はじめてのデザイン思考ワークショップ クライアントのビジネス課題に合わせた設計応用ノウハウ
デザイン思考ワークショップの提供を検討されているフリーランスの研修講師・コンサルタントの皆様、こんにちは。
「はじめてのデザイン思考ワークショップ」は、皆様が自信を持ってワークショップを企画・実行できるよう、実践的なノウハウを提供することを目指しています。
デザイン思考の基本的なプロセス(共感、定義、アイデア、プロトタイプ、テスト)を理解し、標準的なワークショップを設計できるようになった後、次に直面するのが「クライアントの具体的なビジネス課題にどう対応するか」という点ではないでしょうか。クライアントは単にデザイン思考を学びたいだけでなく、「新規事業を創出したい」「既存業務を効率化したい」「顧客満足度を高めたい」といった明確な目的を持っている場合がほとんどです。
このような多様なニーズに対し、常に同じ設計のワークショップを提供するだけでは、クライアントの期待を超える成果を出すことは難しいかもしれません。本記事では、クライアントが抱える様々なビジネス課題に対応するため、標準的なデザイン思考ワークショップの設計をどのように応用し、カスタマイズしていくかについて、具体的なノウハウを解説いたします。
クライアントのビジネス課題に応じた設計の考え方
クライアントのビジネス課題は、新規事業開発、既存事業の改善、業務プロセスの効率化、顧客体験(CX)向上、組織文化の変革など、多岐にわたります。これらの課題に対してデザイン思考のアプローチは有効ですが、課題の性質によって、ワークショップで特に焦点を当てるべきフェーズや活用すべき手法は異なります。
標準的なデザイン思考ワークショップは、一連のプロセス全体を網羅的に体験することに重点を置くことが多いです。一方、特定のビジネス課題解決を目指す場合は、以下のような点を考慮し、設計を調整する必要があります。
- 課題の性質に合わせたフェーズの重点化: 新規事業開発なら共感・アイデア、業務改善なら定義・アイデア、顧客体験向上なら共感・プロトタイプなど、課題解決に直結するフェーズに時間を多く割く。
- 特定のツール・手法の活用: 課題解決に最も効果的なツールや手法を重点的に取り入れる。
- 参加者の選定: 課題解決に必要な知識や視点を持つ関係者を幅広く巻き込む。
- アウトプットの具体性: ワークショップ後、すぐにアクションにつながる具体的な成果物を設定する。
具体的なビジネス課題への応用設計例
ここでは、代表的なビジネス課題を例に、デザイン思考ワークショップの設計応用ポイントを解説します。
ケース1:新規事業開発・イノベーション推進
新しい製品やサービス、ビジネスモデルを生み出すことを目的とする場合です。不確実性が高く、未知の領域を探求する必要があります。
- 設計のポイント:
- 共感・定義フェーズの深掘り: ターゲット顧客の潜在ニーズやインサイト、市場環境の理解に多くの時間を割きます。デスクトップリサーチだけでなく、顧客インタビューや観察などのフィールドワークをワークショップのアクティビティに組み込むことも有効です。
- アイデア発想の多様性: 既存の枠にとらわれない、ブレインストーミングなど多様な発想手法を積極的に活用し、大胆なアイデアを歓迎する雰囲気を作ります。
- プロトタイプ・テストの重視: アイデアの検証が最も重要です。紙やレゴブロックを使ったラフなものから、モックアップや簡易的なサービス体験まで、様々なレベルのプロトタイプを作成し、素早くテストを繰り返すサイクルを設計に組み込みます。
- 活用しやすいツール・手法例:
- ペルソナ
- カスタマージャーニーマップ
- ブレインストーミング(KJ法、SCAMPERなど)
- リーンキャンバス/ビジネスモデルキャンバス
- 高速プロトタイピング手法
ケース2:既存事業改善・業務効率化
既存の製品・サービスの改善、社内業務プロセスの見直しによる効率化などを目的とする場合です。現状分析に基づき、現実的な解決策を見出すことが求められます。
