はじめてのデザイン思考ワークショップ アナログワークの良さを活かす!デジタルツール導入・移行実践ガイド
デザイン思考ワークショップの企画やファシリテーションに携わるフリーランスの皆様にとって、アナログでのワークショップは馴染み深いかもしれません。模造紙いっぱいのアイデア、ポストイットが壁一面に貼られた様子は、創造的なプロセスの象徴とも言えます。
しかし、時代の変化と共に、ワークショップの形態も多様化しています。オンラインでの開催が増加し、対面での開催でもデジタルツールを併用するハイブリッド形式が一般的になりつつあります。このような状況下で、アナログワークショップで培った経験を活かしつつ、デジタルツールを効果的に導入・移行する方法を知りたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、アナログワークの良さを維持しながら、デザイン思考ワークショップにデジタルツールを導入・移行するための実践的なガイドを提供します。どのようなツールがあり、どのように選ぶか、そして導入・移行する際の具体的なステップと注意点について解説いたします。
デザイン思考ワークショップにおけるデジタルツールの役割
デザイン思考の各フェーズにおいて、デジタルツールは様々な形で貢献できます。
- 共感(Empathize): オンラインでのインタビュー記録、顧客ジャーニーマップのデジタル化、リサーチデータの共有・整理。
- 定義(Define): 課題の整理、ペルソナ作成、Why-How-Whatなどの問いの構造化。
- アイデア発想(Ideate): ブレスト、KJ法などの手法をデジタルボード上で実施、アイデアの分類・グルーピング。
- プロトタイプ(Prototype): ラフスケッチのデジタル化、簡易的な画面遷移図やストーリーボード作成。
- テスト(Test): オンラインでのユーザーテスト実施、フィードバックの収集・記録。
これらのプロセス全体を通じて、デジタルツールは情報の共有、編集、蓄積を容易にし、ワークショップの効率と成果物の再活用性を高める可能性を秘めています。
主なデジタルツールの種類と特徴
デザイン思考ワークショップで活用できるデジタルツールは多岐にわたります。代表的なものをいくつかご紹介します。
- オンラインホワイトボードツール: Miro, Mural, FigJamなど。広大な仮想空間上で、複数の参加者が同時に付箋を貼ったり、図を描いたり、情報を整理したりできます。アナログの模造紙やポストイットに最も近い感覚で利用できるため、アイデア発想や情報整理のフェーズで非常に有効です。テンプレートが豊富に用意されているツールも多くあります。
- 共同編集ドキュメント・スプレッドシートツール: Google Workspace (Docs, Sheets, Slides), Microsoft 365 (Word, Excel, PowerPoint)など。テキストベースの情報を共有したり、簡単な表を作成したり、プレゼンテーション資料を共同で作成したりするのに適しています。リサーチ結果のまとめや、ワークショップのアウトプットの最終的な整理に活用できます。
- ビデオ会議ツール: Zoom, Microsoft Teams, Google Meetなど。これらのツール自体にもチャット機能や画面共有機能、ブレイクアウトルーム機能などがあり、オンラインワークショップ実施の基盤となります。オンラインホワイトボードツールなどと連携して使用することが一般的です。
- タスク管理・プロジェクト管理ツール: Trello, Asana, Notionなど。ワークショップで生まれたアイデアや次のアクションアイテムを管理し、実行につなげるために使用できます。参加者がワークショップ後も継続的に関わる場合に有効です。
アナログワークをデジタル化する具体的な手法
アナログワークショップでよく使う手法をデジタルツール上でどのように再現・進化させるか、具体的な例を挙げます。
- ポストイットを使ったアイデア発想・整理:
- アナログ: 付箋にアイデアを書き、模造紙に貼り、グルーピングする。
- デジタル: オンラインホワイトボードの付箋機能を使用。キーボード入力で簡単に編集でき、色分けやサイズ変更も自在。ドラッグ&ドロップでグルーピングや移動が素早く行えます。検索機能で特定のキーワードを含む付箋を見つけ出すことも可能です。
- 模造紙でのKJ法やカスタマージャーニーマップ作成:
- アナログ: 模造紙に情報を書き込み、図や矢印を書き足す。
- デジタル: オンラインホワイトボードの広いキャンバスを使用。テンプレートを活用すれば、短時間でフレームを作成できます。要素の追加・削除・編集が容易で、何度でも修正・改善できます。図形描画ツールやアイコンも利用可能です。
- ホワイトボードでの議論の可視化:
- アナログ: ホワイトボードに議論の要点を書き出し、図解する。
- デジタル: オンラインホワイトボードでリアルタイムに書き込みを共有。画面共有機能を活用し、参加者全員が同じ画面を見ながら議論できます。ホワイトボードの内容はデータとして保存・共有が容易です。
デジタルツール導入・移行のメリットとデメリット
デジタルツールの導入・移行には、それぞれメリットとデメリットが存在します。これらを理解した上で検討を進めることが重要です。
メリット:
- 場所と時間の制約緩和: オンラインでの開催や、参加者が異なる場所にいても同時にワークできるため、地理的な制約を受けにくくなります。事前の情報共有や事後の作業も非同期で行いやすくなります。
- 情報の共有と再活用が容易: ワークショップの過程や成果物がデータとして保存されるため、参加者への共有が迅速に行えます。また、後から編集したり、別の資料に転用したりするのが簡単です。
