はじめてのデザイン思考ワークショップ クライアントに「必要性」と「価値」を伝える実践ガイド
デザイン思考ワークショップの企画やファシリテーションスキルを磨くことは、サービス提供者として非常に重要です。しかし、それ以前にクライアントに「なぜ、あなたのデザイン思考ワークショップが必要なのですか?」と問われた際に、その価値を明確に伝え、納得してもらうことができなければ、サービスを提供開始する機会すら得られない場合があります。
特に、デザイン思考やワークショップ形式での研修に馴染みのないクライアントに対して、その概念や具体的な効果を分かりやすく、そしてクライアント自身の課題解決につながる形で説明することは、フリーランスの研修講師やコンサルタントにとって不可欠なスキルと言えます。
この記事では、クライアントに対してデザイン思考ワークショップの必要性と価値を効果的に伝えるための実践的なアプローチをご紹介します。クライアントとの信頼関係を築き、あなたのワークショップサービスを選んでいただくためのヒントになれば幸いです。
クライアントの「本当の課題」を深く理解する
デザイン思考ワークショップの価値を伝える上で最も重要なステップは、クライアント企業が現在直面している、あるいは将来直面しうる「本当の課題」を深く理解することです。クライアントが認識している表面的な問題だけでなく、その背景にある組織文化、社内コミュニケーションの現状、顧客ニーズの変化などを丁寧にヒアリングすることから始めます。
デザイン思考は、表層的な問題解決だけでなく、未知の課題を発見し、新しい価値を創造することに強みを持つ手法です。クライアントの課題が、既存の手法では解決が難しい複雑な問題、あるいは将来の不確実性への対応に関わるものであればあるほど、デザイン思考ワークショップの必要性を訴求しやすくなります。
ヒアリングを通じて、クライアントがどのような状況にいて、何に困っており、どうなりたいのかを明確に把握することが、その後の価値提案の土台となります。
デザイン思考ワークショップが提供できる具体的な「成果」を明確にする
デザイン思考ワークショップは、「創造的な思考ができるようになる」「チームの雰囲気が良くなる」といった抽象的な効果も期待できますが、クライアントはより具体的で測定可能な成果に関心を持つことが多いものです。クライアントの課題と関連付けながら、ワークショップを通じてどのような具体的な成果が得られるのかを明確に伝えましょう。
提供できる成果の例としては、以下のようなものが考えられます。
- 新規事業やサービスの具体的なアイデアリストとその検証計画
- ターゲット顧客のインサイト(深い洞察)の明確化
- 既存のサービスや製品における顧客体験上の課題特定と改善アイデア
- 部署間の連携強化と共通認識の醸成
- 参加者の問題発見・解決能力の向上
- 失敗を恐れずに新しいことに挑戦する組織文化の醸成
これらの成果は、クライアントが抱える課題(例: 新規事業のネタ不足、顧客離れ、社内対立など)にどのように貢献するのかを具体的に説明します。例えば、「顧客離れ」に悩むクライアントであれば、「ワークショップを通じて顧客インサイトを深く理解し、顧客体験上の課題を特定することで、顧客満足度向上につながる具体的な改善策のアイデアを創出できます」といった形で伝えます。
抽象的な概念を具体的な「体験」や「例」で伝える
デザイン思考の概念(共感、定義、アイデア発想、プロトタイプ、テストなど)は、初めて聞く方にとっては抽象的で分かりにくい場合があります。専門用語を並べるだけでなく、具体的な体験や事例を交えながら説明することが有効です。
- 短い体験セッション: 提案の段階で、デザイン思考の基本的な考え方やワークショップの進め方を体感してもらうための短い体験セッション(例えば1〜2時間程度)を提案することも効果的です。参加者が実際に手を動かし、デザイン思考のアプローチに触れることで、理解と期待感を高めることができます。
- 具体的な事例紹介: あなた自身の過去のワークショップ事例(守秘義務に配慮しつつ、プロセスや成果の概要を伝える)や、他社の成功事例を紹介します。「A社様では、このアプローチを取り入れた結果、〇〇に関する△△な課題を解決し、具体的な次のアクションプランまで落とし込むことができました」のように、可能な範囲で具体的な成果を伝えると説得力が増します。
- ワークショップの進行イメージ共有: ワークショップがどのように進むのか、各フェーズでどのようなアクティビティを行うのかを具体的に説明します。参加者が置いてきぼりにならないか、時間は有効に使われるかといったクライアントの懸念を払拭することにもつながります。
費用対効果と投資としてのリターンを提示する
ワークショップの費用について説明する際には、単なるコストとしてではなく、将来への「投資」として捉えてもらえるように説明します。ワークショップによって得られるであろう具体的な成果が、コストに見合う、あるいはそれ以上のリターン(売上向上、コスト削減、従業員エンゲージメント向上など)をもたらす可能性を示すことが重要です。
具体的な数値で示すことが難しい場合でも、ワークショップが組織にもたらす長期的な変化や、従業員のスキル向上といった無形の資産価値についても言及します。例えば、「このワークショップは、参加者の問題解決能力と協働力を高め、将来にわたる組織全体のイノベーション創出能力向上に貢献します」といった視点からの説明を加えます。
想定される質問への事前準備
クライアントからは、デザイン思考やワークショップ形式の研修について様々な疑問や懸念が寄せられることが予想されます。事前にそれらを想定し、分かりやすく説得力のある回答を準備しておきます。
想定される質問例:
- デザイン思考とは具体的にどのようなものですか?
- なぜ座学ではなくワークショップ形式なのですか?
- 参加者はどのような準備が必要ですか?
- 短時間でも効果はありますか?
- 成果はどのように測定するのですか?
- 私たちの業界や企業文化に合いますか?
- ワークショップで出たアイデアはその後どうなりますか?
これらの質問に対し、それぞれのクライアントの状況に合わせて丁寧かつ具体的に回答することで、信頼感が増し、安心してワークショップの導入を検討してもらいやすくなります。
まとめ
デザイン思考ワークショップをクライアントに提案する際は、まず相手の課題を深く理解することから始め、ワークショップがもたらす具体的な成果を明確に伝えることが不可欠です。抽象的な概念は具体的な体験や事例で示し、費用は将来への投資として位置づけ、想定される質問には事前準備をもって誠実に対応します。
これらのアプローチを通じて、クライアントはあなたの提供するデザイン思考ワークショップが、自社の課題解決や成長にとって価値のあるものであると認識し、導入へと前向きな検討を進めてくれる可能性が高まります。あなたの持つデザイン思考とワークショップのスキルを、クライアントの成功へとつなげる第一歩を踏み出してください。