今日のワークショップでは、〇〇を目的としています。最終的に△△の状態を目指します」といった、参加者が目指すべき方向を明確に示します。
- デザイン思考の「なぜ?」と「何を学ぶか」の解説(4〜5分):
- 「なぜ今、デザイン思考なのか」を、参加者やクライアントの状況と関連付けて説明します。
- デザイン思考の基本的な考え方(人間中心であることなど)を平易な言葉で伝えます。
- このワークショップで体験するプロセスや、それを通じて何が得られるのかを、参加者にとってのメリットを強調しながら説明します。
- 短いストーリーや具体例をここで挿入するのも効果的です。
- ワークショップの簡単な流れ説明とチェックイン(1〜2分):
- 「本日は〇〇というプロセスで進めます」と、全体像を簡潔に示します。
- 参加者に向けて短い問いかけを行います。「ここまでの説明でご不明な点はありますか?」「今日のワークショップで特に楽しみにしていることは何ですか?」など、参加者の声を聞く機会を設けます。
この構成はあくまで一例です。重要なのは、参加者がワークショップに前向きに取り組むための「動機付け」と「安心感」を提供することです。
避けるべき落とし穴
冒頭の説明で避けるべきこともいくつかあります。
- デザイン思考の歴史や詳細な理論の深掘り: これはアカデミックな場ではないため、詳細な理論説明は参加者を退屈させる可能性があります。ワークショップで活用する部分に絞り、実践的な側面に焦点を当てます。
- 専門用語の羅列: 参加者が理解できない専門用語を多用すると、置いてけぼりになり、自信を失わせてしまいます。
- 長すぎる自己紹介や運営側の説明: 運営側の都合による説明は最小限にし、参加者の時間と関心を優先します。
- 一方的な講義: 参加者は受け身になり、エンゲージメントが低下します。短い時間でも参加者とのインタラクションを意識します。
まとめ
デザイン思考ワークショップの冒頭10分間は、ワークショップ全体の成功を左右する重要な時間です。ここで参加者の心をつかみ、デザイン思考の目的や価値を効果的に伝えることで、その後のプロセスへの積極的な参加を促し、質の高いアウトプットを引き出すことができます。
伝えるべき核となる要素を明確にし、参加者の背景に寄り添ったストーリーテリングや視覚資料、そしてインタラクションを意識した構成を心がけてください。デザイン思考の深い理論よりも、参加者が「なぜ今、これに取り組むべきなのか」を理解し、ワークショップを通じて何が得られるのかを実感できるような導入を目指しましょう。
効果的な導入は、参加者の満足度を高めるだけでなく、フリーランスの研修講師・コンサルタントとしての信頼性を高めることにもつながります。この記事が、皆様のデザイン思考ワークショップの成功の一助となれば幸いです。