- 効率的な作業: 付箋の移動やグルーピング、情報の複製などがアナログよりも高速に行える場合があります。また、タイピングによる文字情報の入力は、手書きよりも正確で読みやすいことが多いです。
- 記録の自動化: デジタルボード上の操作ログや最終状態は自動的に記録されます。これにより、議事録作成の手間を減らすことができます。
デメリット:
- ツールの習熟コスト: 参加者、そしてファシリテーター自身がツールの基本的な使い方を習得する必要があります。ツールの操作に慣れていない参加者がいる場合、進行の妨げになる可能性があります。
- 参加者のITリテラシー格差: 参加者によってデジタルツールの利用経験に差がある場合、ツールの操作に関するサポートが必要になることがあります。
- 非言語情報や偶発性の減少: オンラインでは対面と比べて参加者の表情や雰囲気を読み取りにくく、休憩時間などの偶発的なコミュニケーションが生まれにくい側面があります。
- ネットワーク環境への依存: オンラインでの開催や、クラウドベースのツールを使用する場合、安定したネットワーク環境が不可欠です。
アナログの良いところを活かす工夫
デジタルツールを導入するからといって、アナログの良い側面を全て捨てる必要はありません。アナログならではの価値を理解し、必要に応じて組み合わせたり、デジタルで補完したりすることが大切です。
- 物理的な体験の価値: 実際に手を動かして書く、貼るといった身体的な行為は、思考を活性化させたり、アイデアへの愛着を生んだりする効果があります。対面でのワークショップであれば、一部のアクティビティをアナログで実施することも有効です。
- 場の雰囲気: 対面でのワークショップでは、参加者同士の物理的な距離感や空間の共有が、一体感や活発な議論を生み出します。オンラインでも、アイスブレイクを工夫したり、休憩時間に雑談の機会を設けたりすることで、これに近い雰囲気作りを目指せます。
- 参加者の集中力: デジタルツールは便利ですが、画面を見続けることによる疲労や、ツールの機能に気を取られすぎることがあります。適度にアナログでの活動を取り入れたり、休憩を挟んだりすることで、参加者の集中力を維持する工夫が必要です。
デジタルツール導入・移行の実践ステップ
デジタルツールをワークショップに導入・移行する際は、以下のステップを参考に計画を進めることをお勧めします。
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目的とニーズの明確化:
- なぜデジタルツールを導入したいのか?(例: オンライン対応、効率化、成果物活用)
- どのようなワークショップで利用するか?(例: オンライン研修、対面でのブレスト補助)
- 参加者のITリテラシーレベルはどの程度か?
- 予算やセキュリティ要件は?
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ツールの調査と選定:
- 目的とニーズに合ったツールをいくつか候補に挙げる。
- 無料トライアルなどを活用し、実際に使ってみる。
- 操作性、機能、コスト、他のツールとの連携などを比較検討する。
- 参加者にとって使いやすいかという視点も重要です。
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スモールスタートとテスト実施:
- いきなり本番で全てのツールを使うのではなく、まずは小規模なワークショップや、特定のフェーズでのみ導入してみる。
- 身近な同僚や友人に協力してもらい、ツールの操作テストやワークフローのリハーサルを行う。
- 参加者になりきって操作してみることで、潜在的な課題が見えてきます。
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参加者への事前案内とサポート体制構築:
- ワークショップで使用するツール、その目的、基本的な操作方法を事前に参加者に案内する。
- 必要であれば、簡単な操作マニュアルを配布したり、事前の接続テスト・操作説明会を実施したりする。
- ワークショップ当日、ツールの操作に関する質問に対応できるサポート体制を準備しておく。
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ファシリテーションの調整:
- デジタルツール使用時は、画面共有の方法、指示の出し方、参加者の発言を促すタイミングなどを調整する必要があります。
- 参加者の画面上での動きを注意深く観察し、困っている人がいないか配慮する。
- チャット機能の活用ルールなども事前に決めておくとスムーズです。
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実施後の振り返り:
- ワークショップ終了後、ツール活用が効果的だったか、課題はなかったかを振り返る。
- 参加者からのフィードバックを収集し、次回の改善につなげる。
まとめ
デザイン思考ワークショップへのデジタルツールの導入・移行は、現代のワークショップのあり方に対応するために非常に有効な手段です。オンラインでの実施を可能にするだけでなく、対面やハイブリッド形式においても、情報の共有、整理、成果物活用を効率化し、ワークショップの質を高める可能性を秘めています。
ツール選びから導入、ファシリテーションの調整に至るまで、検討すべき点はいくつかありますが、まずは目的を明確にし、スモールスタートで試してみることをお勧めします。アナログワークの良さを活かしつつ、デジタルのメリットを上手に取り入れることで、より多くの参加者に価値を提供できるワークショップを実現できるでしょう。一歩ずつ、デジタルツールをあなたのワークショップ設計に取り入れてみてください。