- 設計のポイント:
- 定義フェーズの綿密化: 現在の課題やボトルネックを正確に特定することに重点を置きます。現場の担当者からのヒアリングやデータ分析結果の共有をワークショップ前後のアクティビティとして設定します。
- アイデア発想の絞り込み: 実現可能性や費用対効果を考慮しつつ、複数の改善アイデアを創出します。アイデアの評価・選定基準を明確にすることが重要です。
- プロトタイプ・テストの検証: 提案された改善策が現場で機能するか、定量・定性的な効果があるかを確認するための小規模な試行(プロトタイプ)と評価(テスト)を行います。
- 活用しやすいツール・手法例:
- As-Is/To-Beプロセス分析
- サービスブループリント(顧客だけでなく、社内のバックステージも分析する場合)
- 課題の構造化(イシューツリーなど)
- リーン思考の原則(ムダの特定など)
ケース3:顧客体験(CX)向上
製品やサービスの顧客体験をより良くすることを目的とする場合です。顧客視点での深い理解と、顧客との接点における具体的な改善策が鍵となります。
- 設計のポイント:
- 共感フェーズの徹底: 顧客の視点に立ち、彼らの体験、感情、ニーズ、ペインポイントを深く理解することに最も時間をかけます。顧客インタビュー、観察、アンケート結果分析などをワークショップのアウトプットに反映させます。
- 定義フェーズでのペインポイント特定: 顧客体験のどのタッチポイント、どの瞬間に課題があるのかを明確に定義します。
- プロトタイプ・テストの顧客巻き込み: 改善アイデアが顧客にどのような体験をもたらすかを検証するため、顧客に参加してもらう形でのプロトタイプやテストを実施します。
- 活用しやすいツール・手法例:
- カスタマージャーニーマップ(ペインポイントと改善機会の特定)
- サービスブループリント(顧客接点と内部プロセスの関連把握)
- 顧客インタビュー
- コンテクスチュアル・インクワイアリ(顧客が実際にサービスを利用している状況での観察)
設計応用における共通の考慮事項
どのようなビジネス課題に対応する場合でも、設計を応用する際に共通して考慮すべき重要な点があります。
- クライアントとの密なコミュニケーション: ワークショップの目的、期待する成果、参加者、時間、予算などの制約条件について、クライアントと事前に徹底的にすり合わせます。課題の背景や現状を深く理解することが、適切な設計応用の出発点となります。
- ファシリテーションの柔軟性: 課題テーマに合わせて、各フェーズでの問いかけや議論の方向性を調整します。特定のフェーズに時間をかける分、他のフェーズを簡潔に進める判断も必要になります。
- アウトプットとネクストステップの明確化: ワークショップで得られた成果物が、クライアントのビジネス課題解決に向けてどのように活用されるのか、その後のアクションプランを明確にします。これにより、ワークショップの単なるイベントに終わらず、継続的な価値提供につながります。
まとめ
フリーランスの研修講師・コンサルタントとして、デザイン思考ワークショップをビジネスとして提供していく上で、クライアントの具体的なビジネス課題に対応できる応用力は非常に重要です。標準的なデザイン思考プロセスを理解した上で、本記事で解説したように、クライアントの課題の種類に合わせて特定のフェーズを重点化したり、効果的なツールや手法を選択したりする設計応用ノウハウを磨いていくことが、サービスの価値を高め、信頼を得る鍵となります。
まずは身近なビジネス課題や得意とする分野に関連する課題テーマから、設計応用の実践を始めてみてはいかがでしょうか。経験を重ねることで、より幅広いクライアントニーズに対応できるようになります。
次回以降の記事では、さらに具体的なワークショップの設計例や、特定のビジネス課題に特化したワークショップの進め方について、掘り下げて解説していく予定です。皆様のワークショップ企画・実行の参考になれば幸いです。